来年度からの介護報酬改定が2〜3%減を軸に政府内で調整されている。家族がなく経済的にも苦しい高齢者が急増する一方、職員の確保に窮している事業所が多いことを考えると、マイナス改定は問題が多い。
地域で暮らすお年寄りを支える介護サービスは小さな非営利組織(NPO)が担っているところが多く、もともと経営が弱い地域福祉の基盤を崩してしまう恐れがある。
財務省は当初6%の大幅減を打ち出した。安倍政権が消費増税を見送ったためである。消費税10%時に医療・介護の充実には約1.6兆円が投じられる予定だった。ところが、財源不足の手当ては子育てや基礎年金の国庫負担増が優先されることになったため、介護は一転して減額を強いられることになった。
膨張する財政赤字を考えれば財務当局の危機感はわかるが、全産業の平均月収より10万円以上も少ないのが介護職である。今回の改定では月収約1万円増の職員の待遇改善が実施される予定だが、それでも他産業より大きく見劣りする現状は変わらない。
団塊世代は戦後の3年間で800万人を超える出生数があり、突出して人口が多い。この世代が10年後には75歳を超える。その後も独居で介護を家族に頼れない高齢者は増え続ける。バブル崩壊後の就職氷河期でよい職に就けず、結婚できなかった世代が高齢期に差し掛かるころには、無年金・低年金の高齢者が大量に現れる。今のうちに介護サービスを拡充し、質の良い職員を育成し確保しておかねばならないのだ。
特養ホームが多額の内部留保を持つことがとかく問題視されているが、地域でヘルパー派遣や小規模多機能型デイサービスなどを行っている小さな事業所は経営の体力がないところが多い。このタイミングでの報酬減は大打撃だ。
介護報酬と連動して障害者支援の報酬も厳しい改定が迫られているが、高齢者介護よりさらに小さなNPOが多いのが障害者支援の特徴だ。担保も内部留保もなく銀行からの借り入れで事業展開しているところもある。これまでの報酬改定でプラスが続き、収益率も良いため銀行の融資を受けられているのだ。マイナス改定によって収益率が下がると、借入金の返済に行き詰まる事業所が出てくる恐れがある。
介護や障害者のサービスを利用しながら働いている女性は多い。公的介護の拡充は、安倍政権の女性活用政策にも通じる。介護報酬の削減は介護離職に拍車を掛け、労働力不足をさらに悪化させるだろう。成長戦略の足をも引っ張りかねないマイナス改定はやめた方がいい。
毎日新聞 2014年12月26日