ゴエモンのつぶやき

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【読書感想】沈みゆく大国アメリカ

2014年12月03日 00時49分37秒 | 障害者の自立

内容(「BOOK」データベースより)

鳴り物入りで始まった医療保険制度改革「オバマケア」は、恐るべき悲劇をアメリカ社会にもたらした。「がん治療薬は自己負担、安楽死薬なら保険適用」「高齢者は高額手術より痛み止めでOK」「一粒一〇万円の薬」「自殺率一位は医師」「手厚く治療すると罰金、やらずに死ねば遺族から訴訟」。これらは、フィクションではない。すべて、超大国で進行中の現実なのだ。石油、農業、食、教育、金融の領域を蝕んできた「一%の超・富裕層」たちによる国家解体ゲーム。その最終章は、人類の生存と幸福に直結する「医療」の分野だった!

 堤未果さんの『アメリカ』シリーズ、今回のテーマは「医療」です。

 2008年5月に、64歳の元バス運転手の女性が肺がんの再発を告げられたときに起こったことを、著者はこのように紹介しています。

 ショックを受けて黙りこむバーバラに、主治医は今度は良い知らせのほうを告げた。

「でも大丈夫ですよ。放射線治療の良い新薬が出ていますから」

 ターセバというその薬には、がんの進行を遅らせる効果があるという。

 バーバラは深いため息をつき、低所得層のための医療保険制度を持つオレゴン州の住民であることに、心の底から感謝した。

(中略)

 アメリカには65歳以上の高齢者と障害者・末期腎疾患患者のための「メディケア」、最低所得層のための「メディケイド」という、二つの公的医療保険がある。このうち州と国が費用を折半するメディケイドの受給条件は、所得が国の決めた貧困ライン以下の住民が対象だ。

 だがオレゴン州では「できるだけ多くの州民に医療保険を」と考えた民主党議員を中心に、独自の医療保険制度「オレゴンヘルスプラン(OHP)」を設立していた。バーバラのような、メディケアを受給するほど最底辺ではないが所得が低くて民間保険に入れない者は、OHPを通して民間保険に加入することができる。

 OHPの医療費支払いには「いのちに関わる医療行為から、改善の見込みが低い治療」まで、州独自の基準で優先順位がつけられていた。三年前、まだ初期ステージだったがん治療費用をOHPが支払ってくれたときのことを思い出し、バーバラはなんとか気持ちを落ち着けた。病気の再発はショックだが、まだ希望はあるのだ。

 だがその希望は、後日OHPから届いた一通の手紙によって、打ち砕かれることになる。

<がん治療薬の支払い申請は却下されました。服用するなら自費でどうぞ。代わりにオレゴン州で合法化されている安楽死薬なら、州の保険適用が可能です>

 州からの支払いがなければ、バーバラのような低所得患者がひと月4000ドル(40万円)のがん治療薬代を支払うのは不可能だ。だが1回50ドルの安楽死薬なら、自己負担はゼロですむ。

 のちに、この手紙について地元のテレビ局に聞かれたOHP事務局の担当者は、治る見込みのない患者に高い医療費を使うよりも、その分他の患者に予算をまわすほうが効率が良いと発言し、波紋を呼んだ。

 医療に従事していると、「医は仁術」とは言うけれど(「医は算術」という人も少なからずいますけど)、治療にはお金がかかる、ということもわかります。

 誰にでも、どんな病状にでも、昭和天皇が病に伏せられたときのような治療ができるわけではない、というのは、理解していただけるはずです。

 無い袖は振れないし、世界のあちこちでは、先進国の人がおやつを1回ガマンするくらいのお金があれば、助かる命だってある。

「医療経済的な効率」や「マンパワーの限界」も、無視するわけにはいかないんですよね、やっぱり。

 でも、このバーバラさんの場合は、まだ本人は元気で、治療法もある。

 にもかかわらず、「効率が悪い」という理由で、抗がん剤治療への支払いが、拒否されてしまったのです。

 何のための政府なのか、何のための医療保険なのか?

 これは、「オバマケア」成立前の話です。

 マイケル・ムーア監督が、映画『シッコ』で描いた、政治と医療保険業界の癒着によるアメリカの医療の荒廃は、オバマ大統領が苦心惨憺のうえ、なんとか成立させた「オバマケア」で、少しは改善されたのだろうと僕は思い込んでいました。

 オバマケアは、さまざまな圧力で「骨抜き」にされたのだとしても、とりあえず、アメリカも「国民皆保険」になったのは、大きな一歩ではあるだろう、と。

 リーマンショック以降、1930年代の大恐慌以来の不況を迎えたアメリカは、想像を絶する貧困大国と化している。2014年にカリフォルニア大学バークレイ校経済学部エマニュエル・サエズ教授とロンドン経済大学のガブリエル・ザックマン教授が行った調査によると、アメリカでは資産2000万ドル(20億円)以上の上位0.1パーセントが、国全体の富の20パーセントを所有しているという。

