引き続き10月から12月の鑑賞記録。
★1点、☆0.5点で、★★★☆以上の作品なら「見て損はない」だろうか?基本的に映画大好き人間なので、「どんな作品にも創られた意味がきっとあるはず」「作り手の思いが込められている」と言う前提で、評価は全体的に甘めかもしれない。月間ベスト作品にはを付けている。
青色表記は邦画、オレンジ色は邦画以外のアジア映画、それ以外は洋画等。邦画以外の作品についてはタイトルの後に原題も付記。タイトルにアンダーラインの付いている作品は当ブログ内にレビューあり。失礼ながら文中の人物は敬称を省略させていただいている。
【10月 10本】
(26)マイ・インターン(THE INTERN) ★★★★:アン・ハサウエイとロバート・デ・ニーロの共演でも注目された本作。デ・ニーロの役は元々ジャック・ニコルソンにオファーがあり、彼が断った為、デ・ニーロに回って来たらしい。老境に入ったデ・ニーロは、それまでの強面の役柄から、今回のようなコメディ路線までこなせるようになり、役の幅が広がったと思う。アカデミー賞受賞後の出演作に苦慮している女優が多い中、ハサウエイは今の自分にぴったりな役柄を得て生き生きとして見えた。異なる世代間の交流と協力によって、直面する問題の打開策を見出すと言うストーリーは、幅広い年齢層の支持を得ると思う。それはそのまま社会の本来あるべき姿でもあるからだ。
(27)図書館戦争 ラスト・ミッション ★★★☆:作品の映像化が相次ぐ人気作家、有川浩(ありかわひろ=女性)原作の映画化作品の第2弾。言論弾圧に動く政府直轄の"メディア良化隊"の攻撃から「言論の自由」を守る牙城として存在する図書館。その図書館を武装して守る"図書隊"と"メディア良化隊"との「戦争」を描く。劇画的味付けの作品ではあるが、描かれていることの意味は深い。
(28)岸辺の旅 ★★★☆:第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した本作。しかし、このカンヌと言うのが案外クセもので、映画の芸術性に重きを置いた選考なので、"分かり易さ"を求める一般的な映画ファンの期待を裏切ることが多い。だからカンヌ受賞作の謳い文句に惹かれて映画館を訪れた人の中には、その"分かりにくさ"に戸惑う人も少なくないのだろう。タイトル「岸辺の旅」の岸とは"彼岸"のこと。亡くなってから3年後に突然姿を現した夫の亡霊(浅野忠信)を違和感なく受け入れる妻(深津絵里)。夫婦二人で、妻の知らぬ場所で客死した夫の失踪中の足跡を辿る旅をする。終始一貫、静かで不思議で不気味な空気感が漂う。妻も夫と共に彼岸の周辺を彷徨っていたのか?非日常感を味わうと言う意味では、映画らしい醍醐味の作品。
(29)アデライン~100年目の恋(THE AGE OF ADALINE) ★★★★:主演のブレイク・ライヴリーは、今やNYのセレブ高校生達の生態を描いたテレビドラマ「ゴシップガール」でブレイクした女優として知られているが、私にとっては「旅するジーンズと16歳の夏」の彼女が馴染み深い。当時の彼女はサッカーに夢中な普通の女子高生だった。インタビューでも「本格的に女優の道を目指すかどうか分からない」と答えていたのだ。それが今や堂々たる人気女優である。本作は100年以上不老の状態で生き続けた美しい女性の物語。不老不死は人間が叶えたくても叶えられない夢のひとつだが、実際に叶うと、必ずしも幸福をもたらすものではないのかもしれない。そのことを実感させる作品。人生にはいつか終わりがあるから、私達は今を生きていられるのかもしれない。
(30)バクマン ★★★★:あの「DEATH NOTE」を手掛けたコンビ、大場つぐみ(原作)と小畑健(作画)による人気漫画の実写化。プロの漫画家を目指す高校生コンビの苛烈な生き様を描く。その猛烈ぶりに、早死にした人気漫画家達の生前の苦闘が忍ばれる(正に命を削って漫画を描いていたんだなと)。今をときめく若手俳優陣(佐藤健、神木隆之介、染谷将太)の競演も見もの。
(31)ジョン・ウィック(JOHN WICK) ★★★:キアヌ・リーブス主演のアクション映画。最愛の妻を喪い、妻の忘れ形見である犬と二人で暮らす元殺し屋。その彼を本気で怒らせたロシアン・マフィアの運命はいかに?と言う展開のドラマなのだが、いろいろな意味で新味に乏しい。それでもキアヌ人気?で続編制作が決定らしい。
(32)天空の蜂 ★★★☆:当代随一の人気作家、東野圭吾原作小説の映画化。原発利権蠢く日本では映像化が難しいとされていた本作だが、5年前の東日本大震災での原発事故を機に、原発の危険性、テロに対する脆弱性を描くタブーは解禁されたようだ。日本発のアクション映画としては、それなりに出来の良い作品と言えるのではないか(それでもまだまだ米国やお隣の韓国の作品には見劣りする)?原作は20年前に刊行されたものだが、日本メーカーによる大型ヘリの開発(三菱重工による国産旅客機の開発)や原発へのテロの脅威など、東野氏の理系出身の作家らしい先見の明に驚かされる。
