1、はじめに
平成25年4月より「障害者総合支援法」が施行され、さらに先の通常国会会期末前の6月14日には「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、「雇用促進法」と略)が改正されました。この二つの立法措置により、今後、障害者の就労支援事業が大きく前進するものと期待されています。
我が国の障害者の雇用に関しては、これまでの法整備と国・自治体の支援政策の推進、そして受け入れ企業の努力などにより就労者数は大きく伸びてきており、現在、5人以上の事業所で働いている障害者は、身体障害者が約34万6000人、知的障害者が約7万3000人、精神障害者が約2万9000人、総計で約44万8000人となっています(平成20年事業所調査)。しかし、精神障害者については、これまで雇用が義務づけされてこなかったこともあって近年、就労が伸びておらす、国としても大きな課題の一つとなっていました。
今回成立した「雇用促進法」は、この精神障害者の雇用の義務づけが主な内容となっていますが、5年後の施行をめざし関係制度の整備を急ぎ、障害者全体としての就労拡大をはかっていかなければなりません。
2、障害者雇用政策の歴史
我が国の障害者雇用対策は、欧米諸国と同様に、第二次体制後の傷痍軍人・戦争傷病者の就職促進政策から始まりましたが、本格的な就業促進対策は、1960年の「身体障害者雇用促進法」制定以降となります。しかし、この法律は障害者の雇用を課す「割当雇用(法定雇用率)制度」を導入したものの、それはあくまで企業の努力義務とされたため、実際には障害者の採用は進みませんでした。
そうした中、国連は1975年12月に、「障害者の権利宣言」を発表。「障害者は、その能力に従い保障を受け、雇用され、または有益で生産的かつ十分な報酬を受ける職業に従事し、労働組合に参加する権利を有する」と訴えました。このような国際的な動きも背景に、国内での障害者自らの運動も盛り上がり、1976年に「身体障害者雇用促進法」の画期的な改正が行われました。その中心的制度は、「割当雇用制度」の企業への義務づけです。あわせて割当に達しない場合に企業に納付金を課す「雇用納付金制度」が設けられました。この二つの制度によって、我が国の障害者雇用の拡大は大きく弾みをつけることになりました。
さらに、国連は1981年を「国際障害者年」とし、加盟各国に障害者対策の強力な推進を要請しました。わが国においても、教育、雇用、生活支援など様々な分野で障害者対策が推進されました。そして、6年後の1987年、「身体障害者雇用促進法」が名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」に変え、知的障害者も適用対象とする法改正が行われました。さらに1997年には、知的障害者を法定雇用率設定の算定基礎に加える改正が行われ、障害者雇用制度は大きく前進しました。
一方、2005年に、自公政権は、身体障害者、知的障害者の福祉と地位向上を目的としたいわゆる「障害者自立支援法」を成立させました。その主たる施策は、①障害者福祉サービスの市町村への一元化、②一般就労移行事業の創設、③サービス利用に関する手続き基準の透明化、④利用したサービスや所得による自己負担制度の導入――などでしたが、市町村毎に違うサービス格差の発生、障害者の区分判定の問題、福祉サービスにおける自己負担が障害者の過度の負担となることなど、いくつかの問題点が浮上し、障害者団体やマスコミ等から大きな批判を受けました。
これらの声を受けて、民主党政権下で「自立支援法」の見直しの検討が続けられ、2012年6月に、「障害者自立支援法」から「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(通称・障害者総合支援法)と名称を変更した法案が可決・成立しました。
内容的には、①障害福祉サービスよる支援に加えて地域生活支援事業などを総合的に行う、②障害者の範囲に一定の難病患者を加える、③障害支援区分は障害の多様な特性や心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示すものに改正する、④障害者が住み慣れた地域で生活できるよう「共同生活介護(ケアホーム)」は「共同生活援助(グループホーム)」に一元化する、⑤「重度訪問介護」及び「地域移行支援」は利用対象を重度の知的障害者や精神障害者にも拡大する、⑥自治体が行う地域生活支援事業は、新たに障害者に対する理解を深めるための研修・啓発事業や市民後見人等の人材の育成・活用のための研修事業など必須事業を拡大する――などです。
