こともあろうに、障害者施策を所管する厚生労働省の独立行政法人が、障害者の雇用率を水増しして国に報告していた。制度への信頼を失墜させるもので、使命感の欠如に憤りを覚える。
厚労省は、全国の労災病院などを運営する独立行政法人「労働者健康福祉機構」を、障害者雇用促進法違反の疑いで、機構に対する告発状を横浜地検に提出した。また、水増しを放置していたとして、当時の総務部長、人事課長だった同省審議官など四人を更迭した。
厚労省などによると、機構は雇用促進法で、毎年、国への報告が義務付けられている障害者の雇用状況を、少なくとも二〇一〇~一四年の五年分について虚偽報告をしていた。
雇用促進法は、企業(従業員五十人以上)や独立行政法人などに、一定以上の割合で障害者を雇用するよう求めている。独法については、一三年度以降は2・3%。それ以前は2・1%だった。
機構は五年間、実際よりも全体の労働者数を少なく、雇用している障害者数を多く記載し、いずれも法定雇用率をわずかに上回るよう報告していた。最も差が大きかった一〇年の場合、実際の雇用率は0・79%だったのに、2・22%と、三倍近く高いように見せ掛けていた。長年の慣習として引き継がれてきた可能性がある。
更迭された四人は、故意であったことを認めているというが、動機は不明だ。
民間企業は、法定雇用率を達成できなかった場合、一人につき月五万円の納付金を支払わなくてはいけない。逆に、上回ったら調整金が支給される。このため、抜き打ち調査が行われる。
独法はこの対象外だ。だからといって、虚偽が許されるわけがない。ましてや、障害者雇用率制度を所管する厚労省からの歴代出向者が責任者として容認していたのだから、たちが悪い。モラルの低下も甚だしい。
機構は、弁護士を交えた第三者委員会で真相解明をしている。塩崎恭久厚労相は再発防止策として、民間と同様に抜き打ち調査の対象とする方針も示しているが、行政活動の一部を担う独法が、調査がなければ法律を守れないというのでは、情けない。
障害者雇用率制度は、障害者が能力を最大限発揮し、適性に応じて働くことができる社会を目指すことを目的とする。その趣旨を肝に銘じてほしい。
2014年12月1日 中日新聞