(33)アクトレス~女たちの舞台(SILS MARIA/CLOUDS OF SILS MARIA) ★★★★:仏独スイス合作映画。これはジュリエット・ビノシュありきの作品。彼女の成熟した女性としての美しさ(衰えの美、と言うのもある)と堂々たる大女優の貫録で魅せてくれる。ほぼスイスの山間の街や山荘を舞台に物語は展開し、台詞劇と言っても良い趣。だからこそ、彼女の存在感と演技力が光る。原題はスイスのある地方に、ある期間だけ見られる自然現象を指す。雲海が谷間を通り抜けるその現象は、それをビノシュが高台から見下ろす形で作品にも登場する。
(34)ヒトラー暗殺 13分の誤算(ELSER/13 MINUTES) ★★★★:史実に基づくドイツ映画。ヒトラー暗殺を単独で企てた男がヒトラー暗殺を企てるに至った経緯と逮捕後の様子を交互に描いて、独裁政権下の時代の空気を映し出す。ごく普通の手先の器用な男性が、独裁者を暗殺する為に爆弾を製作するまでに至ったところに、普通の人生、普通の暮らしを奪われた男性の悲しみと怒りの深さを感じる。極限状況下に置かれると、人間の理性に獣性が勝ることの恐ろしさや虚しさも感じた。善良で控えめな人間ほど、時代の横暴に蹂躙されるのだろう。
(39)エール!(LA FAMILLE BELIER/THE BELIER FAMILY) ★★★★:フランス映画。原題はヒロイン一家の名前。いつも邦題と原題の乖離には戸惑ってしまう。フランスの田舎町で農業を営む一家。ヒロイン以外は全員が聾唖者と言う家族の中で、ヒロインの役割は家族と社会の橋渡し役である。そんな彼女が歌の才能を見出され、パリの音楽院で学ぶチャンスが訪れる。ストーリー展開は凡庸だが、普遍的な温かな家族愛を描いて、本国でも人気を博したのは分かるような気がする。見終わった後に、わが子の巣立ちを応援する親の愛など、自分自身に投影してしみじみとした気分になった。
【11月 10本】
(40)サバイバー(SURVIVOR) ★★★☆:ミラ・ジョボヴィッチ主演のサスペンス映画。ミラ演じるヒロインは国務省の優れた情報分析官で、ロンドンの米大使館に赴任する。米国へのテロを画策するテロリスト達の米国への侵入を、的確な情報分析で未然に防ぐ、水際でくい止めるのが彼女の仕事なのだが、これがいろいろと大変で(テロリストの人物像も本当にさまざまで、絞り込むのが難しい)、正に命懸けなのだ。誰を信じ誰を疑うか、疑心暗鬼の中で、ヒロインは戦い続ける。エンドロールで彼女のような情報分析官らの活躍により、9.11以降、50件あまりのテロを未然に防げたとのテロップが流れ、その現実感に戦慄する。米国は本当に敵が多いと言うか、人の恨みを買っている国なんだなと思う。
(41)トランスポーター イグニッション(THE TRANSPORTER REFUELED) ★★★:主演も新たにキャストの若返りを図った人気シリーズの最新作。しかし、本職は人気ラッパーだと言う新ヒーローは、スタイリッシュでクールでセクシー(女性ファンの心を鷲掴み・笑)だったジェイソン・ステイサムの初登場時のインパクトを超えられない。トランスポーターと言えばイコール、ジェイソンと言うイメージだ。これはジェイソンを凌駕するような新人の登場でもない限り、変えられない。
(42)グラス・ホッパー ★★★:映像化が多い人気作家の伊坂幸太郎の原作と聞いて期待したが、肩透かしをくらった感じ(過去には「アヒルと鴨のコインロッカー」「重力ピエロ」「フィッシュストーリー」「ゴールデン・スランバー」etcと面白い作品が目白押しなのだ)。稀代のストーリーテラーの原作の良さを生かしきれなかったのか?(殺し屋同士が対決する)サイドストーリーの盛り上がりに比べ、主演(生田斗真)の存在感の希薄さが気になった。
(43)サヨナラの代わりに(YOU'RE NOT YOU) ★★★★:
若くして米アカデミー賞を2度も受賞している演技派ヒラリー・スワンク主演のヒューマン・ドラマ。才能に恵まれ、優しく有能な夫と幸せに暮らしていたヒロインを突然病魔が襲う。病気の進行で全面的な介護を必要とし、人生に絶望した彼女の前に介護役として現れたのは貧しい女子学生。あまりにも育った環境が違い過ぎる二人で上手くやって行けるのか、観客は固唾を飲んで見守るのだ。病を得たことで失ったものの大きさと、新たに得たものの尊さ。自分の余命を知った後の生き方や命の尊厳について、改めて考えずにはいられない作品。
(44)コードネーム~UNCLE(THE MAN FROM U.N.C.L.E.) ★★★★:冷戦時代の米ソのスパイが協力して、国際的な悪の組織に立ち向かうスパイ・アクション。設定からして荒唐無稽だが、ガイ・リッチー監督の持ち味が生かされたスタイリッシュで軽快な本作は、笑える小ネタも満載で最初から最後まで楽しめる。
