障害者の就労継続を支援する「A型事業所」の指定基準が厳格化され、佐賀県内でも廃止する事業所が目立ってきた。「福祉」と「収益」の両立が厳しく求められることになり、事業所間で明暗が分かれ始めた。「努力が正当に評価される」と基準変更を歓迎する声がある一方、働く場の多様性確保への懸念から制度改善を求める意見もある。
トラックから運び込まれた大量のシーツを利用者たちが1枚1枚、機械に投入する。ラインに配置された利用者が手際よく作業を繰り返す。
佐賀市大和町の山王福祉工場は04年に設立、障害者42人が就労している。佐賀、長崎両県のホテルなど宿泊施設40~50カ所のシーツクリーニングを請け負っている。16年度の1人あたりの月額平均賃金は約14万円で、県内トップの水準にある。県平均の8万2443円より6万円近く高い。
A型は最低賃金以上で雇用契約を結ぶため、佐賀県での時給は737円以上。賃金が高いのは、労働時間が確保されていることの裏返しだ。1千万円を超える設備投資で最新の機械を導入、残業時間をゼロにして経費削減に努めるなど、業務効率化を進めた。
古賀厚子施設長(64)は指定基準見直しについて「影響は特にない。事業所の努力がきちんと評価されるようになった」。静かな語り口には、収益が障害者の賃金となり、経済的な自信や自立につながってきたという実感がこもっている。
基準見直しの影響で廃業した事業所もある。NPO法人「たすけあい佐賀」は、11年4月に佐賀市唐人に開業したカフェを今年3月末に廃止した。障害者15人が働いていた。街中で働きながら客と交流したり、農作業したり。多様な仕事を準備し、自信や自立につなげようと工夫した。
収益面は厳しかった。昨年度は新指定基準を満たそうと、増収や経費削減を試みたものの状況は大幅な改善に至らなかった。廃止は「苦渋の選択」(吉村香代子副代表)だった。働く場を失う15人は、職員が奔走し次の職場につないだ。
A型は、障害者の働きたいという望みを実現する場でもある。吉村副代表(66)は「廃止は自分たちの努力不足もある」と前置きした上で、「(最低賃金以上で雇用する)A型と(工賃の低い)B型の中間的な事業所があってもいいのでは」。障害者が働く場の多様性をどう確保するか。「福祉」と「収益」の両立を求める制度のあり方を問いかける。
障害者42人が就労している山王福祉工場。シーツを機械に投入する利用者たち=佐賀市大和町
佐賀新聞 6/24