「おはようございます」。知的障害のある清永政利(33)と荒津孝志(22)が車両基地・JR九州南福岡電車区(福岡市博多区)で働き始めて2カ月。元気の良いあいさつは職場ですっかり有名だ。「『あいさつが大事』っていつも言われていますから」と口をそろえる。
2人は「ジェイアール九州メンテナンス」に3カ月の試行雇用で採用され、ゴミの分別などを担当している。「2人とも元気が良いし、まじめで素直」と職場の評価も上々で、同社は試行雇用期間後も契約社員として採用する予定という。
2人が通うNPO法人「福岡ジョブサポート」(同市東区)は「ジョブコーチ(職場適応援助者)付き就労」を事業の柱に据えている。就労意欲の強い障害者が職員(ジョブコーチ)とともに連携先の菓子店で一般の従業員と一緒に軽作業を行い、終業後にコーチから助言を受ける。2人もこのプログラムを経て、試行雇用に出た。
理事長の松本玲子(61)は「必要なのは作業の技術よりもあいさつとかまじめさなど基本的なこと。施設ではそれがなかなか身に付きにくい」と語る。これまでに26人を一般企業に送り出し、うち21人が離職せずに定着している。
1999年に作業所として始まった福岡ジョブサポートは昨年2月、障害者自立支援法の新体系に移行した。就労支援策強化を掲げる同法について松本は「当事者も私たちも『就職する』という目的意識がより明確になり、トレーニングに臨む姿勢も積極的になった」と好影響を指摘する。
□ □
落ち着いた照明がおしゃれなカフェ「オリジナルスマイル」(同市東区若宮)は、社会福祉法人「福岡たちばな福祉会」が運営する知的障害者が働くための「就労移行支援」の事業所だ。
同福祉会は障害者自立支援法施行後、少しずつ事業を広げてきた。法施行で賃貸物件でも施設運営が可能になったことを受け、菓子工房を賃貸ビルに移転し拡大、カフェも料亭だった建物を借りて改装した。
事業拡大により利用者数は増え、補助金も年約4000万円から約7000万円に増えた。職員数は12人から倍増。収益も上がり、利用者の平均工賃も約1万円から約2万円にアップした。同会管理者の末松忠弘(36)は、「応益負担を除けば」という前提ならば、支援法を評価するという。
「法律を活用すれば就労や工賃増につなげることもできる。補助金に頼るだけの施設運営から、就労支援の事業経営に転換できるか。それが問われている」
□ □
今秋、福岡市であった県中小企業経営者フォーラムで、末松は企業経営者たちを前に講演した。「福祉の人間に『商売』は難しい。企業にはボランティアではなく、ビジネス(仕事)として(障害者福祉に)かかわっていただきたい」。対して、経営者からは「欲しい人材を施設側は安定的にそろえられるのか」といった質問が上がった。
末松は講演後、「企業や地域の協力は不可欠。接点はあるはず。議論を重ねたい」と表情を引き締めた。施設から地域へ。支援法の理念は、福祉施設側の努力だけでは実現できない。 (敬称略)
=おわり
(この連載は江藤俊哉が担当しました。読者の声を踏まえた記者ノートを後日掲載します)
× ×
●障害者自立支援法メモ
▼就労と工賃 障害者雇用促進法は民間企業(従業員56人以上)に障害者雇用を義務付けている。2008年6月現在、民間企業に雇用されている障害者は前年比7.6%増の約32万6000人で、雇用率は1.59%。法定雇用率1.8%を達成している企業は44.9%だった。障害者自立支援法の就労移行支援事業を経て一般就労に移行した障害者は同年4月現在、利用者の14.4%にすぎず、移行者が1人もいない事業所が全体の4割を占めている。
一方、07年度の全国の施設の月平均工賃は就労継続支援(雇用型)8万5000円▽同(非雇用型)1万3000円▽福祉工場12万8000円▽入所・通所授産1万3000円▽小規模通所授産9000円。
2人は「ジェイアール九州メンテナンス」に3カ月の試行雇用で採用され、ゴミの分別などを担当している。「2人とも元気が良いし、まじめで素直」と職場の評価も上々で、同社は試行雇用期間後も契約社員として採用する予定という。
2人が通うNPO法人「福岡ジョブサポート」(同市東区)は「ジョブコーチ(職場適応援助者)付き就労」を事業の柱に据えている。就労意欲の強い障害者が職員(ジョブコーチ)とともに連携先の菓子店で一般の従業員と一緒に軽作業を行い、終業後にコーチから助言を受ける。2人もこのプログラムを経て、試行雇用に出た。
理事長の松本玲子(61)は「必要なのは作業の技術よりもあいさつとかまじめさなど基本的なこと。施設ではそれがなかなか身に付きにくい」と語る。これまでに26人を一般企業に送り出し、うち21人が離職せずに定着している。
1999年に作業所として始まった福岡ジョブサポートは昨年2月、障害者自立支援法の新体系に移行した。就労支援策強化を掲げる同法について松本は「当事者も私たちも『就職する』という目的意識がより明確になり、トレーニングに臨む姿勢も積極的になった」と好影響を指摘する。
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落ち着いた照明がおしゃれなカフェ「オリジナルスマイル」(同市東区若宮)は、社会福祉法人「福岡たちばな福祉会」が運営する知的障害者が働くための「就労移行支援」の事業所だ。
同福祉会は障害者自立支援法施行後、少しずつ事業を広げてきた。法施行で賃貸物件でも施設運営が可能になったことを受け、菓子工房を賃貸ビルに移転し拡大、カフェも料亭だった建物を借りて改装した。
事業拡大により利用者数は増え、補助金も年約4000万円から約7000万円に増えた。職員数は12人から倍増。収益も上がり、利用者の平均工賃も約1万円から約2万円にアップした。同会管理者の末松忠弘(36)は、「応益負担を除けば」という前提ならば、支援法を評価するという。
「法律を活用すれば就労や工賃増につなげることもできる。補助金に頼るだけの施設運営から、就労支援の事業経営に転換できるか。それが問われている」
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今秋、福岡市であった県中小企業経営者フォーラムで、末松は企業経営者たちを前に講演した。「福祉の人間に『商売』は難しい。企業にはボランティアではなく、ビジネス(仕事)として(障害者福祉に)かかわっていただきたい」。対して、経営者からは「欲しい人材を施設側は安定的にそろえられるのか」といった質問が上がった。
末松は講演後、「企業や地域の協力は不可欠。接点はあるはず。議論を重ねたい」と表情を引き締めた。施設から地域へ。支援法の理念は、福祉施設側の努力だけでは実現できない。 (敬称略)
=おわり
(この連載は江藤俊哉が担当しました。読者の声を踏まえた記者ノートを後日掲載します)
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●障害者自立支援法メモ
▼就労と工賃 障害者雇用促進法は民間企業(従業員56人以上)に障害者雇用を義務付けている。2008年6月現在、民間企業に雇用されている障害者は前年比7.6%増の約32万6000人で、雇用率は1.59%。法定雇用率1.8%を達成している企業は44.9%だった。障害者自立支援法の就労移行支援事業を経て一般就労に移行した障害者は同年4月現在、利用者の14.4%にすぎず、移行者が1人もいない事業所が全体の4割を占めている。
一方、07年度の全国の施設の月平均工賃は就労継続支援(雇用型)8万5000円▽同(非雇用型)1万3000円▽福祉工場12万8000円▽入所・通所授産1万3000円▽小規模通所授産9000円。