(45)尚衣院~サンイウォン ★★★★☆:タイトルの尚衣院とは、朝鮮王室の衣服を誂える部署のこと。その尚衣院を舞台に愛憎渦巻く人間ドラマが展開する。幼い頃から研鑽に励み、確かな技術を身に付けた尚衣院の仕立て師(ハン・ソッキュ)の前に現れたのは、奔放で天才肌の職人(コ・ス)だった。長い時間をかけて王の信頼を勝ち得た仕立て師にとって、女遊びに興じながら、次々と斬新なデザインを生み出す職人の才能は脅威でしかなかった。その職人が才能を認められ王室に出入りするようになり、仕立て師の焦燥と嫉妬は募る一方だ。そうした二人のライバル関係に王室の複雑な事情も絡み合って、物語は思わぬ展開を見せて行く。誰かが指摘していたように、これは正にサリエリとモーツァルトを連想させる"才能への愛と憎しみ"の物語だ。今回もまた、長尺ながら一切の中だるみもなく、スリリングな展開で観客を惹きつけて止まない韓国映画の演出の巧みさには脱帽だ。登場する衣装も絢爛豪華で美しい。
(46)Re:LIFE~リライフ(THE REWRITE) ★★★★☆:ハリウッドでの活躍も最早過去の栄光となった中年の脚本家が、新たに得た仕事は東海岸の小さな大学での教職。当初は学生相手にシナリオの書き方を嫌々指導していた彼も、さまざまな背景を持つ学生との触れ合いから、徐々に教職にやりがいを見出してゆく。やさぐれた主人公の脚本家をヒュー・グラントが演じて、その姿に時の流れを感じると同時に、彼のどこか脱力した軽妙な持ち味が主人公のキャラによく嵌って、作品としては楽しい仕上がりであった。長年のファンとしては、もっとヒュー・グラントの活躍を見たいところ。
(47)ミケランジェロ・プロジェクト(THE MONUMENTS MEN) ★★★☆:これも原題と邦題との乖離が甚だしい。原題のTHE MONUMENTS MENは先の大戦時にナチスドイツによって収奪された美術品を奪還すべく暗躍した実在の人物達の呼び名だ。監督も務めたジョージ・クルーニーを筆頭に、マット・デイモン、ビル・マーレイ、ジョン・グッドマンとキャスティングは豪華で、取り上げたテーマも興味深いものだが、いかんせん演出が平板で盛り上がりに欠ける。メンバーが死ぬ場面など、悲しみや憤りが湧き上がるべきところだと思うが、描き方があっさりし過ぎて今一つ感情移入できなかった。監督の演出力の問題かなと思う。作り方次第で幾らでもドラマチック(もっと印象深い仕上がり)になったであろうに、けっして作品として面白くないわけではないが、素材を生かしきれなかった残念さがある。
(48)007 スペクター(SPECTRE) ★★★★:ダニエル・ボンド最後の作品になるであろうと言われる本作。前作に引き続きサム・メンデス監督は過去のシリーズ作品で見られたような軽妙さを抑え、あくまでもハードボイルドタッチで、007の活躍を描く。尤も、本作のように度々主演・監督を変えて長期に渡るシリーズとなると、描かれる人物像も時代の空気を色濃く反映したものになるのは当然か?今は現実の世界が相次ぐテロや紛争で重苦しい雰囲気を湛えているがゆえに、ボンド映画にもかつてのような軽妙さを許さない。主役はもちろん、ボンド・ガール像にも隔世の感がある。その重みも変化した。片や美しくセクシーだが若くはない。片や若いがセクシーさに欠ける。どちらも些かインパクトに欠ける。そのせいか、ボンドとの絡みも中途半端で、ボンドとボンド・ガールとの関係性に説得力がない。それでも豪華な仕掛けと「女王陛下の007」としての品格で、本作の王道のスパイ映画としての地位は揺るがない。とりわけ映画冒頭のアクションシーンは圧巻だ。もしかしたらそのシーンが、私の中では興奮度MAXだったかも(笑)。
(49)黄金のアデーレ(WOMAN IN GOLD) ★★★★☆:昨年は戦後70年の節目と言うことで、先の大戦時を振り返る作品が数多作られた。本作もそのひとつだ。ユダヤ人所有の美術品がナチス・ドイツによって収奪されたエピソードを描いた作品と言えば、最近では「ミケレンジェロ・プロジェクト」があるが、本作は米国人による作品の奪還を描いた冒険活劇風味の「ミケランジェロ・プロジェクト」よりも、ユダヤ人の気高さと知性と粘り強さを描いたと言う意味で、2010年に製作された「ミケランジェロの暗号」にテイストが近い。ユダヤ民族の成功のバックボーンにあるのは、「他者の妬みを買うほどの勤勉さ」と、「教育の重要性を他の誰よりも認識して子弟の教育に力を注いだこと」だと思う。大戦時のユダヤ人を描いた作品では、2006年のポール・ヴァーホーヴェン監督作「ブラック・ブック」も併せて見ていただきたい作品である。
【12月 9本】
(50)ハッピーエンドの選び方(MITA TOVA/THE FAREWELL PARTY) ★★★☆:なかなか見る機会のないイスラエル映画。チネチッタに感謝である。かつて私が住んでいた中東の都市ではイスラエルのテレビも見ることが出来た。ただし理解できるのは挨拶の「シャローム」だけ。「神のご加護がありますように」と言う意味だ。本作はイスラエルの老人ホームが舞台。自身の死が間近に迫っていることを悟った男性が、友人に安楽死させてくれるよう頼むところから物語は動き出す。イスラエルの老人と言えば、あのホロコーストを生き抜いて来た人々のはず。しかもユダヤ教徒である。それでも安楽死を望むところに、彼らが直面する現実の厳しさを感じずにはいられない。それなりに葛藤を経てとは言え、最終的には安楽死を承諾する家族の姿に、違和感を覚える日本人も多いのではないだろうか?日本は本人が望まなくても、あらゆる手段を講じて家族が延命させるケースが少なくない国である。死する時は天命に委ねるべきか?自ら決めるべきか?それとも、家族が決めることなのか?簡単には答えの出ない難しい問題である。
