高知県黒潮町の障害者支援施設「大方誠心園」で4月、30代の男性職員が重度知的障害者の60代の男性入所者をひざで蹴り、睾丸(こうがん)破裂の重傷を負わせていたことが施設への取材でわかった。県警中村署は虐待事件とみて傷害容疑で調べている。
施設によると、施設の寮で4月26日午前6時半ごろ、前夜から勤務が続いていた職員が起床後の入所者の着替えを手伝っていた際、60代男性の下腹部をひざで1回蹴ったという。同日午前11時半ごろ、男性のトイレの介助をしていた別の職員が、腫れて変色した下腹部に気づいた。男性は意識がもうろうとしていたため、すぐに病院に搬送され、即日入院し、手術を受けた。現在は退院して再び施設の寮に入所しているという。
施設は職員に話を聴こうとしたが、当初関与を否定していた。だが、5月1日に暴行を認めた。「男性が服を何度も脱ぎ捨てるため、腹を立てた」などと話しているという。男性は以前から何度も服を脱ぎ捨てており、その度にこの職員が手伝っていた。職員は同日、中村署に出頭した。
施設を運営する社会福祉法人「土佐七郷会」は30日に会見を開いた。酒井晴夫施設長は「職員の意見を聞いて検証し、二度とこのようなことが起きないような環境を作っていきたい」と話した。
施設の労働環境は
激務といわれる福祉の現場で、働く環境は適切だったのか。
「大方誠心園」は障害者総合支援法に基づき、県から指定障害福祉サービス事業者の認可を受け、人件費など運営費として給付金を受け取っている。
障害者総合支援法は、障害者支援施設の夜勤の時間や職員数の基準を定めている。入所者が60人以下では1人以上の職員が必要。60人を超えた場合は、40人増えるごとにさらに職員1人以上を加えなければならない。
「大方誠心園」によると、四つの寮に知的障害者計79人が入所している。法令で最低2人の職員が必要だ。県障害福祉課によると、この施設では、暴行があった当日の夜勤の時間帯には各寮に1人ずつ計4人の職員が配置されており、基準は満たしていたという。
同課は「施設職員による虐待は絶対にあってはならない」とする一方で、「職員が夜勤で複数の入所者に対応することに精神的な負担を感じていた可能性がある」と指摘する。
被害にあった男性が入所前に住んでいた自治体により5月2日から調査が始まっている。県は今後、この調査の結果次第では、施設の労働環境などを調べる。
施設を運営する社会福祉法人「土佐七郷会」は会見で「これまで夜勤では法令の基準より多い人数を配置してきたが、何か起きた場合に複数で対応する必要性がある」などと、職員をさらに増やす方針を示した。
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