新年も早いもので3週間が過ぎ、さすがにもうお正月ムードではなくなりましたよね。僕のほうは、昨年から進行中の車椅子作製プロジェクトがいよいよ大詰めに入り、メーカーさんと最後の調整を続けているところです。
1月は行き、2月は逃げ、3月は去る。まさに、光陰矢のごとしですね。
今回のタイトルは、(障害者という生き方)。少し堅苦しくなってしまいましたが、新年の御挨拶の続きのつもりで、僕が毎日を過ごすうえで大切にしている目印というか、自分の中のルールをいくつかお話ししたいと思います。
では早速、ルールその1。
(外出時の行動はできるだけパターン化する)
このブログでも何度かお話ししているように、僕は日常的に、ヘルパーさんや学生ボランティアさんと関わりを持って暮らしています。そういった、親以外の介助者といかにして円滑な関係を築いていくかということを考えた時、(行動のパターン化)ということが非常に大切なキーワードになってきます。
親以外の介助者、特に学生ボランティアさんの場合は人の入れ替わりが激しく、活動期間もその人によってまちまちです。本来なら、一人一人の学生さんにその都度丁寧に介助内容を説明していくのが理想なのですが、人数が多くなってくるとなかなかその時間も取れない。そんな場合、介助内容をあらかじめマニュアル化しておけば、学生さんのほうはそれを読むだけでいいので、個々人に詳しく介助について説明をする時間が省けます。
具体的に言うと、現在学生さんにお願いしている外出ボランティアは、(午前中は図書館に行って本を借り、午後からはファミレスで雑談をする)というものなのですが、このように大きな流れを決めておいて、学生さんにそれを覚えてもらう。いったんマニュアルが定着すれば、あとはそれを次世代のメンバーに引き継ぐだけなので、格段に効率化がはかれます。
行動をパターン化することは、行きつけの場所を増やすことでもあります。皆さんも日常生活の中で、さほど意識しなくても、(買い物するならこのコンビニ)という風に、目的ごとに足を運ぶ店が決まっているのではないでしょうか。僕も、学生さんとはいつも同じファミレスで食事をすることにしています。
同じ場所にある程度の頻度で通っていれば、そこの店員さんや職員さんと自然に仲良くなり、いつしか居心地が良くなります。さらに通い詰め、介助者を通さずに直接その人とコミュニケーションが取れるようになれば、こんなにうれしいことはありません。幸いなことに、車椅子に乗っているというのはそれだけでとても目立つようで、どこに行っても1、2回で顔と名前を覚えてもらえます。
ルールその2。
(介助は基本的に学生さんにまかせる)
僕はこれまで、何十人という学生さんに介助をお願いしてきました。学生さんにも個性がありますから、当然、介助方法も違いが出ます。たとえば、食事介助一つとっても、終始スプーンだけを使うのか、それとも箸やフォークをバランスよく使うのか。そうした細かい部分も、人によってまったく違うのです。
それだけではありません。ご飯とおかずを交互に減らしていく人もいれば、どちらか一方を集中的に片付けてしまう人もいる。
それでも、僕は何も言いません。初めてくる学生さんにはとりあえず、一通りの介助をまかせてみて、そのうえで、あまりにも不都合な点があれば、あとでまとめて注意する。あまりにも最初から細かく注意してしまうと、学生さんの個性がわからなくなってしまいますよね。
ルールといえば、「アピタル」の連載でも、(エッセイについては最低5枚書く!)という宣言をさせていただきました。原稿用紙5枚といえば、約2000文字。エッセイというかたちで何かまとまった意見を伝えるには、このぐらいの分量がちょうどよいんですよね。
もっとも、ストーリー性を重視したショートショートの場合には、5枚程度ではおさまりきらず、10枚を超えてしまう作品もあります。細かい枚数制限を気にしなくてよいというのは、ネット連載の利点だと思っています。
少し話はそれてしまいますが、最近のノーマライゼーション運動を見ていて、違和感を覚えることがあります。
ここ数年、障害者という呼び方が差別的な響きを含んでいるということで、(障碍者)や(障がい者)といった書き方に改めようという動きがありますが、僕は納得できません。表記を少し変えたからといって、何が変わるというのでしょう。それよりも、制度の根本的な欠陥やより画期的な社会保障システムなど、知恵を絞るべきポイントはいくらでもあるはずなのに。
もちろん、障害者と呼ばれて傷つく人がいるのなら、その声には真摯に耳を傾ける必要があると思います。けれど、だからといって、表面上の言葉だけを変え、そのことで問題の本質から目をそむけようとする動きには、絶対に反対です。
1月も残り2週間。今年の予定はもう立てましたか? 次週は、自分のスケジュールに翻弄される男の、悲しくも滑稽な物語。
立石芳樹 (たていし・よしき)
1988年、神奈川県生まれ。生まれてすぐに脳性マヒ(CP)と診断される。中学校の頃から本格的に創作活動を始める。専門はショートショート。趣味は読書と将棋。座右の銘は「一日一笑」。
朝日新聞-2013年1月21日