蕨市の住宅街にある女子プロレス団体「アイスリボン」道場のリング。真っ赤な髪を振り乱して、内藤メアリ選手(40)が相手の胸元に強烈なチョップを繰り出す。歓声が上がった満員の客席には障害者支援団体「虹の会」(さいたま市桜区)の障害者らの姿もある。内藤選手は、同会職員として働く兼業レスラーだ。
子どものときは運動が苦手で、高校時代は吹奏楽部。「プロレスにもまったく興味がなかった」。障害児教育の現場に立ちたいと埼玉大教育学部に入学し、虹の会でボランティアを始めた。卒業後はそのまま会の職員に。親元を離れて一人暮らしする障害者の生活介助と、障害者の働く場として運営するリサイクル店「にじ屋」の店番などが主な仕事だ。
数年後、同僚職員の勧めで初めて女子プロレスの試合を見た。その後も観戦を重ねるうちに「すごい迫力。一生懸命戦う選手の姿に感動した」とプロレスにのめり込んだ。
一方、虹の会で働く障害者と運動不足の解消のためにジョギングを始めた。少しずつ体を鍛え始め、二〇一〇年一月、アイスリボンの週一回のプロレス教室に入門した。
最初は「リングの上で体を動かせるのがうれしい」だけだったが、半年もするとデビューを勧められた。「技も少ないけど、後悔したくない」。一一年二月、三十六歳でデビュー戦のリングに上がった。「ライトを浴び、客席からは『頑張ってね』と優しい応援が聞こえた。気持ち良かった」。以来、週一回のペースで試合に出場している。
選手になって再発見したのは「リングで輝くのは強い人だけじゃない」というプロレスの魅力。新人や負傷した選手でも、それに適した役割や物語があり、十分に試合を盛り上げることができる。一見、障害者支援と無関係なプロレスだが「私の中ではつながっている」と言い切る。
プロレスには「暴力的なショー」、障害者には「親に世話されて生きるのが当然」との偏見がある。「でも、地域で一人で暮らしている障害者はいる。何でも世話をされるのも、本人の立場になればわずらわしい面だってある」
兼業レスラーは「障害者もプロレスも楽しくて奥深い。それを分かってもらえたら、きっと世の中が変わる」との思いで続けてきた。だが、両方に十分な時間を割けないもどかしさもあり、年内での引退を決めた。「きちんとやり切って、納得できる終わり方をしたかったから」。大みそかの最後のリングでも、暴れ回るつもりだ。 (谷岡聖史)
<ないとう・めあり> 春日部市出身。本名・内藤亜希子。リサイクル商品の提供の問い合わせはにじ屋=電048(855)8438=へ。
生活介助者(有給)の応募は虹の会本部=電048(851)7558=へ。31日の引退試合のチケットは完売したが、28日の後楽園ホール(東京都文京区)の大会にも出場する。
正午開始。問い合わせはアイスリボン=電048(452)8895=へ。
2014年12月22日 東京新聞