この法改正に関しては、利用者負担の応能負担制度は残り、また全体として財政削減をめざした障害者福祉の切り捨てではないかとの意見もあり、障害者や障害者団体からの批判が続いていますが、今後、3年ごとの法律の見直しに向けて、より良い制度に改善していく必要があると考えます。
3、障害者雇用の現状と雇用義務制度の厳格化
本題の障害者の一般就労促進政策に戻りますが、一般就労移行事業は、多くの障害者が職業能力を身に付け、一般の企業などに就職し賃金を得て自らの力で生活をしていくという生活スタイルを望んでいるという前提に立った制度です。
現在、我が国の障害者の総数は約744万人とされています。このうち、雇用施策対象者(18歳~64歳の在宅者)は、約332万人で、その内訳は、身体障害者124万人、知的障害者27万人、精神障害者181万人(平成17年~20年の厚生労働省調査)となっています。
冒頭に述べたように、現在、5人以上の事業所で働いている障害者は44万8000人ですので、障害者の働くニーズには十分に応えきっているとは言えません。このことは、2010年時点における法定雇用率達成企業の割合が47%程度に止まっていることからも明らかです。
このような状況のもとで、本年4月より、雇用主の障害者雇用義務制度が厳格化され、法定雇用率の引き上げと給付金の引き上げが行われました。具体的には、身体障害者、知的障害者の雇用率は、民間企業1.8%から2.0%へ、国・地方公共団体・特殊法人等は2.1%から2.3%へ、都道府県の教育委員会は2.0%から2.2%へと引き上げられました。また、本年4月からの法定雇用率の変更に伴い、障害者を雇用しなければならない事業主の範囲が、従来の「従業員56人以上」から「従業員50人以上」に変更され、対象事業所の拡大が実施されました。また、「障害者雇用納付金制度」の対象事業所については、現行の常用雇用労働者200人以上が、平成27年4月より100人以上となります。
なお、給付金関係につきましては、障害者雇用未達成の事業主(常用雇用労働者200人超の場合のみ)には不足1人当たり月額5万円の障害者雇用納付金が徴収され、他方、雇用率を達成した事業主には超過1人につき月額2万7000円(常用雇用労働者200人以上)を支給することが定められています。
これらの措置により、企業による障害者雇い入れが拡大し、さらに次項で述べる就労移行事業が効率的に運営されれば、障害者雇用は大きく進むものと考えます。
4、障害者の就労促進と就労移行事業の課題
一般事業所への就労という障害者の要求に現実的かつ具体的に応える施策として、全国的に就労移行支援事業が実施されています。この事業は、一般就労を希望するサービス利用者が、2年間の有期限の中で訓練を受けて職業能力を高め、そして自分の希望・能力に合致した企業に一般就労することを支援する事業で、海外に事例がない日本独自の制度として運営されています。
この制度ができるまでは、障害者が企業などに就職する場合は、特別支援校からの新卒としての就職、あるいは更正施設や授産施設に入ってそこで一定の職業能力を高めて企業に就職するケースが主でした。現在、特別支援校・高等部の卒業生の進路は、文部科学省の調査で、①大学・専門学校・教育訓練機関への進学5.2%、②企業・官公署などへの就職25%、③授産施設など社会福祉施設への入所・通所67%――となっています(文部科学省調査)。つまり、大多数の障害者は、成人になっても社会福祉施設等に通い続け、僅かな労賃を得ながら厳しい生活を送っているのが現状です。そして、より高い収入を求め、授産施設からの一般事業所へ就職しようと思っても、その就労率は僅か1.3%程度でした。それが、「自立支援法」によって導入された就労移行支援事業所からの一般就労率は、平成23年には20%を超えることになり、大きな政策効果を上げてきたのです。
障害者の生活支援・雇用対策が「福祉から一般就労へ」という流れになる中で、福祉の後退とか、重度の障害者には関係のないもの、という批判は残っていますが、就労移行支援事業の実績を見れば、障害者のニーズに沿った事業が進められているものと考えられ、さらなる制度の充実と関係予算の重点配分が望まれます。
現在、就労移行事業の関係者、関係団体より、次のような要望(骨子)が出されており、障害者の声とともに、これらの要望も参酌しながら、法令改正や必要予算の確保をしていかなければならないと考えます。
①福祉から一般就労へ移行することの重要性の強調
