ネオン輝く新宿ゴールデン街。今月、「欠損BAR(バー)」と名付けられたバーが2日間限定で開店する。店に立ち、客の話し相手になるのは、手や足を失い、義手や義足を付けた女性。「隠す」から「見せる」へ。障害との向き合い方を変える試みだ。
この店は、15~16日に開店する「欠損BAR ブッシュドノエル」。昨年10月にも期間限定で開店した。仕掛け人は、神奈川県大和市の映像作家、太田康邦さん(40)。5年ほど前から義手や義足を使う女性を撮影している。
バーに立つのは、「欠損女子」として太田さんの撮影でモデルをする幸子さん(28)と琴音さん(22)。普段はデザイン会社に勤める川崎市中原区の幸子さんは、小学1年の時、下校途中にダンプカーにはねられて右足の太ももから下を失った。
中学生のころから、アニメのキャラクターに扮するコスプレをするように。だが、短いスカートをはくキャラクターは極力避けた。義足に脱脂綿を巻き、さらにストッキングをはいて、できるだけ義足だと分からないようにした。
「義足は表に出すものじゃない。そのままの自分でコスプレできたら、すごく開放的なのに」。事故以降、全身が写った写真はほとんど残っていない。
一緒にバーに立つ横浜市のアルバイト、琴音さんは、15歳の時に交通事故で右腕のひじから先を失った。「『ありのままでいい』と言ってくれる人もいるけど、欠損は隠してきた」。毎日付けている本物の腕に似せた「装飾義手」は、2年で真っ黒に汚れた。
面と向かって「かわいそう」と言われることもある。「私は何もかわいそうじゃないし、できないことがあるのは健常者も同じ。私たちの存在をちゃんと知ってほしい」
2人の思いは撮影を通じて、さらに前回、期間限定のバーに立って変わった。客に頼まれて義足を外すと、「傷が逆にかわいいね」と言われた。「『傷がセクシーだね』って言ってもいい?」とも。一つの魅力としてとらえてくれた。琴音さんは「一つの個性をもらったんだ、と思えるようになった」と言う。
前回は2日間で延べ60人が来店した。今回も全席予約制で、定員約60人が数時間で満席に。企画した太田さんは「障害を『見せ物』にすることへのタブー視が強いなかで、『こんなことをやっていいんだ』と思ってもらえたら、うれしい」。
朝日新聞社 1月6日