食べ物から季節感が失われた、と言われるようになって久しい。
今が旬、という言葉もあまり聞かれなくなった。
そうした風潮の中で、唯一季節感を保っているのが冷やし中華だ。
ラーメン屋で「冷やし中華始めました」の貼り紙を見ると、そうか、今年もそういう季節になったか。
の思いを新たにする。
冷やし中華はまさに今が旬。
酢の刺激的な味と匂いが、真夏の空気を振り払ってくれるのかもしれない。
しかし行列のできるような評判店のメニューに、つけ麺はあっても冷やし中華はまずない。
そういう店で「冷やし中華ありますか」なんて聞こうものなら、ただちに追い出されるはずだ。
冷やし中華には、これがホンマもんの冷やし中華だ、という基本形が曖昧なのだ。
本業のラーメンのほうは、スープは九州のどこそこの鰹節とアゴだしで、昆布は日高で、麺は北海道のハルユタカという小麦粉を使って、というような議論がなされるが、冷やし中華ではそういうような話はいっさい出てこない。
ここで問題になってくるのが具の盛り付け方である。
盛りつけの基本は富士山を模したものだ。
ハムを一本一本、きゅうりを一本一本、一分の隙間なく丁寧に並べる。
適当に手を抜いて具を並べてある冷やし中華もいいけどね。
こんな冷やし中華界に新風をもたらしたのがコンビニの冷やし中華だ。
コンビニの冷やし中華は基本的に別盛りだ。
プラスチックの丼状の容器にツユの袋と麺が入っていて、その上にフタ状の容器がかぶせてあって、そのフタの凸凹の一つ一つに具が入っている。
その上に本物のフタという仕組み
これを食べるとき、みんなどういうふうにして食べているのだろう。
別盛りで食べるか、ゴチャゴチャ盛りでいくか。
いつも悩んでしまうのであった。