(51)FOUJITA ★★★☆ 20世紀前半、エコール・ド・パリで活躍した日本人画家、藤田嗣治の伝記映画。藤田を演じたオダギリジョーが醸し出す品の良さが、さまざまな文献資料から垣間見える藤田本人の雰囲気をよく伝えていたと思う。しかし、小栗康平監督の持ち味でもある暗い色調の画面を見続ける集中力が続かず、時々失念してしまった(汗)。
(52)私はマララ(HE NAMED ME MALALA) ★★★★:マララ嬢の懸命の努力にも関わらず、先日も彼女の母国で大学が襲撃され、大勢の学生が殺害される事件が起きた。教育の破壊者は、教育の力を最も恐れている者だ。自分達の劣勢を、暴力で巻き返そうとしているに過ぎない。それが虚しい行為であることに気付かないほど愚かなのか、或いは分かっていながら敢えて目をそむけているだけなのか?いずれにしても、正義は教育の普及活動を積極的に推し進めるマララ嬢の側にある。
(53)海難1890 ★★★★:1890年に起きた和歌山近海でのトルコ軍艦エルトゥールル号遭難事故から125年経ったのを記念して、後に長年に渡る日本とトルコの友好関係のきっかけとなった当時の経緯を克明に映像化した日本とトルコ両国による合作。自分達が日々食べる物にも事欠く貧しい漁村の人々が懸命に遭難者を救助し、故国に帰国するまで村総出で世話を続けた姿には胸を打たれた。奇しくもその95年後にはイラン・イラク戦争に巻き込まれたイラン在住日本人が、トルコの救援機によってイラン脱出を果たすのだが、ここではイラン在住のトルコ人市民の扶助精神に感銘を受けるのだった。何れの時代も民衆レベルで助け合う姿が印象的だ。エンドロールではトルコのエルドアン大統領自ら出演してメッセージを寄せているのに、日本の首相の顔が見えないのは、日本トルコの友好関係を記念しての合作映画だけに残念だった。
(54)Orange ★★★☆:人気漫画の映画化。主演の土屋太鳳と山崎賢人は朝ドラに続いての共演。この世代に他に目ぼしい俳優はいないのだろうか?それはさておき、二人は醸し出す清潔感で、20歳過ぎながら高校生の役を演じても違和感がない。土屋太鳳は相変わらず声が小さく、か細い。今は若さで許されるが、今後年を重ねて行った場合、女優としてどうなのか?活躍の場として、テレビはともかく舞台は無理だろうなあ。物語は「過去の自分」から届いた手紙に書かれた"願い"に応える形で進む。奇想天外な話だが、SFかファンタジーとして受け止めれば、どうにかついて行けそうだ。ファンタジーだから、根っからの悪人は登場しない。ヒロインを取り巻く友人達も皆いい子ばかりだ。物語の結末も、女子中高生達の願望を叶える形?での着地で、大人にはちょっと物足りないかな(笑)。
(55)I love スヌーピー(THE PEANUTS MOVIE) ★★★☆ 私も10代の頃に一端の見栄を張って、スヌーピーのペーパーバッグを買ったっけ。漫画のスヌーピーが動画になって縦横無尽に動き回るさまには、ちょっと不思議さと違和感を覚えた。映画館には映画公開に合わせて、スヌーピーの等身大?のぬいぐるみが飾られていた。正直、あまり可愛くなかった。それでもスヌーピー愛に変わりはない。劇場内には、かつて子供だった人達が大勢、リアル子供達に混じって、スクリーンの中のスヌーピーやチャーリー・ブラウン達の姿に見入っていた。見るからに幸せな光景だ。
(56)完全なるチェックメイト(PAWN SACRIFICE) ★★★★:米ソ冷戦時代にチェスで繰り広げられた代理戦争を描く。トビー・マグワイヤ演じる主人公が、勝利に拘るあまりエキセントリックな言動を続けるところに、正気と狂気のギリギリのバランスで生きる天才の生き辛さを感じずにはいられなかった。エンドロールで流れる実際の本人の晩年の映像が、その印象を決定づけたと言っても良い。結局、主人公もロシア系と言うことで、チェスによる代理戦争は実質ロシア人の独壇場ではないかと思った。米国はさまざまな民族の才能を吸い取って成長し続ける国と言うことなんだろう。
(57)母と暮らせば ★★★☆:山田洋二監督作品。台詞は不自然だし、(舞台劇ならともかく)吉永小百合は相変わらず年齢不詳の聖母を演じているし、加藤健一を除く出演者の長崎弁はお世辞にも上手いとは言えないのだが、大学で講義を受けている主人公が原爆で命を落とす瞬間の描写が秀逸。このシーンを見ただけでも、本作を見て良かったと思う。容赦なく人々の命を奪う原爆の残酷さと恐ろしさと無慈悲さを見事に表現している。誰もがこれまでに何度も目にしたであろう、あのきのこ雲の下で、何が起きていたのか?それをほんの数秒のシーンでイマジネーション豊かに描いている。これぞ映像の力である。
(58)サンローラン(SAINT LAURENT) ★★★☆:サンローランものの映画作品は本作を含めて3本見た。本作はその中で最も作家性の強い作品なのかもしれない。サンローランの天才性の反面にある退廃性が耽美的な映像で表現されていたのが印象的。天才の脆さと凄みがスクリーン越しにビンビン伝わって来る。
