虐待を受けた障害者が2013年度、全国で2659人、道内で97人もいることが分かった。死亡者は全国で3人いる。
理由はどうあれ、虐待は許されることではない。弱い立場の人に対してはなおさらだ。
政府は今年1月、障害者権利条約に批准し、16年4月には差別解消法が施行される。
条約や法の趣旨を尊重するのは当然だ。すべての国民が互いに人格、個性を認め合う共生社会を早期に実現しなければならない。
調査は2年前に施行した障害者虐待防止法に基づき、厚生労働省が初めて、通年で実施した。
虐待の種類は、暴行や拘束などの「身体的―」、侮辱的な発言などの「心理的―」、金銭を渡さないなどの「経済的―」、わいせつ行為をする「性的―」など、多岐にわたる。
加害者は、身近にいる家族や福祉施設職員、職場の上司・同僚らだ。被害者の6割は、知的障害者が占めている。
残念なのは、全体の7割が家庭内虐待という現実だ。身体的虐待が大半を占めているが、ネグレクト(放棄・放置)も多い。
他人が入り込みにくい密室が現場だけに、被害実態が表面化しにくい難しさがある。
驚くのは、障害者を守る立場にいる福祉施設職員らによる行為が全体の2割近くを占めていることだ。職員が考える「しつけ」や「指導」が、客観的に見れば行き過ぎたケースが目につくという。
施設側は職員教育を徹底し、利用者の立場に立って、寄り添いの思いを新たにしてほしい。
虐待行為が後を絶たないのは、する方は認識が不足しがちなこと、される方は意思表示がうまくできないことも大きい。
だからこそ、障害者への虐待予防教育も含め、周囲の視線や指摘が大切だ。
障害者虐待防止法は、発見した人には自治体などへの通報義務を課している。問題が深刻化する前に早い段階で発見し、支援につなげる狙いからだ。
国内の障害者は今、身体、精神、知的障害者合わせると700万人を超える。企業で働く人が11年連続で増え、過去最多の43万人に達している。
今後、障害者のさらなる社会進出を支えていきたい。
そのためにも、虐待は根絶しなければならない。身近にいる障害者が苦しんではいないか。温かいまなざしが重要である。
(12/23) 北海道新聞