はなこのアンテナ@無知の知

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文化講演会『フェルメールとオランダ風俗画』聴講記録(1)

2007年11月16日 | 文化・芸術(展覧会&講演会)

 フェルメール研究では日本における第一人者である小林頼子先生(目白大学社会学部教授)の講演を聴講した。以下はその講演内容の記録(筆記メモを元に、はなこが再構成。オレンジ部分は、はなこによる補筆)。現在国立新美術館で開催中の『フェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展』の会期も残り1カ月となったが、今回の講演で学んだことを踏まえて再度鑑賞してみたいと思う。




1.風俗画とは

 比較的富裕な市民階級の家庭を舞台に、主にそこで暮す、或いは家事に従事する女性の日常の姿~買い手である市民階級が「身近に感じられる」として、歴史画よりも好んだ題材~を描いた作品群の総称である。このジャンルは、(例えば18世紀フランスのシャルダン等の作品が有名だが 、それに先立つ)17世紀に、オランダにおいて初めて確立したと言って良い。

 【右作品】ジャン・シメオン・シャルダン《野菜の皮むき》~フランス18世紀の風俗画家シャルダンも、写実性を17世紀オランダ風俗画から学んだとされる。

2.その始まりと展開

 17世紀は、オランダ史上最もオランダが繁栄を極めた時代(所謂The Golden Age)である。元々盛んだった毛織物産業の隆盛と共に、東インド会社を中心に海外交易で巨万の富を得て、オランダ社会では市民階級にまでその恩恵が及び、豊かな市民社会が築かれたのである。さらに宗教的には16世紀初頭、隣国ドイツで勃発した宗教改革*の影響と、強大なカトリック勢力であるスペイン(ハプスブルグ家)による1477年以来の支配への反発もあって、1568年の独立戦争勃発も追い風となり、オランダでは急速にプロテスタントが勢力を拡大して行った。

 その結果、芸術家のパトロンは従来の教会(や王侯貴族)から富裕な市民層へと取って替られた。芸術家とて食べて行くためには需要と供給の関係を考慮しなければならない。オランダでは多くの画家が、大きなサイズの歴史画(宗教画や神話画)ではなく、富裕な市民階級向けの(市民の住宅にも気軽に飾れる)比較的小さなサイズの「風景画」「静物画」「風俗画」を描くようになった。傑出した風俗画家フェルメールの誕生の陰には、こうしたオランダの事情があったのである。

宗教改革* サン・ピエトロ寺院建立資金調達の為にローマ法王庁<カトリック>が編み出した”免罪符”に、それまでの法王庁支配に対する鬱積した不満を爆発させたマルチン・ルターを中心とする一派が、カトリックに反旗を翻した歴史的事件。彼らプロテスタントは、モーセの十戒の教えの一つ”禁偶像崇拝”を盾に、教会内の絵画や彫刻を否定し、それらを排除した。

 もちろん、「風俗画」は、フェルメールの中で、ある日突然生まれたわけではない。当初は「宗教画」(【例】《放蕩息子》、《マルタとマリアの家のキリスト》)の主題を借りつつも、徐々に”豊かな市民生活の描写”に重きが置かれ、”プロテスタント社会の倫理観を反映した主題”へと変容して行ったのである。それに伴い、画面構成や描き方にも変化が見えてくる。

フェルメール《音楽の稽古》(1662-64) 
描かれたモチーフで、豊かさを表象

①ヴァージナルと呼ばれる楽器:その価格は、現在の貨幣価値にして200~300万円で、当時の庶民の年収に相当する。

②瀟洒なタペストリー:中東からの輸入品。高価な輸入品がさりげなく置かれた家、と言う意味でも、その豊かさを象徴しているのは明らか。

■「風俗画」に描かれた女性達の日常⇒「女性は家庭の中で家事や子育てに勤しむべき」
という当時のプロテスタント的価値観を反映。


 その多くは”屋内”で、”若い女性”や”良家の夫人”が、”家事に勤しむ””買い物をする””身支度をする””食事をする””子供の世話をする””本や手紙を読む”姿が、写実的に描かれている。

 隠喩を含む、さまざまなアトリビュートも散りばめられている。
・子供の髪をとく行為:髪の毛だけでなく頭もとく→「教育」の表象。
・水差し:浄める=悪徳を家庭から追い出す。
・鍵を持つ女性:女性は家を預かる者→家庭にいるべき存在。
・鳥かご:処女性

■画面構成:横型から縦型へ 

 16世紀頃まで「横型」:横長画面の中にできるだけ沢山のものを描き込む。
17世紀後半~「縦型」:描く対象をクローズアップし、その細部を描く。

(2)へつづく





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