職場実習を体験する田辺千晴さん(右)。インターネット回線を通じ、画像と音声で指導員の指示を受けた=三重県四日市市の県立北勢きらら学園
就職のため職業訓練を受ける障害者を支援する国の就労移行支援事業。車いすで生活する三重県四日市市の若者が、ITデザイン系の仕事を目指し、自宅でオンラインで学びたいと考えている。いまは在宅利用では支援を受けられないが、厚生労働省は見直しを検討中。認められれば、夢を実現する後押しになる。
田辺千晴さん(17)は、四日市市の県立特別支援学校・北勢きらら学園高等部に通う2年生。6年前の交通事故で四肢まひになり、移動には電動車いすが欠かせない。
9月下旬、学校の教室でオンラインでの職場実習を体験した。協力したのは、同市の障害者福祉サービス事業所「障碍(しょうがい)者ITカレッジ四日市」。ネット電話も使い、障害者にITの技術を教えている。
パソコン画面の一角に指導員が映る。デザインソフトを使い、線をなぞったり色をつけたり。ヘッドホンとマイクでやりとりし、基礎を1時間半学んだ。「これが使えるようになったら、いろんなことができるようになるんだろうな」
田辺さんは、学校行事のチラシ作りをきっかけにウェブデザインに興味を持っていた。実習を体験して、再来年の卒業後には、就労移行支援事業を使ってITカレッジで技術を習得したいと考え始めた。
ところが、思わぬ壁があった。
移行支援は障害者総合支援法に基づく職業訓練の制度で、2006年に始まった。国と自治体が訓練のサービスを提供する福祉事業所に報酬を払う仕組みで、一般企業に勤めたい65歳未満の障害者は、技術やビジネスマナーなどを、ほとんどの場合、自己負担なしで学べる。
しかし、利用するには福祉事業所に通わないといけない。ITカレッジはビルの6階にあり、電動車いすがエレベーターに入らない。田辺さんがITカレッジを利用するのはほぼ不可能だ。
以前は、一般企業への就職が難しい人向けの事業も含めたひとくくりの就労支援のなかで、在宅での利用も認められていた。だが、厚労省は「通勤が伴う一般企業への就職をめざすのがこの事業の目的」として在宅利用を12年度以降、認めていない。
ただ、IT化で在宅勤務の障害者が増えているなかで、厚労省も改めて認めることを検討している。同省障害福祉課の就労支援担当者は「今年度内に結論を出したい」と話す。
ITカレッジ管理者の山下広幸さん(39)は「在宅で一般就労した場合、職場とのやりとりはメールやオンラインの電話。就労移行支援事業の在宅利用で能力は身につく」とみる。
田辺さんは「技術を学んで働けたら、CDジャケットやポスターのデザインなどをしてみたい。夢が広がります。制度を見直してほしい」と話している。
2014年12月9日15時50分 朝日新聞