障害のある人が65歳を迎えたときに、障害福祉サービスが減ったり、自己負担額が増えたりするケースが相次いでいる。サービスを提供する制度が、障害者総合支援法によるものから、介護保険によるものに、原則切り替わるためだ。影響を受ける可能性がある人は全国で数万人に及び、障害者は「もとの障害福祉サービスに戻して」と訴えている。
二つの制度は何が違うのか。総合支援法は所得が低い人への配慮措置が盛り込まれていて、障害福祉サービスを利用する障害者の9割が無料だ。対して介護保険はサービス利用料の1割が原則、自己負担となる。これを前提に、制度の切り替えの影響をみると―。
札幌市に住み、緑内障で視覚障害1級の認定を受けているAさん(80)。通院や散歩などの外出には妻の介助が欠かせない。
両目の視力を失ったのは約10年前。当時65歳を超えていたため、総合支援法による障害福祉サービスではなく、介護保険が適用された。現在、要介護度2。週2回、施設に出向いて体操や入浴、食事したりするデイサービスを受けている。
ただ、月に1万2千~1万3千円を支払わなければならない。Aさんは「負担が少ない障害福祉サービスを適用してほしい。私の問題は『障害』なのに、介護保険で処理されるのはおかしい」として、札幌市に要望文を送っている。
同じ札幌市内に住むBさん(62)は、ほかの障害者よりも10年ほど早く「65歳の壁」に直面した。
04年に脳梗塞で高次脳機能障害を負った。高次脳機能障害は国が指定する「特定疾病」の一つ。40歳以上で外傷が原因ではなく、生活上の支えが必要な人に限って、介護保険が適用されることになっている。
Bさんは左半身にしびれがあり、物覚えが悪くなって、感情を抑えきれないなどの後遺症が残る。妻も足が不自由で、「食事や入浴など家事援助を受けたい」。夫婦でそう思っている。
しかし制度上、障害福祉サービスを受けたくても受けられない。かといって、介護保険の家事援助を受けると、負担が増えてしまうため諦めたという。
Bさんは「特別な病気で特別な対応をしてくれるはずなのに、なぜ本人の希望を聞いてくれないのか」と憤る。
■「支援法」に規定
65歳以上の障害者について、障害福祉よりも介護保険のサービスが優先的に適用されるのは、障害者総合支援法にそう明記されているからだ。障害者団体はこれまでも障害福祉サービスの継続を求めていたが、厚労省は介護保険を優先させる立場を崩していない。
ただ、厚労省は一律の適用を求めておらず、不都合が生じないよう、各自治体に障害者の要望にも配慮するよう通知している。介護保険だけではサービスが不十分な場合や、介護保険になく障害者独自のサービスが必要な場合などを想定しているという。
■選択権を認めて
しかし、その通知が自治体に浸透しているとは言えないのが実態だ。
全国の障害者の作業所などでつくる「きょうされん」(東京、西村直理事長)は昨年9月、介護保険に切り替わったときの影響について調査結果を発表した。
それによると、家事や介護などの訪問支援を受けた65歳以上の障害者の8割がこれまでの無料から自己負担を強いられた。2割はサービスを打ち切られた。
きょうされんは「65歳で制度を切り替えるのを改めてもらいたい。障害者が双方のサービスから選べるようにし、どの自治体でも同じサービスを受けられるようにしてほしい」と話す。
13年4月に施行された障害者総合支援法には、3年をめどに内容を見直すとの付則がある。
厚労省は、障害者団体の意向を踏まえ、制度切り替えに伴う自己負担額や介護保険に移行した障害者の人数などの実態調査を行う考えで、今秋にも中間報告を出す。その結果を総合支援法の見直し議論に反映させる考えだ。
07/14 北海道新聞