先駆け「BABY in ME」 考案者・村松さんに聞く
「BABY in ME」というマークを知っていますか。「妊娠しています」と周囲に示すマークで、厚生労働省が選んだマタニティーマークに先駆け、1999年に発表されました。17年前から使われ続けている草分けのマークは、どんなふうに生まれたのか。考案した横浜市在住のライター村松純子さん(52)に聞きました。
ハートをおなかに抱く女性が線画でユーモラスに描かれ、「BABY in ME」とうたうマークだ。「妊婦は赤ちゃんをおなかに抱っこしているのと同じだと思って、赤ちゃんをハートで見える化したんです。かわいい~って見た人が笑顔になるよう、おしゃれに雑貨っぽく」
■つらさ伝えたい
考えるきっかけは20年ほど前。友人がつわりで気持ち悪くても「二日酔いか」としか思われず、電車通勤に苦しんでいた。自身はアレルギーがひどく、電車で立つのもつらかった。しんどさが伝わらない苦しさは友人も自分も同じだな。「つらいですマーク」を作ろう!と思い立った。
なかでも妊婦を対象としたマークにしたのは、赤ちゃんの命を守ることが大事だと思ったから。
「マークをつけた妊婦にだれかが席を譲る場面を見た人が、別の機会に高齢者や内部障害者へ気遣いをするかもしれない。やさしい気持ちを引き出す、気づきの一歩になれば」。そう期待した。
押しつけがましくなく、つける女性も楽しくなるデザインをと、1年余り試行錯誤した。できたのは99年、36歳のとき。いきなりは量産できず、ロゴ入りTシャツ20枚を作ったのがスタートだ。
2年後にバッジを作り、新聞や雑誌でとりあげられて話題に。その後、北海道釧路市(いまは終了)といった自治体や病院で配られるようになった。東京都千代田区は2003年から配布を続け、妊娠を届け出たときの「母と子の保健バッグ」に入れてバッグチャームが渡される。
■社会の意識、変化
当初、鉄道会社などにPRしても、「妊娠中と示すのは恥ずかしい、と抵抗感が妊婦にあるだろう」と後ろ向きだったという。ところが、「席を譲ってもらった。友だちに贈る」「私のお守り」とネット販売で手に入れた使い手がブログなどで評判を広めた。05年には、自治体の配布分も含めてバッジが1万個ほど売れた。
「バッジをつけてくれた人たちがいるから、社会の意識が変わっていった。堂々とマークをつけようよ、と。そして見る側も、妊婦さんに配慮しようと」と話す。「BABY in ME」グッズは約30種に増え、バッジは年間200個ほど地道に売れ続けている。
近ごろ、妊婦の間で厚労省が提唱するマタニティーマークがつけにくいという意見があることについて、「妊婦に席を譲る場面も見かけるけれど、譲られないことや、暴言を吐かれたという極端な話がツイッターで拡散されやすい」と話し、妊婦へのまなざしは基本的に優しいと考える。
「ただ、マークが配慮を求める“水戸黄門の印籠(いんろう)”と受け止められないよう、つらい時だけつけるといった使い分けがされてもいいかもしれない」
村松さんには子どもはいない。いつかマークをつけたいという思いもあった。「かけがえのなさがわかるからこそ、子どもの命が奇跡だと実感するし、妊婦を気遣えるんじゃないかと思う」
妊娠中の体の変化が、夫や友人にもわかるカレンダーの無料アプリも作った(詳しくは公式サイトhttp://www.baby-in-me.com/)。「BABY in ME」のマークをあしらった。周囲の人も妊娠や出産について知ることで、想像力がもっと働けばと願う。
■独自のマークを配る自治体も
厚労省のマタニティーマークがスタートした06年は、子育て支援の動きが盛り上がった年で、独自マークを配り始めた自治体もある。愛知県豊田市のマーク「まーむ(母夢)」のデザインは、05年に募集して選ばれた中学3年生の作品だ。小学4年~中学3年生を対象に、夏休みの宿題を想定して募集した。「思春期の子に赤ちゃんのころを振り返り、命について考えるきっかけにしてほしかった」と子ども家庭課。厚労省によるマークと独自マークが裏表になったストラップ=(上)=と、車につける独自マークのグッズを配布している。
群馬県の前橋市・高崎市は連携して「おなかの赤ちゃんをみんなで守る事業」を繰り広げる中、マークを公募して選んだ。チェーンホルダーと車用ステッカー=(下)=がある。「車社会なので、ステッカーもよく使われている」と前橋市子育て支援課はいう。
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村松純子さんと「BABY in ME」マーク。ステッカー、スマホケース、しおりやバッグとグッズは多彩
016年1月26日 朝日新聞
http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/