★1点、☆0.5点で、★★★☆以上の作品なら「見て損はない」だろうか?基本的に映画大好き人間なので、「どんな作品にも創られた意味がきっとあるはず」「作り手の思いが込められている」と言う前提で、評価は全体的に甘めかもしれない。月間ベスト作品にはを付けている。
青色表記は邦画、オレンジ色は邦画以外のアジア映画、それ以外は洋画等。邦画以外の作品についてはタイトルの後に原題も付記。タイトルにアンダーラインの付いている作品は当ブログ内にレビューあり。失礼ながら文中の人物は敬称を省略させていただいている。
【10月 10本】
(26)マイ・インターン(THE INTERN) ★★★★:アン・ハサウエイとロバート・デ・ニーロの共演でも注目された本作。デ・ニーロの役は元々ジャック・ニコルソンにオファーがあり、彼が断った為、デ・ニーロに回って来たらしい。老境に入ったデ・ニーロは、それまでの強面の役柄から、今回のようなコメディ路線までこなせるようになり、役の幅が広がったと思う。アカデミー賞受賞後の出演作に苦慮している女優が多い中、ハサウエイは今の自分にぴったりな役柄を得て生き生きとして見えた。異なる世代間の交流と協力によって、直面する問題の打開策を見出すと言うストーリーは、幅広い年齢層の支持を得ると思う。それはそのまま社会の本来あるべき姿でもあるからだ。
(27)図書館戦争 ラスト・ミッション ★★★☆:作品の映像化が相次ぐ人気作家、有川浩(ありかわひろ=女性)原作の映画化作品の第2弾。言論弾圧に動く政府直轄の"メディア良化隊"の攻撃から「言論の自由」を守る牙城として存在する図書館。その図書館を武装して守る"図書隊"と"メディア良化隊"との「戦争」を描く。劇画的味付けの作品ではあるが、描かれていることの意味は深い。
(28)岸辺の旅 ★★★☆:第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した本作。しかし、このカンヌと言うのが案外クセもので、映画の芸術性に重きを置いた選考なので、"分かり易さ"を求める一般的な映画ファンの期待を裏切ることが多い。だからカンヌ受賞作の謳い文句に惹かれて映画館を訪れた人の中には、その"分かりにくさ"に戸惑う人も少なくないのだろう。タイトル「岸辺の旅」の岸とは"彼岸"のこと。亡くなってから3年後に突然姿を現した夫の亡霊(浅野忠信)を違和感なく受け入れる妻(深津絵里)。夫婦二人で、妻の知らぬ場所で客死した夫の失踪中の足跡を辿る旅をする。終始一貫、静かで不思議で不気味な空気感が漂う。妻も夫と共に彼岸の周辺を彷徨っていたのか?非日常感を味わうと言う意味では、映画らしい醍醐味の作品。
(29)アデライン~100年目の恋(THE AGE OF ADALINE) ★★★★:主演のブレイク・ライヴリーは、今やNYのセレブ高校生達の生態を描いたテレビドラマ「ゴシップガール」でブレイクした女優として知られているが、私にとっては「旅するジーンズと16歳の夏」の彼女が馴染み深い。当時の彼女はサッカーに夢中な普通の女子高生だった。インタビューでも「本格的に女優の道を目指すかどうか分からない」と答えていたのだ。それが今や堂々たる人気女優である。本作は100年以上不老の状態で生き続けた美しい女性の物語。不老不死は人間が叶えたくても叶えられない夢のひとつだが、実際に叶うと、必ずしも幸福をもたらすものではないのかもしれない。そのことを実感させる作品。人生にはいつか終わりがあるから、私達は今を生きていられるのかもしれない。
(30)バクマン ★★★★:あの「DEATH NOTE」を手掛けたコンビ、大場つぐみ(原作)と小畑健(作画)による人気漫画の実写化。プロの漫画家を目指す高校生コンビの苛烈な生き様を描く。その猛烈ぶりに、早死にした人気漫画家達の生前の苦闘が忍ばれる(正に命を削って漫画を描いていたんだなと)。今をときめく若手俳優陣(佐藤健、神木隆之介、染谷将太)の競演も見もの。
(31)ジョン・ウィック(JOHN WICK) ★★★:キアヌ・リーブス主演のアクション映画。最愛の妻を喪い、妻の忘れ形見である犬と二人で暮らす元殺し屋。その彼を本気で怒らせたロシアン・マフィアの運命はいかに?と言う展開のドラマなのだが、いろいろな意味で新味に乏しい。それでもキアヌ人気?で続編制作が決定らしい。
(32)天空の蜂 ★★★☆:当代随一の人気作家、東野圭吾原作小説の映画化。原発利権蠢く日本では映像化が難しいとされていた本作だが、5年前の東日本大震災での原発事故を機に、原発の危険性、テロに対する脆弱性を描くタブーは解禁されたようだ。日本発のアクション映画としては、それなりに出来の良い作品と言えるのではないか(それでもまだまだ米国やお隣の韓国の作品には見劣りする)?原作は20年前に刊行されたものだが、日本メーカーによる大型ヘリの開発(三菱重工による国産旅客機の開発)や原発へのテロの脅威など、東野氏の理系出身の作家らしい先見の明に驚かされる。
