◇大学と連携・出前講座…取り組み様々
工業や商業、農業など専門学科を学ぶ専門高校が元気だ。中学3年生が対象の進路希望調査では、5年ぶりに倍率が1倍を超えた。長引く不況で実学志向が強まったほか、専門高校同士や大学との連携、中学校への出前講座など多様な取り組みが広がっている。
◇中学でキャリア教育
県東部の専門高校の教員らが、中学校でキャリア教育をする取り組みが始まった。杉戸農業、幸手商業、久喜工業、春日部工業が合同し、杉戸町立杉戸中学校で2日、ねじ作りやコンピューターのプログラミング、食品作りなどを指導した。
中心となった杉戸農業の大木充校長は「専門高校で何を学ぶかを知ってもらい、将来の進路を考えるきっかけにしてもらいたい」と狙いを話す。
杉戸農業の食品流通科が担当したみそ作りでは、用意された蒸し煮大豆を生徒たちがつぶし、こうじや塩と混ぜ合わせた。みそ玉にしたあと空気が入らないように容器に詰め、約1キロ分ができあがった。冷蔵庫で1年ほど寝かせると完成する。2年生の男子生徒は「家で料理の手伝いはしないけれど、こねるのが楽しかった」。
専門高校によるキャリア教育は、25日に武蔵野中(越谷市)、12月6日に谷原中(春日部市)、来年1月31日に久喜中(久喜市)でそれぞれ実施予定。中学校側の希望もあり、越谷総合技術や誠和福祉、八潮南なども加わる計画だ。
幸手商業の益子篤行校長は「高学歴社会になるほど、中学生くらいの子どもたちが夢を描きにくくなる。中学生が将来に夢を持てるような取り組みをしていきたい」と話した。
◇連携して商品を開発
複数の専門高校が連携する動きも広がっている。
川越工業と常盤は今秋、不足しがちな栄養素を配合した緑茶を一緒に作った。
常盤の看護科生徒が、自校の生徒の食生活を調べるなどして、どんな栄養素が足りないかを研究。緑茶にカテキンや葉酸などを加えることを決めた。
両校の生徒は味見を重ね、川越工業のデザイン科の生徒がラベルの制作を担った。三国コカ・コーラボトリング(桶川市)が協力し、来年以降、狭山茶をベースにして、県のマスコットをあしらった「コバトン緑茶」として販売する構想もある。
デザイン科3年の原田叶さんは「企画の意図を深く知ることで、製品の狙いをきちんと伝えられるデザインを実現できた」と話す。
一方、川越工業の建築科は、誠和福祉の福祉科と協力。車いすと組みあわせて使うテーブルや、リハビリに使うパズルを制作している。障害者の意見を聞いて改良を重ね、商品化に向けて検討中だ。
川越工業の井上茂雄教頭は「多くの専門家が関わって商品が作られていることを実感できる貴重な試み。専門分野が異なる仲間と付き合うことで、生徒の視野も広がる」と話す。
県内では、学科の枠を超えて連携する動きが広がっている。それぞれの専門領域を学ぶだけでなく、商品の企画や生産、広告、販売などに目を向けることで、生徒のやる気が高まり、職業選択にも役立つ、という期待もある。
◇大学が指導 人工衛星
新座総合技術は今年度、東京大大学院工学系研究科の指導を受け、2、3年生の生徒約20人が、小型人工衛星の製作に取り組んだ。科学技術振興機構が進めるプロジェクトの一環だ。
気球で高さ約50メートルまで上げたあと、パラシュートで降下させ、搭載した機器で映像を撮影したり温度を測ったりする。指示の通りに正確に機械を作動させ、データを地上で受信する実験で、原理は本物の衛星と同じだ。生徒自身がシステムに何が必要なのか考える。
中心メンバーの情報技術科3年の柴崎渉さんは「図書館で本を借りて解決策を探した。大変でした」と話す一方、「以前は漠然とプログラムを作りたいと思っていたが、今は、もともと興味のあった衛星のシステムに組み込むプログラムを作りたいと、具体的に考えるようになった」。来春には理工系の大学に進むという。
同校は、東海大や東洋大などの教授らによる出前授業もある。生徒の約7割が専門学校も含めて進学するといい、岩上敏明校長は「大学との連携は、高校の授業内容がどのような意味を持つか、生徒自身が確認するよい機会になっている」と話す。
◇専門学科志願者 2年連続し上昇/5年ぶり1倍超
専門学科の志願者は2年連続で増加した。県教育局が今年10月、来年3月卒業予定の中3生の進路希望を調べたところ、県内の全日制公立高の専門学科を希望する生徒は前年同期比7%増の9087人。募集定員に対する倍率は1・07倍で、5年ぶりに1倍を超え、2001年以来の高い水準となった。
高校教育指導課の担当者は「高卒者の就職環境が厳しいなか、高度な資格取得を応援するなど、就職に結びつく指導が希望者の増加につながった」と分析し、「出前講座など中学生への積極的なPRも奏功した」と話している。
川越工業デザイン科3年の生徒9人がつくった「コバトン緑茶」。それぞれが商品デザインを考案した=川越市
