ときどき焼肉屋に行く。
最近は洒落たコリアン・レストランとでもいうような焼肉屋も多いようだが、アタクシの行くのは店先の換気扇から煙がモクモク出るような、そこらへんにどこでもあるような焼肉屋だ。
テーブルや壁に油のシミ跡有り、小上がりの畳席有り、テレビ有り、新聞週刊誌(週間遅れも含む)有り、テーブルの真ん中がガスコンロ、といった店だ。
オーダーはだいたい次のようになる。
まずは塩タンから始まり、ハラミ、ホルモン、チシャ菜、白菜キムチ、生ビール。
以上を注文し終わると同時にガスコンロに火がつけられ、待つことしばし。
まずビールとキムチが到着する。
ビールは必ず冷えすぎている。
キムチを二、三片バリバリ食べ、辛さでヒリヒリしたところへ、うんと冷たいビールをドドドと流し込む。
こういう場合のビールは、冷えすぎぐらいが丁度いい。
焼肉屋のビールは冷えすぎで正解なのである。
このときのビールが、もし生ぬるかったら死んでも死にきれない(おおげさな…)
少し間があって塩タン、ハラミ、ホルモンが到着。
続いてチシャ菜も到着し、全員集合である。
「さぁ食うぞぉ~」という堅い決意というか、情熱のようなものが身体中を駆け巡る。
焼肉にはそういう力がある
胸躍らせて、まず塩タンを火の上に置く。
七輪の焼肉もいいぞぉ
さぁ、これからが忙しいことになる。
同時に火の上に置いた肉片は、当たり前だが同時に焼きあがる。
とりあえず一片をアグアグと食べるが、ビールも飲みたいしキムチも食べたい。
そうこうしてると、火の上の残り五片も焼けていくから、そいつらをあまり熱くない岸のほうへとりあえず緊急避難させる。
避難はさせても、肉に火は通ってるいくから早く食べなければならない。
急いで二片ほど取り上げ、キムチも食べ、キムチは辛いから今度はビールが欲しくなり、またビールをゴクゴク。
ゴクゴクやりながらも肉は早くも焦げ始め、しかし肉ばかりでなくこの辺でチシャ菜に巻いて食べたいし、そういえばハラミやホルモンも食べなくちゃ。
そうはいっても焦げ始めた肉が先、とこのようにして食事に加速度がつき始める。
時間はたっぷりあって急ぐ必要など少しもないのに、しだいに慌ただしくなり、箸はテーブルの上をあちこち駆けめぐる。
忙しさの原因は「肉がドンドン焼けてしまう」ということにあるのだから、肉をドンドン補充しなければいいのだが、それがそうはいかない。
火の上に何もない…というのが焼肉の場合は耐えられない。
そこでつい肉を火の上に置いてしまう。
置けば当然焼けてしまう。
焼ければ食べなければならない。
食べれば火の上が空く。
空くからまた肉を置く。
置けば焼けるということになって、何が何だかワケもわからず忙しくなってしまうのが、正しい焼肉屋なのである(^^♪
ときどき、ふと手を休めて、何でこう忙しくなってしまうんだろう、と呆然と考え、考えてるうちにも肉は焦げ、煙は上がり涙を拭いながら、タレやキムチの汁でしだいに汚れていくライスを食べるのであった。