高齢者ら「災害弱者」を、いかに守るか。統計開始以来、初めて太平洋側から東北地方に上陸した台風10号は、重い教訓を残した。
岩泉町は30日午前、避難準備情報を出したが、施設側は入所者を避難誘導しなかった。その日の夕方、川の水位が急上昇した。施設は濁流に浸(つ)かり、自力では避難できない入所者が犠牲となった。
施設は平屋建てで、すぐ隣には3階建ての別の施設がある。早い段階で避難していれば、難を逃れられたかもしれない。
認知症の高齢者は、災害時に状況が理解出来なかったり、興奮したりして、避難が困難な場合がある、と専門家は指摘する。
2011年の豪雨で、一帯が浸水被害に見舞われたにもかかわらず、施設は避難マニュアルを作成していなかった。避難に支援を要する高齢者が暮らす施設でありながら、危機意識があまりに甘かったと言わざるを得ない。
そもそも、河川の脇に、施設を建設したこと自体に問題があったのではないか。氾濫すれば、すぐさま水が押し寄せることは、十分に予測できたはずだ。
町の対応についても、検証が必要だ。避難準備情報を出した後、小本川の水位が上昇しても、避難勧告や避難指示に切り替えなかった。施設側に切迫した状況が伝わらなかった可能性がある。
東日本大震災の教訓を踏まえ、13年に成立した改正災害対策基本法は、避難時の要支援者の名簿作成を市町村に義務付けた。改正法に基づく指針では、施設ごとに避難計画の策定も求めている。
認知症高齢者が暮らすグループホームは、全国で1万3000か所に上る。特別養護老人ホームや障害者施設なども含め、避難計画の整備状況を総点検すべきだ。
災害発生時には、地域住民の手助けも必要になるだろう。日頃の訓練などを通して、協力態勢を確認しておきたい。
防災の日だった1日、36都道府県で約100万人が参加して様々な訓練が実施された。
これに先立ち、秋田県や福島県などは、豪雨と大地震が重なる「複合災害」を想定した訓練を行った。洪水に加え、地震に伴う土砂崩れや津波被害が発生した際の救助の手順などを確認した。
日本は災害列島だ。先例のない災害にも備えねばならない。