 全体の8割を占める中流以下の国民の富はわずか17パーセント。7秒に一軒の家が差し押さえられ、労働人口の3人に1人が職に就けず、6人に1人が貧困ライン以下の生活をするなか、年間150万人の国民が自己破産者となってゆく。

 自己破産理由のトップは「医療費」だ。

 アメリカには日本のような「国民界保険制度」がなく、市場原理が支配するため薬も医療費もどんどん値上がりし、一度の病気で多額の借金を抱えたり破産するケースが珍しくない。国民の3人に1人は、医療費の請求が払えないでいるという。

 民間保険は高いため、多くの人は安いが適用範囲が限定された「低保険」を買うか、約5000万人いる無保険者の1人となり、病気が重症化してからER(救急治療室)にかけこむ羽目になる。世界最先端の医療技術を誇りながら、アメリカでは、毎年4万5000人が、適切な治療を受けられずに亡くなってゆく。

 大半の労働者は雇用主を通じた民間保険に加入するが、保険を持っていても油断はできない。利益をあげたい保険会社があれこれ難癖をつけ、保険金給付をしぶったり、必要な治療を拒否するケースが多いからだ。驚くべきことに、医療破産者の8割は、保険加入者が占めている。

 こんな状況を「改善」するために、オバマ大統領が推進してきたのが「オバマケア」だったのです。

 ところが、この新書で著者がレポートしている「オバマケア後」のアメリカの医療の現状は、悲惨極まりないものでした。

 オバマケアは、「もともと何も持っていなかった無保険者層」にとっては、少しはプラスになった面もあるのかもしれませんが、これまで、なんとか民間保険に入って、「普通の生活」を送っていた人たちには、かえって大きな負担となってしまっています。

 熱心な民主党員だったというトンプソン家のリチャードさんは、オバマケアの成立に際して、こんな喜びの声をあげていました。

 オバマケアの素晴らしい点は、保険会社が今までのように持病を理由にした加入拒否や、病気になってからの一方的な解約を違法にしたこと、予防医療を含む10項目を保険の必須条件に入れたこと、個人年間負担額の上限を6350ドル(63万5000円)にしたこと、そして全国民の保険加入義務化だという。

「保険加入義務化は社会主義国家への道だとか言って批判していた共和党の奴らは、まったく勘違いしてるんだよ」

 リチャードは馬鹿にしたように言った。

「皆保険なんだから、より多くの人が加入すればその分一人一人の保険料が安くなるし、保険会社と国民の両方にメリットがあるにきまってるだろう。

 その証拠にオバマ大統領は、この法律で医療保険料が平均2500ドル(25万円)も安くなると言ってる。共和党の連中の、貧乏人のためにはびた一文出したくないっていう考えが、この国を悪くしているんだよ」

 そうだそうだ!と、僕もこれを読みながら思っていたんですよ、ところが……

 だが翌朝目が覚めると、郵便受けにこの手紙が入っていたのだ。

<きっと何かの間違いに違いない>

 アンジーはキッチンテーブルに広げた保険会社からの手紙を取り上げると、印刷されている番号に電話をかけた。

 コールセンターの女性にたずねると、確かにアンジーの加入している保険プランは2013年末で廃止されるという。

「理由は、お客様の加入されていたプランが、新しく通過したオバマケアの条件を満たしていないからです」

「どんな条件ですか?」

「例えば妊婦健診、避妊ピル、大腸検査、薬物中毒カウンセリング、小児医療……」

「ちょっと待ってください」

「電話口でリストを読み上げる女性の声をさえぎって、アンジーは反論した。

「妊婦健診に避妊ピル? 何かの間違いでしょう、私はもう53歳ですよ」

「はい。でも今後はすべての保険がこれらをカバーしなければ違法となるのです。いろいろ検討した結果、このプランは廃止することが決定しましたので……」

 驚いたことに、カイザーパーマネンテ社が解約通知を送ったのはアンジーたちだけではなかった。カリフォルニア州内の個人契約加入者の約半数、16万人との契約をキャンセルし、同州の個人契約保険市場から撤退するという。

 アンジーさんは、政府が各州に設置した「エクスチェンジ」と呼ばれる「保険販売所」で保険に入り直さなければならなくなりました。

 それでも、安いプランに切り替えられるのであれば、まあしょうがないか、と思っていたところ……

 彼女(販売所の相談員)によると、アンジーと夫が今まで持っていたのと同じ内容の保険を新しく別な民間保険会社から買う場合、自己免責額は一人につき5000ドル(50万円)で月々の保険料は二倍の1200ドル(12万円)、自己負担合計額の上限は1万2500ドル(125万円)になるという。