2011年11月19日 朝日新聞
工業や商業、農業など専門学科を学ぶ専門高校が元気だ。中学3年生が対象の進路希望調査では、5年ぶりに倍率が1倍を超えた。長引く不況で実学志向が強まったほか、専門高校同士や大学との連携、中学校への出前講座など多様な取り組みが広がっている。
◇中学でキャリア教育
県東部の専門高校の教員らが、中学校でキャリア教育をする取り組みが始まった。杉戸農業、幸手商業、久喜工業、春日部工業が合同し、杉戸町立杉戸中学校で2日、ねじ作りやコンピューターのプログラミング、食品作りなどを指導した。
中心となった杉戸農業の大木充校長は「専門高校で何を学ぶかを知ってもらい、将来の進路を考えるきっかけにしてもらいたい」と狙いを話す。
杉戸農業の食品流通科が担当したみそ作りでは、用意された蒸し煮大豆を生徒たちがつぶし、こうじや塩と混ぜ合わせた。みそ玉にしたあと空気が入らないように容器に詰め、約1キロ分ができあがった。冷蔵庫で1年ほど寝かせると完成する。2年生の男子生徒は「家で料理の手伝いはしないけれど、こねるのが楽しかった」。
専門高校によるキャリア教育は、25日に武蔵野中(越谷市)、12月6日に谷原中(春日部市)、来年1月31日に久喜中(久喜市)でそれぞれ実施予定。中学校側の希望もあり、越谷総合技術や誠和福祉、八潮南なども加わる計画だ。
幸手商業の益子篤行校長は「高学歴社会になるほど、中学生くらいの子どもたちが夢を描きにくくなる。中学生が将来に夢を持てるような取り組みをしていきたい」と話した。
◇連携して商品を開発
複数の専門高校が連携する動きも広がっている。
川越工業と常盤は今秋、不足しがちな栄養素を配合した緑茶を一緒に作った。
常盤の看護科生徒が、自校の生徒の食生活を調べるなどして、どんな栄養素が足りないかを研究。緑茶にカテキンや葉酸などを加えることを決めた。
両校の生徒は味見を重ね、川越工業のデザイン科の生徒がラベルの制作を担った。三国コカ・コーラボトリング(桶川市)が協力し、来年以降、狭山茶をベースにして、県のマスコットをあしらった「コバトン緑茶」として販売する構想もある。
デザイン科3年の原田叶さんは「企画の意図を深く知ることで、製品の狙いをきちんと伝えられるデザインを実現できた」と話す。
一方、川越工業の建築科は、誠和福祉の福祉科と協力。車いすと組みあわせて使うテーブルや、リハビリに使うパズルを制作している。障害者の意見を聞いて改良を重ね、商品化に向けて検討中だ。
川越工業の井上茂雄教頭は「多くの専門家が関わって商品が作られていることを実感できる貴重な試み。専門分野が異なる仲間と付き合うことで、生徒の視野も広がる」と話す。
県内では、学科の枠を超えて連携する動きが広がっている。それぞれの専門領域を学ぶだけでなく、商品の企画や生産、広告、販売などに目を向けることで、生徒のやる気が高まり、職業選択にも役立つ、という期待もある。
◇大学が指導 人工衛星
新座総合技術は今年度、東京大大学院工学系研究科の指導を受け、2、3年生の生徒約20人が、小型人工衛星の製作に取り組んだ。科学技術振興機構が進めるプロジェクトの一環だ。
気球で高さ約50メートルまで上げたあと、パラシュートで降下させ、搭載した機器で映像を撮影したり温度を測ったりする。指示の通りに正確に機械を作動させ、データを地上で受信する実験で、原理は本物の衛星と同じだ。生徒自身がシステムに何が必要なのか考える。
中心メンバーの情報技術科3年の柴崎渉さんは「図書館で本を借りて解決策を探した。大変でした」と話す一方、「以前は漠然とプログラムを作りたいと思っていたが、今は、もともと興味のあった衛星のシステムに組み込むプログラムを作りたいと、具体的に考えるようになった」。来春には理工系の大学に進むという。
同校は、東海大や東洋大などの教授らによる出前授業もある。生徒の約7割が専門学校も含めて進学するといい、岩上敏明校長は「大学との連携は、高校の授業内容がどのような意味を持つか、生徒自身が確認するよい機会になっている」と話す。
◇専門学科志願者 2年連続し上昇/5年ぶり1倍超
専門学科の志願者は2年連続で増加した。県教育局が今年10月、来年3月卒業予定の中3生の進路希望を調べたところ、県内の全日制公立高の専門学科を希望する生徒は前年同期比7%増の9087人。募集定員に対する倍率は1・07倍で、5年ぶりに1倍を超え、2001年以来の高い水準となった。
高校教育指導課の担当者は「高卒者の就職環境が厳しいなか、高度な資格取得を応援するなど、就職に結びつく指導が希望者の増加につながった」と分析し、「出前講座など中学生への積極的なPRも奏功した」と話している。
川越工業デザイン科3年の生徒9人がつくった「コバトン緑茶」。それぞれが商品デザインを考案した=川越市
2011年11月19日 朝日新聞