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news commentary

春立ちぬれば楽しい関税

2025-02-04 01:12:43 | 国際

2月3日は日本の暦で立春。昨日(2月2日)は節分で、あちこちの社寺で豆まきがあった。横綱になったばかりの豊昇龍が豆まきをしているのをテレビのニュースで見た。顔面の筋肉の中に細い目が埋まってしまうほどの笑顔だった。

日本の国会では新年度予算案の審議が衆院予算委員会で進んでいる。これといったヤマ場のない平坦な問答が繰り返され、新年度予算案に「楽しい日本」の副題をつけた石破首相の表情もどこか眠たげである。

元気いっぱいに見えるのは米国のトランプ大統領だ。3月3日の朝刊で、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税をかけ、中国からの輸入品には10%の塚関税をかけると米大統領が言明した。

不法移民や合成麻薬の米国内流入に対する措置だと解説されているが、原因と対策のあいだに論理的なつながりはない。メキシコもカナダも対抗策として米国からの輸入品に25%の関税をかけると表明した。この関税合戦はどのくらいの期間続くのだろうか。

トランプ政権は1月下旬にも移民を送還する米軍機の着陸を拒否したコロンビアに対して関税引き上げを脅しに使った。コロンビア政府は折れて、米軍機の着陸を許可した。

このような性格の米政権だから、カナダやメキシコと打開策を協議する一方で、さらに中国。ロシアに対してあらたな関税合戦を始めることだろう。

コロンビアの政府も、カナダの政府も、メキシコの政府も、中国の政府も、ロシアの政府もはた迷惑なアメリカ大統領を付き合うこれからの4年にうんざりしていることだろう。

この問題を解決できるのはアメリカ合衆国の有権者だけなのがなんともつらいところだ。

(2025.2.4   花崎泰雄)、

 

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大統領の選択

2025-01-19 20:44:36 | 国際

韓国のユン・ソンニョル大統領が内乱の容疑で逮捕された。逮捕状を出したソウル西部地裁に19日大統領支持派の人びとが乱入した。昨年12月にユン大統領が非常戒厳令を出して国会に軍隊を送り込んだとき、人々はあっけにとられた。政党間の勢力争いを戒厳令で打開しようとした「牛刀をもって鶏をさく」的なユン大統領の政治感覚は精神分析の対象になる事例と感じられた。これに対して、国会は大統領の戒厳令の解除を可決した。これを機に野党はユン大統領の弾劾案を可決、大統領の退陣と次の大統領選の早期実現へ激しく動いた。韓国の有権者は野党のあからさまな権力奪取の攻勢にうんざりしたのか、今年に入ってからの世論調査では、政党与党支持率と野党支持率が逆転、与党支持が野党支持を上回った。これに勢いを得た大統領支持派の一部が地裁に乱入し、ユン大統領を守ろうとする姿勢を誇示した。この一連のドタバタ劇の出発点は、ユン・ソンニョルという人物の特異な個性と的外れの政治感覚が作り出した「青天の霹靂」的パロディーだったが、今では本気の戒厳令に至りかねない雲行きになってきている。韓国憲法第77条は①大統領は戦時·事変又はこれに準ずる国家非常事態において兵力により軍事上の必要に応じ,又は公共の安寧秩序を維持する必要があるときは法律の定めるところにより戒厳を宣布することができる②戒厳は非常戒厳と警備戒厳とする.③非常戒厳が宣布されたときには法律の定めるところにより令状制度,言論·出版·集会·結社の自由,政府や裁判所の権限に関し特別な措置をすることができる④戒厳を宣布したときには大統領は遅滞なく国会に通告しなければならない.⑤国会が在籍議員過半数の賛成で戒厳の解除を要求したときには大統領はこれを解除しなければならない.と定めている。

一方、20日には米国でドナルド・トランプ大統領の就任式が行われる。トランプ新大統領は選挙中から「タリフマン=関税男」を名乗り、新聞報道によると中国産品に60%、中国企業によるメキシコ産自動車に100%、全世界からの輸入に一律10%の関税をかけると表明してきた。

アジア経済研究所の予測では、米国が中国からの輸入品に60%、全世界からの輸入品に一律10%の関税をかけた場合、米国のGDPは1.9%減り、中国のそれは0.9%減る。日本やASEAN諸国のGDPには大きな影響はないが、世界のGDPは0.5%減る。