障害者の一般就労移行を支援することに特化した事業は、福祉施策として画期的なことであり、福祉事業所利用者が納税者となることで社会的にも大きな影響を持ってくる。障害者総合支援法の見直しに際しては、一般就労の重要性を条文に盛り込むこと。
②一般就労に向けた支援への評価
就労移行においては、利用者(障害者)ニーズと企業ニーズをふまえ、利用者の現状と可能性をアセスメントすることが大事であり、このアセスメント・マッチングのプロセスを適正に評価する仕組みを作ること。特に、職場実習の機会(施設外支援)が提供されることが重要であり、施設外支援の報酬の引き上げと算定条件の改善などが必要である。
③一般就労そのものに対する評価
就労移行支援事業で障害者が一般就労を果たした後、利用者補充が円滑に行われないと事業所経営に大きな影響が出ることから、就労移行支援体制加算の拡充など、事業目的に適った運営をしている事業所への経営的な支援策を講じること。
④職場適応期の支援に対する方策
一般就労後の職場適応期への支援は極めて重要であり、労働政策としてのトライアル雇用制度の利用が大きな成果を上げている。現在、財政問題などから、トライアル雇用制度の利用が制限されつつあるが、就労移行支援事業所によるこの制度利用を支援する仕組みをつくること。
⑤職場定着支援を充実させるための方策
一般就労が6か月経過した後の職場定着支援は他機関との連携によって行うことになっているが、連携先の障害者就業・生活支援センター等の機関は相談者の増加等で定着支援を続けることが困難になっている。そのため、多くの就労移行支援事業所が、6ヶ月後も職場定着支援策を独自に続けているが、この支援策を評価する仕組みをつくること。
⑥省庁間・各部局間の連携
現在、障害者の一般就労促進政策については、教育においては特別支援学校、障害福祉においては就労移行支援事業、雇用対策においてはハローワークと障害者就業・生活支援センターとジョブコーチがバラバラに対応しているが、役割が重複したり、現場での連携に支障が生じている。今後、精神障害者の就労も増えてくると医療機関との連携も必要となることから、一般就労政策に関わる政府の審議会や研究会での今後の議論では、省庁・部局を超えて開催し、就労支援事業所の意見も反映させながら、整合性ある支援策を論議していくこと。
BLOGOS- 2013年11月05日 16:09
平成25年4月より「障害者総合支援法」が施行され、さらに先の通常国会会期末前の6月14日には「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、「雇用促進法」と略)が改正されました。この二つの立法措置により、今後、障害者の就労支援事業が大きく前進するものと期待されています。
我が国の障害者の雇用に関しては、これまでの法整備と国・自治体の支援政策の推進、そして受け入れ企業の努力などにより就労者数は大きく伸びてきており、現在、5人以上の事業所で働いている障害者は、身体障害者が約34万6000人、知的障害者が約7万3000人、精神障害者が約2万9000人、総計で約44万8000人となっています(平成20年事業所調査)。しかし、精神障害者については、これまで雇用が義務づけされてこなかったこともあって近年、就労が伸びておらす、国としても大きな課題の一つとなっていました。
今回成立した「雇用促進法」は、この精神障害者の雇用の義務づけが主な内容となっていますが、5年後の施行をめざし関係制度の整備を急ぎ、障害者全体としての就労拡大をはかっていかなければなりません。
2、障害者雇用政策の歴史
我が国の障害者雇用対策は、欧米諸国と同様に、第二次体制後の傷痍軍人・戦争傷病者の就職促進政策から始まりましたが、本格的な就業促進対策は、1960年の「身体障害者雇用促進法」制定以降となります。しかし、この法律は障害者の雇用を課す「割当雇用(法定雇用率)制度」を導入したものの、それはあくまで企業の努力義務とされたため、実際には障害者の採用は進みませんでした。
そうした中、国連は1975年12月に、「障害者の権利宣言」を発表。「障害者は、その能力に従い保障を受け、雇用され、または有益で生産的かつ十分な報酬を受ける職業に従事し、労働組合に参加する権利を有する」と訴えました。このような国際的な動きも背景に、国内での障害者自らの運動も盛り上がり、1976年に「身体障害者雇用促進法」の画期的な改正が行われました。その中心的制度は、「割当雇用制度」の企業への義務づけです。あわせて割当に達しない場合に企業に納付金を課す「雇用納付金制度」が設けられました。この二つの制度によって、我が国の障害者雇用の拡大は大きく弾みをつけることになりました。
