厚生労働省はこのほど、2013年度1年間の障害者虐待の件数を公表した。被害者は全国で2659人に上り、うち3人が命を落とした。
県内では156人が被害に遭った。このうち73・1%が家族から虐待を受けている。自宅で介護する家族が精神的にも肉体的にも追い詰められ、いつの間にか「加害者」となっているのが実態だろう。障害者本人とともに、介護家族に対しても公的な手厚い支援体制を早急に構築する必要がある。
今回公表された「加害者の7割は家族」という内容から、障害者虐待は家庭内の問題、と捉える向きがあるとすれば、認識を改める必要がある。県内では被害者の19・2%は利用する福祉施設で、7・7%は国を挙げて雇用を推進する職場で虐待を受けている。特に、障害者支援の専門家が集まっているはずの福祉施設が虐待の舞台になっている事実は、極めて深刻だ。
事業形態別の内訳を見ると、入所施設とグループホームが計55・2%と半数以上を占める。こうした施設は、障害者の「ついのすみか」であり、家族にとっては「親亡き後」を託せる数少ない場所だ。だが絶対数が足りず、対応に不満があっても施設を移ることは簡単ではない。おのずと障害者側が我慢することになる。障害者虐待が顕在化しにくいのは、そうした事情が影響している。公表された件数は、氷山の一角にすぎないと考えるべきだ。
虐待を行った職員の内訳も、問題の根深さを象徴している。年齢に偏りはなく、職種では4人に1人が経営者やサービス管理責任者ら管理職だ。家族から虐待を受けて入所した施設で、今度は障害者に寄り添い社会との橋渡し役となるはずの施設職員から虐待を受ける、という悲劇が起こり得る。数字をそう読み解くのは、決してうがちすぎとはいえまい。職員の質向上が急務であり、これまで以上の取り組みが必要だ。
都道府県別では、施設での相談・通報件数も虐待件数も、神奈川が最も多い。だが、前向きに捉えたい。障害者虐待防止法が施行されてまだ2年余り。通年の公表は初めてで、児童や高齢者に比べ、認知度は低い。そうした中でも本人や家族、職員が訴え出て、行政による指導につながっている。さらに被害を訴えやすい風通しのよい環境をつくることに、行政も施設も力を入れてほしい。
2014.12.12 12:20:00 【神奈川新聞】
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