確かに風は吹いている。過去とは比べようもないほど、パラリンピックはメディアに露出し、シンポジウムなどでも取り上げられる機会が増えている。
「だからこそ、今、パラリンピックを基礎からきちんと押さえておかなければならないと思うんです」
日本財団パラリンピック研究会の代表、小倉和夫はそう話す。駐韓国や駐フランス大使を歴任し、国際交流基金理事長も務めた国際人。外交官としての豊富な経験、人脈を期待されて招致委員会事務総長に就任、見事、2020年大会を東京に連れてきた。
その事務総長時代、パラリンピックで疑問を持つことが多々あった。ところが誰かに聞こうとしても明確な答えが返ってこない。体系づけた研究が行われていない現実に驚かされた。
素朴な思いを日本財団会長の笹川陽平にもらした。
すると笹川はその場で即決した。「人も場所も提供します。とことん勉強してください」。2020年大会組織委員会評議員でもある笹川も、パラリンピックに大きな関心を持ち続けている。
日本財団パラリンピック研究会は今年6月に発足、障害者スポーツ関係者や研究者らによる勉強会を始めた。アンケートによる実態把握にも乗り出した。
11月、私は初めてその研究会に参加した。2020年に向け、さぞかし研究者たちが議論を戦わせているのだろうと思っていたら様子が違う。調べた事柄に丁寧に解説を加えていく作業はむしろ拍子抜けだった。
ただ、小倉の言う「基礎から押さえる」作業の意味がおぼろげながら見えた。
大成功だった2012年ロンドン大会は史上最多の164カ国・地域から4280選手が参加、20競技503種目に覇を競った。英国はこれに270万枚の入場券完売、開会式のテレビ視聴1120万人と史上最高の反応で応えた。原点の国際ストークマンデビル競技大会発祥の地というプライド、障害者との共生を理解する国民性が根底にある。
東京はどうか? 街と施設のバリアフリー化は進んでいくだろう。でも、障害者と障害者スポーツへの深い理解となると心もとない。
「15年で研究会の作業を深め、16年には提言を出します。今年はその準備でした」。笹川の秘書から転身し研究会を仕切る小澤直は言う。吹く風をつかみ、風に乗るためには英国のような市民の自然な理解が必要だ。2020年、さらにその先の共生のために…。=
敬称略(特別記者 佐野慎輔) 2014.12.30 産経ニュース