◆高齢者・障害者の再犯防止支え2年◆
罪を犯した身寄りのない高齢者や障害者は刑期を終えて刑務所を出た後、再び罪を犯すことが多いという。県地域生活定着支援センター(松江市東津田町)は、こうした人たちが自立し生活できるように開設された施設で、28日で2年となった。ただ周知は進まず手探りの状態が続いている。
2010年4月、県から委託を受けた県社会福祉協議会が立ち上げた。支援している男女45人(8人は所在不明など)は高齢者や障害者で、生活苦から万引きなどの窃盗の罪を犯した人が7割。刑務所に1~2度入った人が半数を占める。
支援対象となるのは、障害者や高齢者▽身寄りがない▽本人が希望――など六つの条件に合う人。情報は県内の刑務所から松江保護観察所に届き、支援センターへ。他県のセンターから直接、依頼が入る場合もある。支援センターでは、社会福祉士の資格を持つ職員らが本人と面接。年金などの申請や福祉施設への入所、就労など自立に向けた支援に動き出す。
◆受け入れ側に「不安」も◆
県内でも支援が受けられるようになってきたが、受け皿となる福祉施設の理解はまだ得にくい。不景気の影響で就職も難しい。協力を求める立場の支援センターには「犯罪者にそこまでする必要があるのか」などの声も寄せられている。
昨年5月、受け入れ側の考えを知るため高齢者、障害者施設など全549事業所にアンケート。約8割が回答し、受け入れには「積極的」「ケースによって検討」が約6割を占めたが、不安の意見もあった。
50代男性を受け入れた施設長(53)は制度を福祉関係者の研修会で知った。反対はなかったが心配する声があり、1週間働いてもらって決めた。「トラブル発生時の具体的な支援策や施設側の不安を取り除く啓発が必要だ」と指摘する。
センターは各施設と調整を重ね、10月に専門研修会を予定。受け入れ施設が孤立しないよう対象者の入所中から、出所後に暮らす予定地の行政や相談支援事業所などと地域密着で支える体制作りを進めるという。
足立卓久(たか・ひさ)所長は「支えようとしているのは、必要だった福祉の支援が届かなかった人たち。受け入れの条件を整え居場所が出来れば罪は犯さない」と話す。(藤田絢子)
◆今は仕事 生きがい◆
松江市の障害者通所施設で、関東出身の50代男性が1年半ほど前から箱折り作業などの下請け仕事をしている。
元とび職。雇い主と合わずに職場を飛び出し、空腹で食べ物を万引きして逮捕された。執行猶予付きの判決を受けた後、再び数百円の総菜を盗んだ。今度は懲役1年4カ月の実刑で、官民共同の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」(浜田市)で服役した。
施設は支援センターの紹介だった。面接で軽度の知的・身体障害もわかり、職員が障害者手帳の申請や住居も確保してくれた。今は平日の午前10時から午後3時まで働いて月約9千円の工賃を得る。障害者年金なども受け、生活支援員の助言で1日1千円でやりくり。以前の居住地の滞納していた住民税など約90万円の負債も完済し、少しずつだが蓄えもできてきた。
男性は「食べるために罪を犯したが、今は仕事が生きがい。施設に入らなかったらまたやったかもしれない。貯金をもっとためて娘に会いたい」と話した。
■地域生活定着支援センター
刑務所に服役する65歳以上や身体・知的・精神障害者の出所後を支え、自立を促して再犯を防ぐことを目的に国が2009年、都道府県に設置を指示した。10年度は38センターで延べ653人が支援を受けた。今年3月、新潟県の設置で全国にできた。法務省の10年の統計では、全国の受刑者のうち7・8%が高齢者。新たな入所者の2割以上が知的障害の疑いがあるとしている。

朝日新聞 - 2012年04月29日
罪を犯した身寄りのない高齢者や障害者は刑期を終えて刑務所を出た後、再び罪を犯すことが多いという。県地域生活定着支援センター(松江市東津田町)は、こうした人たちが自立し生活できるように開設された施設で、28日で2年となった。ただ周知は進まず手探りの状態が続いている。
2010年4月、県から委託を受けた県社会福祉協議会が立ち上げた。支援している男女45人(8人は所在不明など)は高齢者や障害者で、生活苦から万引きなどの窃盗の罪を犯した人が7割。刑務所に1~2度入った人が半数を占める。
支援対象となるのは、障害者や高齢者▽身寄りがない▽本人が希望――など六つの条件に合う人。情報は県内の刑務所から松江保護観察所に届き、支援センターへ。他県のセンターから直接、依頼が入る場合もある。支援センターでは、社会福祉士の資格を持つ職員らが本人と面接。年金などの申請や福祉施設への入所、就労など自立に向けた支援に動き出す。
◆受け入れ側に「不安」も◆
県内でも支援が受けられるようになってきたが、受け皿となる福祉施設の理解はまだ得にくい。不景気の影響で就職も難しい。協力を求める立場の支援センターには「犯罪者にそこまでする必要があるのか」などの声も寄せられている。
昨年5月、受け入れ側の考えを知るため高齢者、障害者施設など全549事業所にアンケート。約8割が回答し、受け入れには「積極的」「ケースによって検討」が約6割を占めたが、不安の意見もあった。
50代男性を受け入れた施設長(53)は制度を福祉関係者の研修会で知った。反対はなかったが心配する声があり、1週間働いてもらって決めた。「トラブル発生時の具体的な支援策や施設側の不安を取り除く啓発が必要だ」と指摘する。
センターは各施設と調整を重ね、10月に専門研修会を予定。受け入れ施設が孤立しないよう対象者の入所中から、出所後に暮らす予定地の行政や相談支援事業所などと地域密着で支える体制作りを進めるという。
足立卓久(たか・ひさ)所長は「支えようとしているのは、必要だった福祉の支援が届かなかった人たち。受け入れの条件を整え居場所が出来れば罪は犯さない」と話す。(藤田絢子)
◆今は仕事 生きがい◆
松江市の障害者通所施設で、関東出身の50代男性が1年半ほど前から箱折り作業などの下請け仕事をしている。
元とび職。雇い主と合わずに職場を飛び出し、空腹で食べ物を万引きして逮捕された。執行猶予付きの判決を受けた後、再び数百円の総菜を盗んだ。今度は懲役1年4カ月の実刑で、官民共同の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」(浜田市)で服役した。
施設は支援センターの紹介だった。面接で軽度の知的・身体障害もわかり、職員が障害者手帳の申請や住居も確保してくれた。今は平日の午前10時から午後3時まで働いて月約9千円の工賃を得る。障害者年金なども受け、生活支援員の助言で1日1千円でやりくり。以前の居住地の滞納していた住民税など約90万円の負債も完済し、少しずつだが蓄えもできてきた。
男性は「食べるために罪を犯したが、今は仕事が生きがい。施設に入らなかったらまたやったかもしれない。貯金をもっとためて娘に会いたい」と話した。
■地域生活定着支援センター
刑務所に服役する65歳以上や身体・知的・精神障害者の出所後を支え、自立を促して再犯を防ぐことを目的に国が2009年、都道府県に設置を指示した。10年度は38センターで延べ653人が支援を受けた。今年3月、新潟県の設置で全国にできた。法務省の10年の統計では、全国の受刑者のうち7・8%が高齢者。新たな入所者の2割以上が知的障害の疑いがあるとしている。

朝日新聞 - 2012年04月29日