(33)アクトレス~女たちの舞台(SILS MARIA/CLOUDS OF SILS MARIA) ★★★★:仏独スイス合作映画。これはジュリエット・ビノシュありきの作品。彼女の成熟した女性としての美しさ(衰えの美、と言うのもある)と堂々たる大女優の貫録で魅せてくれる。ほぼスイスの山間の街や山荘を舞台に物語は展開し、台詞劇と言っても良い趣。だからこそ、彼女の存在感と演技力が光る。原題はスイスのある地方に、ある期間だけ見られる自然現象を指す。雲海が谷間を通り抜けるその現象は、それをビノシュが高台から見下ろす形で作品にも登場する。
(34)ヒトラー暗殺 13分の誤算(ELSER/13 MINUTES) ★★★★:史実に基づくドイツ映画。ヒトラー暗殺を単独で企てた男がヒトラー暗殺を企てるに至った経緯と逮捕後の様子を交互に描いて、独裁政権下の時代の空気を映し出す。ごく普通の手先の器用な男性が、独裁者を暗殺する為に爆弾を製作するまでに至ったところに、普通の人生、普通の暮らしを奪われた男性の悲しみと怒りの深さを感じる。極限状況下に置かれると、人間の理性に獣性が勝ることの恐ろしさや虚しさも感じた。善良で控えめな人間ほど、時代の横暴に蹂躙されるのだろう。
(39)エール!(LA FAMILLE BELIER/THE BELIER FAMILY) ★★★★:フランス映画。原題はヒロイン一家の名前。いつも邦題と原題の乖離には戸惑ってしまう。フランスの田舎町で農業を営む一家。ヒロイン以外は全員が聾唖者と言う家族の中で、ヒロインの役割は家族と社会の橋渡し役である。そんな彼女が歌の才能を見出され、パリの音楽院で学ぶチャンスが訪れる。ストーリー展開は凡庸だが、普遍的な温かな家族愛を描いて、本国でも人気を博したのは分かるような気がする。見終わった後に、わが子の巣立ちを応援する親の愛など、自分自身に投影してしみじみとした気分になった。
【11月 10本】
(40)サバイバー(SURVIVOR) ★★★☆:ミラ・ジョボヴィッチ主演のサスペンス映画。ミラ演じるヒロインは国務省の優れた情報分析官で、ロンドンの米大使館に赴任する。米国へのテロを画策するテロリスト達の米国への侵入を、的確な情報分析で未然に防ぐ、水際でくい止めるのが彼女の仕事なのだが、これがいろいろと大変で(テロリストの人物像も本当にさまざまで、絞り込むのが難しい)、正に命懸けなのだ。誰を信じ誰を疑うか、疑心暗鬼の中で、ヒロインは戦い続ける。エンドロールで彼女のような情報分析官らの活躍により、9.11以降、50件あまりのテロを未然に防げたとのテロップが流れ、その現実感に戦慄する。米国は本当に敵が多いと言うか、人の恨みを買っている国なんだなと思う。
(41)トランスポーター イグニッション(THE TRANSPORTER REFUELED) ★★★:主演も新たにキャストの若返りを図った人気シリーズの最新作。しかし、本職は人気ラッパーだと言う新ヒーローは、スタイリッシュでクールでセクシー(女性ファンの心を鷲掴み・笑)だったジェイソン・ステイサムの初登場時のインパクトを超えられない。トランスポーターと言えばイコール、ジェイソンと言うイメージだ。これはジェイソンを凌駕するような新人の登場でもない限り、変えられない。
(42)グラス・ホッパー ★★★:映像化が多い人気作家の伊坂幸太郎の原作と聞いて期待したが、肩透かしをくらった感じ(過去には「アヒルと鴨のコインロッカー」「重力ピエロ」「フィッシュストーリー」「ゴールデン・スランバー」etcと面白い作品が目白押しなのだ)。稀代のストーリーテラーの原作の良さを生かしきれなかったのか?(殺し屋同士が対決する)サイドストーリーの盛り上がりに比べ、主演(生田斗真)の存在感の希薄さが気になった。
(43)サヨナラの代わりに(YOU'RE NOT YOU) ★★★★:
若くして米アカデミー賞を2度も受賞している演技派ヒラリー・スワンク主演のヒューマン・ドラマ。才能に恵まれ、優しく有能な夫と幸せに暮らしていたヒロインを突然病魔が襲う。病気の進行で全面的な介護を必要とし、人生に絶望した彼女の前に介護役として現れたのは貧しい女子学生。あまりにも育った環境が違い過ぎる二人で上手くやって行けるのか、観客は固唾を飲んで見守るのだ。病を得たことで失ったものの大きさと、新たに得たものの尊さ。自分の余命を知った後の生き方や命の尊厳について、改めて考えずにはいられない作品。
(44)コードネーム~UNCLE(THE MAN FROM U.N.C.L.E.) ★★★★:冷戦時代の米ソのスパイが協力して、国際的な悪の組織に立ち向かうスパイ・アクション。設定からして荒唐無稽だが、ガイ・リッチー監督の持ち味が生かされたスタイリッシュで軽快な本作は、笑える小ネタも満載で最初から最後まで楽しめる。
