タブレット端末やスマートフォン(スマホ)の普及は、障害を持つ人の日常生活に大きな変化をもたらしています。特に目の不自由な人にとって、欠かせない道具となっている現状を、平林由梨記者が取材しました。
東京都杉並区に住む伊敷(いしき)政英さん(37)は、どこへ出かけるにもタブレット端末「iPad(アイパッド)」を持ち歩く。伊敷さんは、右目が少しだけ見える弱視だ。
伊敷さんが日常生活で一番よく使うのは、「iPad」に内蔵されたカメラ。ディスプレーに映っている画像を、指を使って拡大して見る。これまで通行人や店員に読んでもらっていた駅の案内板や喫茶店のメニューもよく見えるという。
電子書籍の普及も、大きな変化だ。視覚障害者向けの点字本の多くは、新刊が出ても点訳されるまで時間がかかる。弱視用の拡大図書も、大きくて重く、種類もわずか。「これまでほとんど読んだことがなかった」(伊敷さん)という。
一方、アマゾンの電子書籍「Kindle(キンドル)」のアプリを「iPad」などにダウンロードすれば、ほとんどを音声で聞くことができる。文字の大きさも自由自在だ。伊敷さんは「今日出た本が今日読めて、読みたい場所でいつでも読める。喫茶店でコーヒーを飲みながら読書する夢がかなった」と声を弾ませる。
タブレット端末やスマホには、画面に触れたところに何が表示されているか読み上げる機能が付いており、全盲の人でも音声を頼りに操作することができる。全盲の中根雅文さん(42)=東京都調布市=は、お目当ての店を探す際にはまず、GPS(全地球測位システム)で自分の位置を特定。周りにどんな店があるのか調べ、位置情報の音声ガイドを使って、その店まで出かける。バスの運行状況を瞬時に音声で知ることができるアプリなども使って、「これまでよりも気楽に、初めて訪れる場所へ出かけられるようになった」(中根さん)という。
その他にも、スマホにかざした紙幣の額面を教えてくれるアプリや、光の強弱を音の高低で知らせるアプリなども欠かせないという。中根さんは「これまで、受動的にしか入ってこなかった情報を、自分で選択して得て、行動できるようになった」と話す。
機能を充実させ、次々と発売される電子機器。タブレット端末などのハードや、アプリなどのソフトの進歩はめざましい。ただ、それらの機能を使いこなす知識には、個人差がある。東京都障害者IT地域支援センター(文京区)の堀込真理子事務局長は「障害者のニーズが広がっている現状を各自治体で知ってもらい、相談窓口の拡充や、支援態勢の強化をしていきたい」と話している。
毎日新聞 2014年09月12日 地方版