さらに、国連は1981年を「国際障害者年」とし、加盟各国に障害者対策の強力な推進を要請しました。わが国においても、教育、雇用、生活支援など様々な分野で障害者対策が推進されました。そして、6年後の1987年、「身体障害者雇用促進法」が名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」に変え、知的障害者も適用対象とする法改正が行われました。さらに1997年には、知的障害者を法定雇用率設定の算定基礎に加える改正が行われ、障害者雇用制度は大きく前進しました。
一方、2005年に、自公政権は、身体障害者、知的障害者の福祉と地位向上を目的としたいわゆる「障害者自立支援法」を成立させました。その主たる施策は、①障害者福祉サービスの市町村への一元化、②一般就労移行事業の創設、③サービス利用に関する手続き基準の透明化、④利用したサービスや所得による自己負担制度の導入――などでしたが、市町村毎に違うサービス格差の発生、障害者の区分判定の問題、福祉サービスにおける自己負担が障害者の過度の負担となることなど、いくつかの問題点が浮上し、障害者団体やマスコミ等から大きな批判を受けました。
これらの声を受けて、民主党政権下で「自立支援法」の見直しの検討が続けられ、2012年6月に、「障害者自立支援法」から「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(通称・障害者総合支援法)と名称を変更した法案が可決・成立しました。
内容的には、①障害福祉サービスよる支援に加えて地域生活支援事業などを総合的に行う、②障害者の範囲に一定の難病患者を加える、③障害支援区分は障害の多様な特性や心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示すものに改正する、④障害者が住み慣れた地域で生活できるよう「共同生活介護(ケアホーム)」は「共同生活援助(グループホーム)」に一元化する、⑤「重度訪問介護」及び「地域移行支援」は利用対象を重度の知的障害者や精神障害者にも拡大する、⑥自治体が行う地域生活支援事業は、新たに障害者に対する理解を深めるための研修・啓発事業や市民後見人等の人材の育成・活用のための研修事業など必須事業を拡大する――などです。
この法改正に関しては、利用者負担の応能負担制度は残り、また全体として財政削減をめざした障害者福祉の切り捨てではないかとの意見もあり、障害者や障害者団体からの批判が続いていますが、今後、3年ごとの法律の見直しに向けて、より良い制度に改善していく必要があると考えます。
3、障害者雇用の現状と雇用義務制度の厳格化
本題の障害者の一般就労促進政策に戻りますが、一般就労移行事業は、多くの障害者が職業能力を身に付け、一般の企業などに就職し賃金を得て自らの力で生活をしていくという生活スタイルを望んでいるという前提に立った制度です。
現在、我が国の障害者の総数は約744万人とされています。このうち、雇用施策対象者(18歳~64歳の在宅者)は、約332万人で、その内訳は、身体障害者124万人、知的障害者27万人、精神障害者181万人(平成17年~20年の厚生労働省調査)となっています。
冒頭に述べたように、現在、5人以上の事業所で働いている障害者は44万8000人ですので、障害者の働くニーズには十分に応えきっているとは言えません。このことは、2010年時点における法定雇用率達成企業の割合が47%程度に止まっていることからも明らかです。
このような状況のもとで、本年4月より、雇用主の障害者雇用義務制度が厳格化され、法定雇用率の引き上げと給付金の引き上げが行われました。具体的には、身体障害者、知的障害者の雇用率は、民間企業1.8%から2.0%へ、国・地方公共団体・特殊法人等は2.1%から2.3%へ、都道府県の教育委員会は2.0%から2.2%へと引き上げられました。また、本年4月からの法定雇用率の変更に伴い、障害者を雇用しなければならない事業主の範囲が、従来の「従業員56人以上」から「従業員50人以上」に変更され、対象事業所の拡大が実施されました。また、「障害者雇用納付金制度」の対象事業所については、現行の常用雇用労働者200人以上が、平成27年4月より100人以上となります。
なお、給付金関係につきましては、障害者雇用未達成の事業主(常用雇用労働者200人超の場合のみ)には不足1人当たり月額5万円の障害者雇用納付金が徴収され、他方、雇用率を達成した事業主には超過1人につき月額2万7000円(常用雇用労働者200人以上)を支給することが定められています。