(45)尚衣院~サンイウォン ★★★★☆:タイトルの尚衣院とは、朝鮮王室の衣服を誂える部署のこと。その尚衣院を舞台に愛憎渦巻く人間ドラマが展開する。幼い頃から研鑽に励み、確かな技術を身に付けた尚衣院の仕立て師(ハン・ソッキュ)の前に現れたのは、奔放で天才肌の職人(コ・ス)だった。長い時間をかけて王の信頼を勝ち得た仕立て師にとって、女遊びに興じながら、次々と斬新なデザインを生み出す職人の才能は脅威でしかなかった。その職人が才能を認められ王室に出入りするようになり、仕立て師の焦燥と嫉妬は募る一方だ。そうした二人のライバル関係に王室の複雑な事情も絡み合って、物語は思わぬ展開を見せて行く。誰かが指摘していたように、これは正にサリエリとモーツァルトを連想させる"才能への愛と憎しみ"の物語だ。今回もまた、長尺ながら一切の中だるみもなく、スリリングな展開で観客を惹きつけて止まない韓国映画の演出の巧みさには脱帽だ。登場する衣装も絢爛豪華で美しい。
(46)Re:LIFE~リライフ(THE REWRITE) ★★★★☆:ハリウッドでの活躍も最早過去の栄光となった中年の脚本家が、新たに得た仕事は東海岸の小さな大学での教職。当初は学生相手にシナリオの書き方を嫌々指導していた彼も、さまざまな背景を持つ学生との触れ合いから、徐々に教職にやりがいを見出してゆく。やさぐれた主人公の脚本家をヒュー・グラントが演じて、その姿に時の流れを感じると同時に、彼のどこか脱力した軽妙な持ち味が主人公のキャラによく嵌って、作品としては楽しい仕上がりであった。長年のファンとしては、もっとヒュー・グラントの活躍を見たいところ。
(47)ミケランジェロ・プロジェクト(THE MONUMENTS MEN) ★★★☆:これも原題と邦題との乖離が甚だしい。原題のTHE MONUMENTS MENは先の大戦時にナチスドイツによって収奪された美術品を奪還すべく暗躍した実在の人物達の呼び名だ。監督も務めたジョージ・クルーニーを筆頭に、マット・デイモン、ビル・マーレイ、ジョン・グッドマンとキャスティングは豪華で、取り上げたテーマも興味深いものだが、いかんせん演出が平板で盛り上がりに欠ける。メンバーが死ぬ場面など、悲しみや憤りが湧き上がるべきところだと思うが、描き方があっさりし過ぎて今一つ感情移入できなかった。監督の演出力の問題かなと思う。作り方次第で幾らでもドラマチック(もっと印象深い仕上がり)になったであろうに、けっして作品として面白くないわけではないが、素材を生かしきれなかった残念さがある。
(48)007 スペクター(SPECTRE) ★★★★:ダニエル・ボンド最後の作品になるであろうと言われる本作。前作に引き続きサム・メンデス監督は過去のシリーズ作品で見られたような軽妙さを抑え、あくまでもハードボイルドタッチで、007の活躍を描く。尤も、本作のように度々主演・監督を変えて長期に渡るシリーズとなると、描かれる人物像も時代の空気を色濃く反映したものになるのは当然か?今は現実の世界が相次ぐテロや紛争で重苦しい雰囲気を湛えているがゆえに、ボンド映画にもかつてのような軽妙さを許さない。主役はもちろん、ボンド・ガール像にも隔世の感がある。その重みも変化した。片や美しくセクシーだが若くはない。片や若いがセクシーさに欠ける。どちらも些かインパクトに欠ける。そのせいか、ボンドとの絡みも中途半端で、ボンドとボンド・ガールとの関係性に説得力がない。それでも豪華な仕掛けと「女王陛下の007」としての品格で、本作の王道のスパイ映画としての地位は揺るがない。とりわけ映画冒頭のアクションシーンは圧巻だ。もしかしたらそのシーンが、私の中では興奮度MAXだったかも(笑)。
(49)黄金のアデーレ(WOMAN IN GOLD) ★★★★☆:昨年は戦後70年の節目と言うことで、先の大戦時を振り返る作品が数多作られた。本作もそのひとつだ。ユダヤ人所有の美術品がナチス・ドイツによって収奪されたエピソードを描いた作品と言えば、最近では「ミケレンジェロ・プロジェクト」があるが、本作は米国人による作品の奪還を描いた冒険活劇風味の「ミケランジェロ・プロジェクト」よりも、ユダヤ人の気高さと知性と粘り強さを描いたと言う意味で、2010年に製作された「ミケランジェロの暗号」にテイストが近い。ユダヤ民族の成功のバックボーンにあるのは、「他者の妬みを買うほどの勤勉さ」と、「教育の重要性を他の誰よりも認識して子弟の教育に力を注いだこと」だと思う。大戦時のユダヤ人を描いた作品では、2006年のポール・ヴァーホーヴェン監督作「ブラック・ブック」も併せて見ていただきたい作品である。
【12月 9本】
(50)ハッピーエンドの選び方(MITA TOVA/THE FAREWELL PARTY) ★★★☆:なかなか見る機会のないイスラエル映画。チネチッタに感謝である。かつて私が住んでいた中東の都市ではイスラエルのテレビも見ることが出来た。ただし理解できるのは挨拶の「シャローム」だけ。「神のご加護がありますように」と言う意味だ。本作はイスラエルの老人ホームが舞台。自身の死が間近に迫っていることを悟った男性が、友人に安楽死させてくれるよう頼むところから物語は動き出す。イスラエルの老人と言えば、あのホロコーストを生き抜いて来た人々のはず。しかもユダヤ教徒である。それでも安楽死を望むところに、彼らが直面する現実の厳しさを感じずにはいられない。それなりに葛藤を経てとは言え、最終的には安楽死を承諾する家族の姿に、違和感を覚える日本人も多いのではないだろうか?日本は本人が望まなくても、あらゆる手段を講じて家族が延命させるケースが少なくない国である。死する時は天命に委ねるべきか?自ら決めるべきか?それとも、家族が決めることなのか?簡単には答えの出ない難しい問題である。
