老人雑記

生活の中で気づいた浮世の事

阿波踊り

2016-07-20 10:29:23 | 俳句
    🐇   高張を高く先頭踊り来る

    🐇   在します踊る阿呆の生身魂

    🐇   最終の便に踊子駆け込み来

阿波におれば、もう阿波踊りの稽古が始まっている。
夕方になれば、神社の境内や、公園でお囃子の稽古、踊りの稽古に余念がない。
私が勤めていた職場では、五時の仕事の終了時間が近ずくと館内放送が
「踊りの練習をやります。踊りに参加される皆さんは屋上にお集り下さい」
と流される。

阿波で有名な名物の踊り手がいた。
男性が二人。
個性派の二人。
一人は真ん丸の体型で、腰を落とし、手と足の使い方は 静。
静かに運ぶ足。手に持った団扇をひらひら動かすだけの動きで、男踊りの第一人者。
もう一人は、顔を写楽にそっくりの表情に似させて踊る。
口をゆがませたり、目を吊り上げて写楽の錦絵に描かれている男性が踊っているようだ。
二人は阿波踊りの二代スターであった。
駅などに貼っていたポスターのモデルにもなっていたようだ。

写楽に似た男性が私の勤めていた会社の支社長つき自家用運転手であった。
常は、総務部に属していて、車の運転業務をこなしていた。
阿波踊りが始まると、この方は超有名連に属していて、主要な桟敷でスターの踊りを披露する。

我が会社は社名の入った、提灯や、衣装を着て、産土地の踊りの血の騒いだ者達が寄って踊り狂う。
総務課の職員は、全国からの大切なお客様の踊り桟敷の手配、ホテルの手配。
自社の踊り衣裳、小物等々の点検、補充が忙しそうだった。
踊りに参加されるお客様も勿論おいでた。この方達の衣裳の新調。
棒で手足を縛られたように踊っていた他国の人。
上手、下手が一目瞭然の踊りは他には無い、と言っても過言では無い。

今は踊りの連を出して踊る人もいなくなったのか、テレビの踊り中継を見ていて、我が古巣の連は映らない。
大手通信会社は、社員の採用は本社一括で、地元採用者が無いのであろう。
それでは、盆踊りには血、肉もわかないのであろう。

何十年も昔の若い頃、一度だけ踊った。勿論、大切な記憶。

踏切の前に立つ。遮断機がおりると、チンチンカンカンの音が踊りの囃子に聞こえる。
二拍子で、チンチン、カンカン、と鳴る。
阿波で育った血が甦る。腰を、身体を、踏切の音に合わせてくねらせている。
恋しいな、夏の故郷が。


コメント
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