「今までと同じ保険を買いなおすのに二倍の保険料ですって?」

「はい。月々の料金を今までと同じにする場合は、かなりグレードを下げることになりますね」

 オバマケア、だめじゃん……

 新しい保険制度になれば、保険会社はそれぞれ「お得なプラン」を打ち出して、競争するはず……だったのです。

 ところが、著者はこんな事実を紹介しています。

「全米50州のうち45州は、保険市場の50パーセント以上が1社か2社の保険会社に独占されているのだ」

 結果的に、この夫妻は、今までよりずっと悪条件の保険を、高額の保険料で買うことになったのです。

 妊婦医療や避妊薬という、今後、使うことはないであろう医療サービスを含む保険を。

 そして、50人以上の社員を持つ企業へ、社員の医療保険提供が義務づけられたことに対して、多くの企業は、「(政府に)罰金を払って企業保険を廃止する」か「今いるフルタイム社員の勤務時間を減らし、大半をパートタイムに降格する」という「防衛策」をとりました。

 今のアメリカの企業にとって「保険を提供する」というのは、それほどまでの負担になっているのです。

 その結果、「労働時間は減り、企業保険にも加入できない」というパートタイム労働者が増加し、状況は、かえって悪化しているのです。

 この本を読んでいて、さらに暗澹たる気持ちになったのは、患者側だけではなく、医療従事者の側も、どんどん状況が悪化してきている、ということでした。

 ニューヨークのハーレム地区で開業しているというドン・ダイソン医師の話。

「いまアメリカの医師は想像を絶する過酷な労働条件とプレッシャー、終わりのないストレスにさらされて生きています。80年代から医師と患者の間に<マネージドケア>という制度が導入され、労働者の9割が民間保険に加入して、医療は保険会社が支配するようになった。患者の治療も薬の処方も、まず保険会社に聞かなければいけなくなり、そのための書類作成に膨大な時間を食うようになったのです。

 医療をビジネスが支配するというこのシステムは、医師を睡眠不足で過剰労働にさせ、何よりもプロとしてのプライドを粉々につぶしてしまう」

「どんな時にプライドをつぶされたと感じますか?」

「例えば、医療のイの字も知らないような若い女性に、患者に必要な薬を処方する許可をとらなきゃならない時。その薬が本当にいま必要か否かを、電話の向こうの素人とやりあうむなしさといったらありません。まあ彼女たちは承認の電話4件ごとに1件却下するといったようなノルマを会社から与えられていますから、絶対に折り合いはつかない。薬は必要ないだろうと繰り返す彼女に向かって、無駄だとわかっていてもつい言ってしまう。

『ねえ、50キロ先にある保険会社のコールセンターにいる君と、今目の前で患者を診察しているわたしと、いったいどっちがその答えを知っているだろうね?」

 でも彼女は却下します。それが会社の指示ならね。で、どうなるか? 患者は私を責めるわけです。なぜちゃんと保険会社に説明してくれないんだって。目の前で泣き出す患者もいます。却下したのは保険会社なのに、まるで私が患者を苦しめているような図になるのはとても辛いですよ」

 フロリダ州ジャクソンビル在住の外科医、ステファン・マイヤーズは、医師がみな裕福な勝ち組だというのは、もはや都市伝説に近い、とこぼす。

「確かに私の年収は20万ドル(2000万円)で、ごく平均的な外科医の給与ですが、訴訟保険料が年間17万5000ドル(1750万円)ですから、手取りは約2万5000ドル(約250万円)。しかもひっきりなしにやってくる患者と山のような事務作業で、寝る時間もない。これは<勝ち組>なんかじゃなくって<ワーキングプア>って呼ぶんじゃないですかね?

 こんな「仕事がきつくて、訴えられるリスクが高い、ワーキングプアになるだけの業界」を、誰が目ざすのだろうか?

 オバマケアによって、事務手続きはさらに煩雑になり、コンピュータへの入力のための残業が、診療後にも延々と続いていくのです。

 そして、オバマケアの患者を診療しても、国から出るお金は、他の患者よりも安く抑えられているのです。

 アメリカでは、多くの開業医が「オバマケアの患者お断り」を掲げているそうです。

 診療以外の事務手続きが非常に面倒で、診れば診るほど赤字になるような患者を診ろと言われても、それは困るだろうなあ、と。

 こんな状況では、医者になろうという人は少なくなっていくだろうし、医者の質、医療の質も下がっていくことは自明の理です。

 アメリカの医療の将来は、どうなっていくのか……

 そして、国民の健康よりも保険会社の利益を重んじる国は、どこへ向かっているのか……

 「オバマケア」がはじまっても、患者も、医療従事者も、幸せにはなっていないのです。

 「国民皆保険」になっても、結局のところ、「医療保険業界」と「ウォール街」のごくごく一部の人たち、そして、医療訴訟をどんどん起こす弁護士だけが潤うという構造は、何一つ変わってはいない。

