「たった一言、声かけができていれば…」
銀座線・青山一丁目駅で、視覚障害者の品田直人さん(享年55)がホームから転落して死亡した事故。この現代社会で私たちが無関心になりすぎていることがこの事故を引き起こしたといえる。
この件について取材をしていくなかで、「ホームドアの設置が進まない」という問題が浮かび上がった。現在全国9500駅のうち、655駅にホームドアが設置されているが、事故現場にはホームドアが設置されていなかった。そもそもホームドアの設置はどのように進められてきたのか? 国土交通省鉄道局都市鉄道政策課の担当者が説明する。
「ホームドアを最初に国として進めていくきっかけになったのは、2001年に新大久保の駅で起きた転落事故です。この時亡くなったのは視覚障害者ではなかったのですが、転落者を助けようとした韓国人留学生も一緒に亡くなるという非常に痛ましい事故となりました。その後ホームドア設置の具体的な方針を打ち出すことになったのは2011年のこと。東京・目白駅で白杖を持った視覚障害者が転落したことがきっかけとなりました」
この時、国交省は「利用者数が1日当たり10万人以上の駅について、ホームドアを優先的に整備する」と打ち出した。しかしこの条件に該当する全国251駅のうち、現在までにホームドアが設置されているのはたった77駅。全体の約30%だけだ。事故現場となった青山一丁目駅も1日の利用者は約10万人以上だが、前述のとおり、ホームドアは設置されていない。
鉄道評論家の川島令三さんは、その理由について、ホームドアの重量に耐えられるよう、まずはホームの補強から始めなければいけないこと、また線路の直近に柱が建っていることから、歩行の邪魔になることなどの問題点を指摘したが、他の駅ではどうか?
「例えばJR東日本では、品川駅の山手線ではホームドアが設置されていますが、同じ品川駅でも、東海道線のホームにはホームドアが設置されていません。これは特急列車のドア数やドアがある場所が違うので、ホームドアの設置が難しいのです。
現在ホームドアがまったくついていない日比谷線は、今後車両を新しいタイプのものに置き換え、その後ホームドアを設置するとの方針です。しかし時間もお金もかかりますので、各路線が日比谷線のように対応できるわけではありません」(川島さん)
ちなみに国交省によると、ホームドアの設置にかかる費用の分担は、「基本的に国が3分の1、地方自治体が3分の1、事業者が3分の1という考え方」とのこと。
これらの問題を解決すべく新しい取り組みも始まっている。例えば横向きに張られたロープが上下方向に動く「昇降式ホーム柵」だ。JR西日本の高槻駅がこの3月から導入している。
「ただ、ロープが上昇する際に手などがひっかかる可能性があります。そういった場合は安全装置が働いて、すぐに上昇を中止しますが、その安全装置を動作させるセンサーの精度をどのくらいにするか迷っている面もあります。よくするといつも止まってしまいますし、悪くすると安全性に問題がでます。
また、高校生などがホーム上でそのロープを利用してプロレスごっこをするなどの問題が生じ、普及に至っていません」(川島さん)
2020年の東京五輪に向けて、全国800駅でホームドア設置を目標にしているが、今回の一件を受けて変更はないのだろうか?
東京メトロでは、「早期設置を目指す」というが、JR東日本は「今のところありません」とのこと。
やはり、費用の問題もあるかもしれないが、新宿駅をはじめ各地で駅開発が続々と進められている。人を集めることを考える前に、まずは駅のホームドア設置に時間とお金をさくよう切に願う。品田さんのような悲劇を繰り返さないために——。
ホームドアの設置には1駅数億~十数億円かかるといわれている
※女性セブン2016年9月22日号