(51)FOUJITA ★★★☆ 20世紀前半、エコール・ド・パリで活躍した日本人画家、藤田嗣治の伝記映画。藤田を演じたオダギリジョーが醸し出す品の良さが、さまざまな文献資料から垣間見える藤田本人の雰囲気をよく伝えていたと思う。しかし、小栗康平監督の持ち味でもある暗い色調の画面を見続ける集中力が続かず、時々失念してしまった(汗)。
(52)私はマララ(HE NAMED ME MALALA) ★★★★:マララ嬢の懸命の努力にも関わらず、先日も彼女の母国で大学が襲撃され、大勢の学生が殺害される事件が起きた。教育の破壊者は、教育の力を最も恐れている者だ。自分達の劣勢を、暴力で巻き返そうとしているに過ぎない。それが虚しい行為であることに気付かないほど愚かなのか、或いは分かっていながら敢えて目をそむけているだけなのか?いずれにしても、正義は教育の普及活動を積極的に推し進めるマララ嬢の側にある。
(53)海難1890 ★★★★:1890年に起きた和歌山近海でのトルコ軍艦エルトゥールル号遭難事故から125年経ったのを記念して、後に長年に渡る日本とトルコの友好関係のきっかけとなった当時の経緯を克明に映像化した日本とトルコ両国による合作。自分達が日々食べる物にも事欠く貧しい漁村の人々が懸命に遭難者を救助し、故国に帰国するまで村総出で世話を続けた姿には胸を打たれた。奇しくもその95年後にはイラン・イラク戦争に巻き込まれたイラン在住日本人が、トルコの救援機によってイラン脱出を果たすのだが、ここではイラン在住のトルコ人市民の扶助精神に感銘を受けるのだった。何れの時代も民衆レベルで助け合う姿が印象的だ。エンドロールではトルコのエルドアン大統領自ら出演してメッセージを寄せているのに、日本の首相の顔が見えないのは、日本トルコの友好関係を記念しての合作映画だけに残念だった。
(54)Orange ★★★☆:人気漫画の映画化。主演の土屋太鳳と山崎賢人は朝ドラに続いての共演。この世代に他に目ぼしい俳優はいないのだろうか?それはさておき、二人は醸し出す清潔感で、20歳過ぎながら高校生の役を演じても違和感がない。土屋太鳳は相変わらず声が小さく、か細い。今は若さで許されるが、今後年を重ねて行った場合、女優としてどうなのか?活躍の場として、テレビはともかく舞台は無理だろうなあ。物語は「過去の自分」から届いた手紙に書かれた"願い"に応える形で進む。奇想天外な話だが、SFかファンタジーとして受け止めれば、どうにかついて行けそうだ。ファンタジーだから、根っからの悪人は登場しない。ヒロインを取り巻く友人達も皆いい子ばかりだ。物語の結末も、女子中高生達の願望を叶える形?での着地で、大人にはちょっと物足りないかな(笑)。
(55)I love スヌーピー(THE PEANUTS MOVIE) ★★★☆ 私も10代の頃に一端の見栄を張って、スヌーピーのペーパーバッグを買ったっけ。漫画のスヌーピーが動画になって縦横無尽に動き回るさまには、ちょっと不思議さと違和感を覚えた。映画館には映画公開に合わせて、スヌーピーの等身大?のぬいぐるみが飾られていた。正直、あまり可愛くなかった。それでもスヌーピー愛に変わりはない。劇場内には、かつて子供だった人達が大勢、リアル子供達に混じって、スクリーンの中のスヌーピーやチャーリー・ブラウン達の姿に見入っていた。見るからに幸せな光景だ。
(56)完全なるチェックメイト(PAWN SACRIFICE) ★★★★:米ソ冷戦時代にチェスで繰り広げられた代理戦争を描く。トビー・マグワイヤ演じる主人公が、勝利に拘るあまりエキセントリックな言動を続けるところに、正気と狂気のギリギリのバランスで生きる天才の生き辛さを感じずにはいられなかった。エンドロールで流れる実際の本人の晩年の映像が、その印象を決定づけたと言っても良い。結局、主人公もロシア系と言うことで、チェスによる代理戦争は実質ロシア人の独壇場ではないかと思った。米国はさまざまな民族の才能を吸い取って成長し続ける国と言うことなんだろう。
(57)母と暮らせば ★★★☆:山田洋二監督作品。台詞は不自然だし、(舞台劇ならともかく)吉永小百合は相変わらず年齢不詳の聖母を演じているし、加藤健一を除く出演者の長崎弁はお世辞にも上手いとは言えないのだが、大学で講義を受けている主人公が原爆で命を落とす瞬間の描写が秀逸。このシーンを見ただけでも、本作を見て良かったと思う。容赦なく人々の命を奪う原爆の残酷さと恐ろしさと無慈悲さを見事に表現している。誰もがこれまでに何度も目にしたであろう、あのきのこ雲の下で、何が起きていたのか?それをほんの数秒のシーンでイマジネーション豊かに描いている。これぞ映像の力である。
(58)サンローラン(SAINT LAURENT) ★★★☆:サンローランものの映画作品は本作を含めて3本見た。本作はその中で最も作家性の強い作品なのかもしれない。サンローランの天才性の反面にある退廃性が耽美的な映像で表現されていたのが印象的。天才の脆さと凄みがスクリーン越しにビンビン伝わって来る。