障害年金の不支給や打ち切りに納得できない人が増えている。不服申し立てを受けた審理件数は10年間で3・5倍増の年約6500件。だが、申し立てを審理する態勢は半世紀の間、変わっていない。担当者の人数が限られて審理は滞留。内部から改善を求める声が上がっても放置され、受付窓口では不服申し立てを封じるような動きすら出ている。
▽8カ月
「受付件数の増加により、裁決まで平均で8カ月程度を要しています」
香川県に住む身体障害者の50代男性は今年3月、国の社会保険審査会から通知を受け取った。以前は片脚だけだった障害が病気の悪化で両脚になり、年金の増額を申請したが認められず、再審査請求に至った。
二審制となっている不服申し立ての審査に当たる担当者は、驚くほど少ない。一審に当たる地方厚生局の社会保険審査官は定数が全国で102人。二審段階の社会保険審査会の委員は6人。件数は昔と比較にならないほど増えているのに、約50年前から同じ人数だ。
審査会の審理期間は2009年度には平均約5カ月だったが、今や「迅速な救済」という本来の役割を果たせていない。男性は「8カ月もかかっていたら、障害が重い人の中には亡くなってしまう人もいるんじゃないか」と憤る。
▽権利制限
「上司から『審査請求(不服申し立て)を受けるな』と言われたことがありました」。関西地方の年金事務所を今春退職した日本年金機構の元職員は、こう打ち明ける。
「『丁寧に説明し、納得してもらうように』というのが建前だったが、申し立て件数を増やしたくない意図が明らかだった。国民の権利の制限になるので、問題だと思った」と元職員。
一方で、障害者団体などには「年金事務所で『不満があるなら、審査請求してください』と突き放すように言われた」という相談も寄せられる。
各地方厚生局の社会保険審査官はホームページに「審査請求を行うときは、あらかじめ年金機構などから決定の内容について詳細な説明を受けてください。単なる要請、陳情など不適切な審査請求になる場合があるからです」といった案内文を載せている。しかし、機構から不支給判定などについて詳しい説明を得られることは少ない。
障害基礎年金の判定事務を担うのは、機構の都道府県事務センター。現役職員によると、あるセンターでは判定する医師と担当職員の間で判断理由などについてメモが交わされるが、申請者への説明のため年金事務所に書類を送る際は、メモを一切添付しないという。
そのため申請者には不支給になった理由は伝わらない。この職員は「メモを出すと余計に突っ込まれるから、そうしているのだと思う」と話す。
▽ぬかにくぎ
障害年金支給の申請自体は、増加傾向にあるが小幅な伸びだ。一方で不服申し立てが急増しているのは、機構の判定に不満を抱く人が増えていることを物語る。
社会保険審査会の委員からは、厚生労働省に改善を求める声が何度も上がっていたという。
ある元委員は「機構の判定の地域差は何年も前から指摘していた。厳しすぎる不支給判定を審査会で覆しても、同様の事例が繰り返される。委員の増員要求も聞き入れられず、ぬかにくぎだった」と証言。「今のままでは国民のためになっていない」と嘆いた。
(共同通信) 2015/07/20 17:50