執行猶予中の再犯となる列車往来危険罪に問われた大阪府内の男性(35)に対し、大阪地裁(坪井祐子裁判長)が7月末、再び執行猶予を付ける異例の判決を言い渡したことが分かった。男性に知的障害などがあることが公判で判明し、地裁は「福祉の支援などで更生が期待できる」と判断した。実刑を求めていた検察側も控訴せず、判決は確定した。
執行猶予中の再犯の場合、通常は執行猶予が取り消され、再犯の分と合わせた量刑の実刑が科される。坪井裁判長は、知的障害などの影響で犯罪を繰り返してしまう「累犯障害者」であることを考慮し、弁護側が出した更生計画を評価した。
判決によると、男性は昨年、大阪市内の線路上に約3メートルの棒を置いた。通過した電車が接触したが、けが人はなかった。地裁は今年7月31日、障害の影響で当時は心神耗弱状態だったと認定し、懲役1年、保護観察付き執行猶予5年(求刑・懲役1年6月)とした。
男性は小中学校の普通学級と専門学校を卒業し、派遣社員として箱詰めの仕事をしていた。作業が遅いとして上司に注意されることはあったが、家族も周囲も障害があることを認識していなかった。
一方、20代以降に何度も警察ざたを起こし、2011年には民家の洗濯物を盗んだ罪で初めて起訴され、懲役2年6月、執行猶予3年の判決を受けた。
今回の公判では弁護側の請求による精神鑑定が実施され、広汎(こうはん)性発達障害と軽度の知的障害と診断された。
弁護側は、社会福祉士と連携して「更生支援計画」を作成。障害者施設への入所、コミュニケーション能力向上の訓練など、福祉支援による更生を約束していた。
坪井裁判長は判決言い渡し後、男性に「裁判所は悩んだが、立ち直るチャンスを与えます」と語りかけた。
弁護人の大橋さゆり弁護士(大阪弁護士会)は取材に「累犯障害者の更生には福祉と連携した訓練が必要で、刑務所では期待しにくい」。男性の母親(60)は「障害に気付かず、自分の育て方が悪いと思っていた。裁判所に配慮してもらいありがたい」と話している。
◇進む福祉士との連携
累犯障害者の再犯をなくそうと、福祉の専門家である社会福祉士が弁護士と連携するケースが増えている。
法務省によると、2012年1〜9月に受刑した知的障害(疑い含む)を持つ再犯者のうち、約5割が前回の出所から1年未満に再び罪を犯していた。
こうした累犯障害者は出所後に福祉の支援を受けられず、犯罪を繰り返してしまう場合が多いとされる。また、刑務所に収容するよりも福祉施設などで訓練を受ける方が更生に結びつきやすいとの指摘もある。
弁護士と社会福祉士の連携は広がりつつある。先駆的とされる大阪弁護士会では、弁護士に社会福祉士を紹介する制度も始めた。
累犯障害者の刑事裁判を担当した弁護士が社会福祉士に相談し、被告の生活歴や障害の程度から、更生支援計画をまとめてもらう。弁護士は公判で計画を証拠請求し、実刑ではなく福祉支援による更生の必要性を裁判所に訴えることが多い。ただ、裁判所が累犯障害者の実刑を回避するケースは異例とされる。
毎日新聞 2014年09月15日 14時00分