自らもチョークの生産ラインの仕事をしてみると、それは想像以上に大変だった。
「この作業を8時間ずっとやるのは、自分には無理だな……」
知的障害者は、一途に取り組める人が多いという。
「その集中力や根気のよさは、素晴らしいものがある。僕はとてもかないません」
知的障害者の従業員たちが会社を支えてくれているのだと敬う気持ちも生まれてきた。
「そのとき、この形で発展できる会社を目指せばいいのだと、迷いがなくなったのです」
一方、知的障害者は、言葉や文字、数字による理解が苦手という傾向にある。
「マニュアルで理解するのは、彼らは苦手です。当社では、人がマニュアルに従うのではなく、逆に人に合わせる。それぞれの理解力に合わせているのです」
口でいくら説明しても原料の計量方法を理解できない社員がいた。
その彼でも信号の色は見分けられることに気づき、原料を入れた容器とその分量を決める重りの色を同じにしたところ、彼は色を頼りに正確に計量できるようになったという。
時計を読めない社員には、砂時計を使った。チョークの検査には、複雑な計測器を使わなくてもいいように、チョークを差し込めば規格の選別ができるような箱型の治具を考案した。
こうして、それぞれの理解力に合わせた工夫をしながら、同社は根気よく、知的障害者を社員として育ててきた。
彼らと接していると、健常者よりもよほど人間力があるのではないかと、大山は思うことがある。
「繕うことなく素直だったり、すごく純粋で思いやりがあったりしますからね」
計量の正確さを褒めると、その社員は言った。
「もっと量っていいですか」
つまり、もっと褒めてもらいたいのだ。
「評価されることが彼らの自信ややりがいになって、頑張れるのです」
勤続30年、40年のベテランも少なくない。人生の選択肢が決して多くはない彼らにとって、日本理化学工業という会社が心のよりどころになっているのだろうということは想像に難くない。
「社員旅行とかレクリエーションとかをすごく楽しみにしてくれています。忘年会には、知的障害者の社員第1号として53年勤務してくれた女性をはじめ、OBも顔を出します」
2009年には父・泰弘が渋沢栄一賞を受賞、その授賞理由に驚いた。
「障害者を20歳から60歳まで40年間、福祉施設で面倒を見れば1人2億円かかるところ、貴社はすでに60歳以上まで5人も働かせてあげており、10億円以上社会貢献された」
2018年6月21日 日刊ゲンダイ