 政治家たちも、資金を提供してくれる彼らに、逆らうことができないのです。

 取材の中で、アメリカの医療現場の人々に幾度となく言われた言葉がある。

「あなたの国の国民皆保険制度がうらやましい」

 WHOが絶賛し、世界40か国が導入する日本の制度。時代の中、さまざまな変化と共に個々の問題は出ているが、時の厚生労働省や医師会、心ある人々によって守られ、なんとか解体されずに残ってきたそのコンセプトは、私たちの国日本が持つ数少ない宝ものの一つなのだ。

 それが今、かつてよりはるかに大きな規模と資金力を手に入れたゲームのプレイヤーたちによって、厳しい攻勢をかけられている。

 日本の政治にも「問題点」はたくさんあると思います。

 でも、「国民皆保険」は、まちがいなく、世界に誇れるシステム(あるいは、世界でもっともマシなシステム)ではないでしょうか。

 これを「あたりまえ」だと思ってはいけないんだよね。

「規制緩和」なんていう威勢の良い言葉にごまかされて、大事なものを失ってはならない。

 アメリカをみていると、「どう考えてもおかしい状況でも、一度大きな利権を手にした人々から、それを取り戻すっていうのは、本当に難しい」のだから。

  • 2014年12月01日 00:00        BLOGOS

医療保護入院10年以上、県内20人 自治体対応に温度差

2014年12月03日 00時45分19秒 | 障害者の自立

 身寄りのない精神障害者らが市町村長の同意で入院する医療保護入院をめぐり、10年以上にわたり長期入院している患者が10月末現在で、県内に少なくとも20人いることが、市町村への取材で分かった。

 医療保護入院は、患者の意思とは異なる判断で入院の手続きが行われるため、法律や福祉の専門家は「障害者の人権が脅かされる」「形骸化している」と指摘。各自治体の対応にも温度差があり、改善を求める声が上がっている。

 10月下旬から11月にかけて、県内63自治体の担当者に電話で取材した。市町村長の同意により10年以上医療保護入院している20人は、18市2町長が同意していた。20人は身寄りがなく、症状が改善しないため、やむを得ず入院が長期化しているとみられる。

 精神保健福祉法では、市町村長の同意後、担当者が「速やかに本人に面会し、状態を把握する」としている。入院者が死亡・退院した場合や、同意する家族らが見つかった場合に、市町村長の同意は解除される。

 自治体の対応に温度差があることも浮き彫りになった。

 入院者に対応している自治体は「定期的に病院に訪問し連絡を取っている」「病院や施設と連携し、本人による任意の入院や施設への移行を図っている」「人権の問題。慎重に対応している」などの声があった。

 一方、担当者が入院者を訪問していない自治体もあった。「年に一度電話で病院に確認するだけ」「(入院者は)病院の手厚い保護が受けられる。同意後は行政が介入すべきではない」などの意見もあった。

 長期入院している20人のうち、県北部で10年を経過した入院者は2人だった。秩父郡市の自治体担当者は「同意しても、すぐに保護者が現れ解除になる。長期化するケースはない」という。身寄りのない高齢者の入院が長期化する事例は、都市部の方が多い。

 同意解除の確認をせず、書式上、医療保護入院の同意が継続している例も。ある担当者は「病院から解除の連絡が来ないので分からない」と自治体からの確認には消極的な姿勢を見せた。

 同意の事務を複数の部署で担当し、情報を共有していない自治体も目立った。2市が「資料がない」ことなどを理由に「分からない」と回答した。

 県疾病対策課によると、県内で医療保護入院の入院者の数は約8千人に上る。大半は家族などが同意しており、市町村長の同意による医療保護入院は約500人程度で推移しているとされる。

 同課の担当者は「市町村長が同意した後、入院後のフォローがどこまで行われるかは、その自治体ごとの判断によるところが大きい」としている。

■市町村同意による医療保護入院

 精神的な障害により精神保健指定医が入院が必要と判定した患者で、家族等がいない場合、市町村長が入院に同意する。

 精神保健福祉法に基づく「医療保護入院」は、都道府県知事の権限と責任で入院を強制する「措置入院」、本人の同意による「任意入院」と区別される。

 政府は今年4月、同法改正により同意する保護者の要件を修正。改正同法は医療機関に対して、医療保護入院者に、退院後の生活に向け、入院者を支援する相談員の選任を義務付けている。

2014年12月2日(火)        埼玉新聞