◆「農福連携」埼玉福興・新井利昌社長
利根川に近い熊谷市北部の妻沼地区。埼玉らしい田園地帯の中で、遠い地中海を思わせるオリーブの木が常緑の葉を揺らしていた。農業生産法人埼玉福興社長の新井利昌さん(41)は「適地とパートナーを探して、将来は全国に百万本のオリーブを植えたい」と壮大な夢を語る。
日本での一大産地・香川県小豆島から取り寄せた三百本の苗木を植えてから十一年。オリーブ畑は、今では熊谷市と本庄市に計四カ所、計七百本に増えた。
成長する若いオリーブの木々は、自らが興した埼玉福興の歩みと重なる。同社は一九九六年設立。知的障害者らが共同生活する生活寮を運営しながら、就労支援事業としてボールペンの組み立て作業などを請け負ってきたが、発注メーカーの海外移転で仕事が減ってしまった。
思い悩んだ結果、二〇〇四年に「人が生きていくには食料は欠かせない。担い手が不足している農業にこそ活路がある」と農業分野への進出を決めた。高齢化などで働き手が足りない農業と、働ける場が少ない障害者福祉現場とのマッチングを図る「農福連携」だ。同年にオリーブを初めて植え、〇七年には農業生産法人の認可を取得。県内初の農業への異業種参入となった。
農薬も肥料も使わない自然栽培に徹している。オリーブの葉の薬効成分が注目されるようになり、最近はハーブ店や菓子製造業者からの引き合いが増え、葉を加工した粉末を含め年間四百キログラム出荷している。
葉に比べると規模は小さいが、オリーブの実はオリーブオイルに加工している。「フレッシュな青リンゴのような風味」と評判だ。一昨年には国際的なオリーブオイルのコンテスト「OLIVE JAPAN 2014」で銀賞受賞という朗報も届いた。
現在はサラダホウレンソウのハウス栽培や約三ヘクタールの畑でハクサイやタマネギなどを生産する。埼玉福興の正社員十人中二人が障害者で、ほかに就労支援事業所で知的障害や発達障害など三十人の障害者が農作業に従事している。
さらに障害者雇用の機会は広げようと、まとまった農地を確保するため、群馬県内の農業生産法人と組み、NPO法人「アグリファームジャパン」を設立した。同県高崎市に約六十ヘクタールの農地を確保。グループホームと就労支援事業所の新拠点を開設し、二月からハクサイなどの生産に乗り出すことになった。
新拠点には二十人の障害者が働く予定という。新井さんは意気込む。「農業のプロ集団と障害者雇用のプロの私たちとの共同作戦で相乗効果を上げ、もっとこの輪を広げたい」
大きく育ちつつあるオリーブ畑を見る新井利昌埼玉福興社長
2016年1月6日 東京新聞