昨年宇都宮市で開催された日本臨床外科学会のシンポジウムで、MICSに対するトラブル予防および対策について発表依頼があり、当施設での経験をお話させていただいた。抄録は以下の通り。基本的なことではありますが、最近は他施設のスタートアップ指導に行くことが増え、実際にこうしたトラブルに遭遇する機会が増えています。やはり学会が勧告しているとおり、最初はプロクターの指導下での手術実施が望ましいと思います。以下、抄録です。
2016年から現体制でMICSを開始し、2018年から2023年において合計683例の心臓胸部大血管手術のうち217例(32%)、大動脈弁置換術の42%、僧帽弁形成術の72%、冠動脈バイパス術の43%にMICSを採用している。MICS不採用の主な理由は上行大動脈性状不良、肥満、複合手術、大血管手術である。安全を最優先とするため、人工心肺は送脱血路以外、直視下に正中アプローチと同じ方式でセットアップし、30℃に冷却して右肺動脈頭側で上行大動脈を心室細動下に遮断している。積極的に腋窩動脈送血を採用。心筋保護は基本的に順行性で、20分おきにエア抜きしながら注入。弁操作は正中アプローチと同じ手技とし、縫合糸結紮はCor-Knotを使用し時間短縮を図る。
大動脈遮断不十分によるリークがあると心筋保護液が効かず心静止維持が困難となるため、確実な遮断は重要。指導に行った施設で数多く、遮断不十分を経験しており、これに気づかないと重大な事故の原因になりうる。送血圧が上昇した場合は、送血路追加がすぐにできるように工夫された回路を使用している。視野が想定よりも低い肋間だった場合は、躊躇なく一つ頭側の肋間に変更し視野確保を優先する。心外膜ペーシング以外にスワンガンツペーシングを併用し、同時にDCバッドからの対外ペーシングできるようにしておく。麻酔科、人工心肺技師とのコミュニケーションを密にする。