これらの措置により、企業による障害者雇い入れが拡大し、さらに次項で述べる就労移行事業が効率的に運営されれば、障害者雇用は大きく進むものと考えます。
4、障害者の就労促進と就労移行事業の課題
一般事業所への就労という障害者の要求に現実的かつ具体的に応える施策として、全国的に就労移行支援事業が実施されています。この事業は、一般就労を希望するサービス利用者が、2年間の有期限の中で訓練を受けて職業能力を高め、そして自分の希望・能力に合致した企業に一般就労することを支援する事業で、海外に事例がない日本独自の制度として運営されています。
この制度ができるまでは、障害者が企業などに就職する場合は、特別支援校からの新卒としての就職、あるいは更正施設や授産施設に入ってそこで一定の職業能力を高めて企業に就職するケースが主でした。現在、特別支援校・高等部の卒業生の進路は、文部科学省の調査で、①大学・専門学校・教育訓練機関への進学5.2%、②企業・官公署などへの就職25%、③授産施設など社会福祉施設への入所・通所67%――となっています(文部科学省調査)。つまり、大多数の障害者は、成人になっても社会福祉施設等に通い続け、僅かな労賃を得ながら厳しい生活を送っているのが現状です。そして、より高い収入を求め、授産施設からの一般事業所へ就職しようと思っても、その就労率は僅か1.3%程度でした。それが、「自立支援法」によって導入された就労移行支援事業所からの一般就労率は、平成23年には20%を超えることになり、大きな政策効果を上げてきたのです。
障害者の生活支援・雇用対策が「福祉から一般就労へ」という流れになる中で、福祉の後退とか、重度の障害者には関係のないもの、という批判は残っていますが、就労移行支援事業の実績を見れば、障害者のニーズに沿った事業が進められているものと考えられ、さらなる制度の充実と関係予算の重点配分が望まれます。
現在、就労移行事業の関係者、関係団体より、次のような要望(骨子)が出されており、障害者の声とともに、これらの要望も参酌しながら、法令改正や必要予算の確保をしていかなければならないと考えます。
①福祉から一般就労へ移行することの重要性の強調
障害者の一般就労移行を支援することに特化した事業は、福祉施策として画期的なことであり、福祉事業所利用者が納税者となることで社会的にも大きな影響を持ってくる。障害者総合支援法の見直しに際しては、一般就労の重要性を条文に盛り込むこと。
②一般就労に向けた支援への評価
就労移行においては、利用者(障害者)ニーズと企業ニーズをふまえ、利用者の現状と可能性をアセスメントすることが大事であり、このアセスメント・マッチングのプロセスを適正に評価する仕組みを作ること。特に、職場実習の機会(施設外支援)が提供されることが重要であり、施設外支援の報酬の引き上げと算定条件の改善などが必要である。
③一般就労そのものに対する評価
就労移行支援事業で障害者が一般就労を果たした後、利用者補充が円滑に行われないと事業所経営に大きな影響が出ることから、就労移行支援体制加算の拡充など、事業目的に適った運営をしている事業所への経営的な支援策を講じること。
④職場適応期の支援に対する方策
一般就労後の職場適応期への支援は極めて重要であり、労働政策としてのトライアル雇用制度の利用が大きな成果を上げている。現在、財政問題などから、トライアル雇用制度の利用が制限されつつあるが、就労移行支援事業所によるこの制度利用を支援する仕組みをつくること。
⑤職場定着支援を充実させるための方策
一般就労が6か月経過した後の職場定着支援は他機関との連携によって行うことになっているが、連携先の障害者就業・生活支援センター等の機関は相談者の増加等で定着支援を続けることが困難になっている。そのため、多くの就労移行支援事業所が、6ヶ月後も職場定着支援策を独自に続けているが、この支援策を評価する仕組みをつくること。
⑥省庁間・各部局間の連携
現在、障害者の一般就労促進政策については、教育においては特別支援学校、障害福祉においては就労移行支援事業、雇用対策においてはハローワークと障害者就業・生活支援センターとジョブコーチがバラバラに対応しているが、役割が重複したり、現場での連携に支障が生じている。今後、精神障害者の就労も増えてくると医療機関との連携も必要となることから、一般就労政策に関わる政府の審議会や研究会での今後の議論では、省庁・部局を超えて開催し、就労支援事業所の意見も反映させながら、整合性ある支援策を論議していくこと。
BLOGOS- 2013年11月05日 16:09