17日で発生から21年となる阪神・淡路大震災では、お年寄りや障害者など、災害時に支援や配慮が必要な被災者を受け入れる「福祉避難所」の必要性が指摘されました。しかし、全国の20%余りの自治体ではまだ1か所も指定されていないことが、NHKが各都道府県を通じて行った調査で分かりました。
21年前の平成7年に起きた阪神・淡路大震災では、6434人の死者のうち、900人余りが避難生活などで亡くなりました。その多くがお年寄りとみられ、震災のあと、お年寄りや障害者など災害時に支援や配慮が必要な被災者を受け入れる「福祉避難所」の必要性が指摘されました。
この「福祉避難所」について、NHKは今月、47の都道府県を通じて全国1741の市区町村の指定状況を尋ねました。それによりますと、「福祉避難所を指定した」と回答したのは1371の市区町村で、4年前に国が行った調査と比べて1.4倍に増えました。
一方、全体の21%に当たる370の自治体はまだ1か所も指定しておらず、その理由を尋ねたところ、複数の都道府県が「指定できる適切な福祉施設がない」、「支援に当たる人材が不足している」などと回答しました。
また、国が都道府県に作成するよう求めている、福祉避難所の設置や運営に関するマニュアルについては、4割近くに当たる18の県でまだ作成されていませんでした。
福祉避難所とは
国のガイドラインによりますと、「福祉避難所」は、手すりや障害者用のトイレの設置、それに段差の解消などのバリアフリー化や、車いすや介護用品といった、必要な物資の備蓄が求められます。また、重度の障害者を受け入れる場合などは、介護や支援の専門知識を持つ人を確保することも必要になります。
このため、そうした設備や人員がすでに整っている老人ホームや障害者支援施設などの民間の施設を、自治体が「福祉避難所」に指定するケースが多くなっています。
「福祉避難所」を巡っては、国の研究会が阪神・淡路大震災の翌年の平成8年5月にまとめた報告書の中で、「あらかじめ福祉避難所を確保しておくことが必要」と指摘しました。しかし、5年前の東日本大震災でも避難生活の長期化で体調を崩したり、持病を悪化させたりするお年寄りや障害者が相次ぎました。
このため国は、3年前の平成25年に災害対策基本法を改正し、お年寄りや障害者などが適切な介護や医療を受けられる施設を「福祉避難所」として事前に指定するよう、各自治体に求めました。さらに、自治体が福祉避難所の設置や運営方法についてのマニュアルを作成したうえで、お年寄りや障害者、それに地域の住民が参加する訓練を行い、地域の実情にあった対策を進めることが必要だとしています。
車いすの夫婦「整備お願いしたい」
阪神・淡路大震災では、避難所に障害者を受け入れる設備が整えられていなかったため、いったん避難したものの居続けられず、一晩で自宅に戻らざるをえなかった人たちがいます。
神戸市須磨区に住む山本一四さん(66)と佳世子さん(80)夫婦はともに足などに障害があり、生活に車いすが欠かせません。阪神・淡路大震災では、自宅に大きな被害はありませんでしたが、大きな余震が続くなかで不安を感じ、夕方になって近くの小学校に避難しました。しかし、学校の入口のスロープの上に物が置いてあったため入るのに苦労したうえ、トイレには障害者用の手すりなどは設置されていませんでした。
山本さん夫婦は避難してきているほかの住民の迷惑になると考え、誰かに支援を求めることはできず、一晩トイレに行くのを我慢して車いすに座ったまま、眠れずに夜を明かしました。そして、このまま避難所にいると体調を崩してしまうと考え、自宅に戻りました。しかし、避難所とは違い、自宅には食料や水の支給など行政やボランティアなどの支援が届かず、時折心配して訪れた知り合いを頼ってなんとか生活を続けたといいます。
妻の佳世子さんは「当時、避難所では誰かに助けてくださいと言える状態ではなく、自宅に戻ったあとの生活は本当に心細いものでした。福祉避難所の整備をぜひお願いしたいです」と話しています。
さらに、震災から17日で21年となる今、山本さん夫婦は新たな不安を抱えています。震災のあと、神戸市では福祉避難所の指定が進み、現在では335施設が指定されています。山本さん夫婦は、災害時には福祉避難所に指定された近所にある特別養護老人ホームに避難したいと考えていますが、途中急な坂になっていて、大雨などの際冠水する危険がある鉄道のガード下を通らなければなりません。また、車いすは道に少しでも段差などがあると動けなくなってしまいますが、今のところ、誰かが助けに来てくれるあてはないといいます。
佳世子さんは「福祉避難所までたどり着けないと考えると本当に恐ろしいです。避難する際に誰かが手助けしてくれるとありがたいのですが」と話していました。
住民が避難手助けする取り組みも
お年寄りや障害者が福祉避難所に向かう際に住民が手助けする取り組みを始めた地域があります。
市のすぐ近くを走る断層で、最大、震度7の揺れが想定されている京都府長岡京市は、地域の住民にお年寄りや障害者の避難を手助けする「避難支援者」として登録してもらう取り組みを3年前から始めました。
このうち、およそ360世帯が暮らす長岡京市の小畑町では、地元の自主防災会が中心になって29人いる支援の必要なお年寄りや障害者全員に対し、「避難支援者」を1人以上、登録しています。そして「避難支援者」とお年寄りや障害者がどこに住んでいるかがひと目で分かる地図を作ったり、避難訓練を行ったりしています。小畑町自主防災会のメンバーで、長年、地域の民生委員を務めてきた井上トシ子さん(74)も、隣に住む97歳の男性の避難支援者に登録していて、日ごろから声かけを行い、どのような支援が必要なのかを把握するようにしています。井上さんは、「病気やかかりつけの医者のことなどを常に把握するようにしています。災害の時には一緒に避難して福祉避難所や病院に送り届けるまで、決して1人にしないようにしたいと思います」と話していました。
小畑町では、「避難支援者」とお年寄りや障害者が、まず、公園などに一時的に避難します。その後障害やけがの程度が重い順に、市内に14か所ある福祉避難所や病院などに振り分け、避難してもらうことにしていて、公園にある防災倉庫には車いすやリヤカーも準備しています。小畑町自主防災会の五屋敏明会長は、「われわれが助けなければ誰が助けるのかという思いで取り組みを進めています。近所の人たちが一体となって手助けができる体制を整えていきたい」と話していました。
専門家「地域で知り合う努力を」
福祉避難所に詳しい同志社大学の立木茂雄教授は、「適切な施設がないという自治体も、学校の体育館など一般の避難所の一角をカーテンで区切ったりベッドを置いたりして、『福祉避難コーナー』を設置するなどの方法もあり、幅を広げて対応する必要がある」と話しています。
また、「東日本大震災でお年寄りや障害者の避難を支援したのは、主にご近所の方々だった。災害の発生前からお互いに知り合う努力をしていた地域では、スムーズな避難につながった」としたうえで、「日頃から行政や社会福祉協議会などが、お年寄りや障害者と住民が一緒に参加する防災訓練を行うなどして、両者の間を取り持つ役割をぜひ果たしてもらいたい」と話していました。