ヒトの大腸幹細胞に体外で遺伝子変異を導入し、がん化過程を人工的に再現することに世界で初めて成功したという発表がありました(財経新聞)。そして、正常な大腸上皮からの発がんには、より多くの遺伝学的な変化が必要であり、既に発育した大腸ポリープはがん化しやすく、その切除が効率的な発がん予防につながることが裏付けられたそうです。培養されたヒト大腸幹細胞に CRISPRと呼ばれる遺伝子変異導入技術を応用。この技術により、大腸がんで高頻度に認められる APC, KRAS, SMAD4, TP53, PIK3CA という5つの遺伝子変異をヒトの正常な大腸幹細胞に組み込み“人工変異オルガノイド”を作製。正常なヒトの大腸幹細胞は、適切な増殖因子の存在する腸管粘膜でしか生きることができないのに対して、人工変異オルガノイドは、増殖因子がなくても増える“スーパー幹細胞”能力を獲得し、移植したマウスの体内でも腫瘍を形成できることが確認されたというもの。しかし、人工変異オルガノイドは転移が認められず、5つの遺伝子変異ではがんの悪性化の最終ステップには進展しないことが分かったそうです。これに対し、体内で既に形成された大腸腺腫から作製した人工変異腺腫オルガノイドでは、遺伝子変異による幹細胞機能の強化により、転移能力を持つ進行大腸がんに悪性転化することを見出したそうです。これらの研究成果から、大腸がんで高頻度に認められる5つの遺伝子変異は幹細胞機能を制御しており、それらの変異により、大腸幹細胞が大腸とは異なる環境でも増殖できるようになることが判明したということです。この研究により、発育した大腸腺腫は、少数の遺伝子変異が加わることにより、容易に発がんすることが実証され、1cm以上の大腸腺腫は経時的に大腸がんに進行しやすいという臨床的なデータと合致し、大腸がん予防として大腸腺腫の内視鏡的切除治療が有効であることが科学的に裏付けられたそうです。
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