◇行政手続きに手話通訳、車いすでの乗降介助
障害を理由にした差別をなくすため制定された「障害者差別解消法」が、2016年4月の施行から3年目を迎えた。障害者が不当な扱いを受けないよう「合理的配慮」を行うのは行政機関の義務だが、府で先月、聴覚障害の女性に手話通訳を手配しないという、法に反する不祥事が発覚した。障害者側からの相談が増え続けている一方で、法の理念は社会に浸透していない。
■「本丸」の不祥事
「障害者差別の解消に取り組む主体として、合理的配慮の提供は義務」
4月末、府庁の全部署に福祉部長名の注意喚起文書が配布された。
背景には、3月に環境農林水産部の職員7人が処分された、障害者差別問題がある。聴覚障害がある女性が府の窓口で行う行政手続きで手話通訳の手配を求めたのに、同部職員が2016年秋から半年間放置。昨夏になっても「筆談でお願いしたい」と、障害に配慮しない対応をしていた。
府では法施行初年度、部局や課ごとに代表者を集めて研修を開き、出席者が所属部署に戻って内容を伝える方法で、法の趣旨の浸透を図っていた。ところが、環境農林水産部の1部署で情報が共有されず、趣旨を十分に認識しない職員が残る事態になっていた。
行政機関には民間事業者や府民に法の趣旨を説明し、理解してもらう役割がある。障害者への配慮を著しく欠いた事業者には、行政指導もできる。ところが、その「本丸」での不祥事に、庁内に衝撃が走った。
■社会の認識も未熟
▽車いすの人が飛行機に乗る際、航空会社の社員が階段式タラップを介助なしに、はって搭乗させた▽知的障害者の成人女性が、了解なしに男性の介護職員にシャワー介助を受けた――。
昨年度、府に寄せられた相談の一部だ。こうした相談をめぐり府が17年度に民間事業者に行った改善を促すなどの対応件数は989回で、16年度の517回を大幅に上回った。法の施行により、障害者側が差別事案への対応強化を求めていることが、背景にある。
府は今年3月、府民の法に対する意識を調べるインターネット調査を行い、1000人から回答を得た。法が施行されたことを知っていたのは43・9%、「合理的配慮を行わないことは差別にあたると思う」と答えたのは40・8%で、施行から2年がたっても、社会の認識や理解は低いままとの結果だった。
■自治体の模索
社会全体の意識が向上しないなかで、府や市町村は模索を続けている。
府は昨年度、合理的配慮のイメージをつかんでもらおうと、障害者差別の具体例を示す冊子やDVDを作った。冊子はネット上で読めるようにし、DVDは今夏から民間事業者に2000円(税抜き)で販売する。具体例を載せたポケットサイズの手引書「“合理的配慮”接客のヒント集」も事業者に無料配布している。
市町村も職員の対応要領を作成したり、事業者への出前講座を行ったりしている。その中で、最も踏み込んでいるのが茨木市だ。
同市は今年4月、市内の民間事業者に行政機関並みに合理的配慮徹底を義務として課す条例を施行させた。来年8月からは、悪質な差別をした事業者が改善に応じなければ、事業者名を公表する罰則を運用する。
市障害福祉課の担当者は「罰則を付けた踏み込んだ対応に臨まなければ、意識は高まらないと判断した。市側も、合理的配慮についてよりわかりやすく伝える姿勢を示したい」と話す。
障害者の生活相談や支援を行うNPO法人「ちゅうぶ」(大阪市東住吉区)の石田義典事務局長は「障害者差別解消法は理念的で、具体的にどういうケースが差別にあたるかがわかりにくい。行政は寄せられた相談と改善例を積極的に周知して、法の趣旨を浸透させてほしい」と話している。
◇合理的配慮 障害者差別解消法は国や自治体、民間事業者に対し、障害を理由にサービス提供を拒むなどの行為を禁じている。「合理的配慮」は障害者の社会的バリアをとりのぞくため、車いす移動の介助や手話通訳の提供などを求められた場合に、過度な負担のない範囲で対応することを指す。行政機関に義務づけられ、民間事業者では「努力義務」とされている。
府が作成した合理的配慮のヒント集(府庁で)
2018年06月12日 Copyright © The Yomiuri Shimbun