大阪工業大学工学部ロボット工学科の羽鳥綾香さん(22)は4年生になった今春、初めての一人暮らしを始めた。これまで神戸市内の実家から2時間かけて通学していたが、卒業研究が本格化することから、大学に近いマンションに引っ越したのだ。
3年生の後期から知能ロボット研究室で手話翻訳機の開発に取り組んでいる。現在は手話の動作をセンサーで検知してデータ化する初期の段階だが、8時間近く研究室にこもる日も。将来的には聴覚障害者の手の動きを文字や音声に変換し、誰もが理解できるようにしたいという羽鳥さん。センサーを両腕に巻きつけて使用するリストバンド型の開発を目指している。業界でも先例が少ないだけに「未知の分野の開拓者になったような気分。研究に没頭できる毎日がとても楽しい」と笑顔で語る。
システムエンジニアの両親はともに同大工学部経営工学科(当時)の出身で、そろって同大大学院を修了した文字通りの“理系夫婦”だ。羽鳥さんのメカ好きはこんな環境も影響しているのだろう。小学生のときには早くもパソコンを分解し、その成果をリポートにまとめて提出した。メカに対する熱中ぶりはいまも少しも変わらない。
夫婦、そして親子2代が同じキャンパスで学ぶのは同大でも珍しい。母親の裕子さん(53)が通っていたころ、同じ学科の女子学生はわずか2人。
当時は女子トイレがない校舎もあったそうだ。そのエピソードを聞かされていた羽鳥さんだが、実際に入学してみるとロボット工学科の女子は自分を含めて5人。「母の時代よりは増えていますよね」。
学部卒業後は同大大学院工学研究科に進学する。将来の夢は知能ロボットの研究者。「少子高齢社会のなかでロボットの可能性は大きく広がり、メカニックなものにも人間の心が求められる時代になる」と言い切り、認知科学や心理学も学びたいと意欲的だ。昨年の学園祭では「ロボット進化展」というイベントを企画し、訪れた子供たちにもロボットのプログラミングを体験してもらった。研究室では周囲を明るくするムードメーカー的な存在。指導する小林裕之准教授も「これからの研究成果に大いに期待したい」とエールを送る。
平成29年には大阪・梅田キャンパスが稼働する。現在、工学部にあるロボット工学科と空間デザイン科が移転し、新学科を加えたロボティクス&デザイン工学部(仮称)が誕生する計画だ。人間や環境に寄り添った研究開発を進めるのが新学部の狙い。羽鳥さんは大学院の修士課程2年になった段階で新キャンパスに移り、「自分の夢に挑戦したい」と目を輝かせた。
知能ロボット研究室で手話翻訳機の開発に取り組む羽鳥綾香さん
2015.7.12 産経ニュース