高い関税をかければ輸入する国では商品の売れ行きが落ち、輸出元では商品の生産が落ちる。高い関税を課せられた方は、報復関税を決意する。関税ごっこはやがて非生産的なシーソー・ゲームに入り込み、両者が不自由な思いをするようになる。

20世紀末、日本と米国は農産物自由化をめぐっていわゆる「牛肉・オレンジ戦争」を始めた。米国はアメリカの牛肉やオレンジの対日輸出増をねらい、日本は国内の畜産農家やミカン農家守ろうとした。農業への配慮を優先しすぎると、工業製品である自動車の輸出が伸び悩む。日本政府は苦慮の末、アメリカと日本の外交体力の違いもあって農産物輸入自由化を決意した。

これから4年間のトランプ政権下で、米中の関係はどうのように推移するのだろうか。米国では通商に関する決まりは関税率も含めて議会の承認が必要だ。大統領令だけで関税率を決められるのは限定的な条件と期間に限られる。関税によってMAGA(Make America great again)を実現するのは関税男の一存だけでは困難だろう。関税引き上げが遠因となって米国経済が萎縮することもありうるのだ。

20世紀後半には効率を最大化する意思決定者の行為を研究する方法として経済学の合理的選択論が政治学研究に転用されもてはやされた。経済学においては効率の最大化は収益の最大化であるが、政治の分野での合理的選択とはいったい何を意味するのだろうか。米国経済を傷つけてでも中国に圧力をかけるのが合理的だろうか。「肉を切らせて骨を断つ」。アメリカはそれほど中国を恐れているのだろうか。

超大国アメリカの衰退傾向が言われてからもう長い時間がたっている。これから4年間、トランプ米大統領が不動産業者ではなく政治指導者として発想し、選択し、実現させようとする合理的選択が、果たして誰を幸いにするのか、興味深い観察ができそうである。場合によっては関税がMake America gloomy againにつながることもありるだけに。

(2025.1.19 花崎泰雄)

 

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福笑い

2025-01-14 01:10:13 | 国際

旅の修行僧とこんにゃく屋六兵衛がふんする和尚の問答。

修行僧が「法界に魚あり、尾もなく頭もなく、中の鰭骨を保つ。大和尚、この義はいかに」と問うが六兵衛和尚は無言。ほほう、無言の行だなと勘違いした旅の僧が、手で○をつくると、六兵衛和尚が両手で大きな○をつくって応じる。修行僧が十本の指を突き出すと、六兵衛が片手で五本の指を出す。修行僧が三本の指を出すと六兵衛があかんべえ。修行僧が恐れ入ったと退散する。

〇をつくって「天地の間は」としかけたところ「大海のごとし」と大きな〇。「十方世界は」には「五戒で保つ」と指五本。「三尊の弥陀は」には「目の下にあり」。恐れ入りましたと修業僧が述懐する。

六兵衛は憤慨して毒づく。お前が売っているこんにゃくはこんなに小さいとぬかすから、それはちがうこんなに大きいと答えてやった。十個でいくらかと聞いたので、五百だと言った。すると、三百にまけろという。だからあんべえだ。

昔の正月はテレビでこんな落語を聴いて笑っていた。いまテレビはニュースしか見ない。昨年から今年の正月にかけてドナルド・トランプの独演会が切れ目なく続いている。もうすぐかれの就任式だ。

NATO諸国は防衛費をGDP5パーセントに増やせ。もし私が大統領だったら、ロシアとウクライナの戦争は起きなかっただろう。あの戦争は24時間でやめさせることができる。アメリカの安全保障のためにグリーンランドが必要だ。カナダを51番目合衆国の州にしよう。メキシコ湾をアメリカ湾と改名しよう。パナマ運河を取り戻そう……などなど。

ニュース解説ではジャーナリストや外交専門家、政治学者らがトランプ発言の端々をとらえては、面白おかしく解説をしてくれる。笑門来福の福笑いのゲームさながらだ。

ドナルド・トランプというご仁は、何かの目標を実現するために権力を握ったのではなく、権力がもたらす快感に酔うために権力を握ったのだ。トランプ発言からゴシップ的要素を取り去ると、そのあとに彼の世界観が見えてくるか――存在しない世界観など見ようがないではないか。それが世界中を不安に陥れているのだ。

まもなく大統領の座につくドナルド・トランプ氏は、中国関連の展望を語らない。台湾をめぐる事態への基本的な対応についてだんまりを決め込んでいる。大統領周辺にはいくつかのオプションを持った専門家がいるだろうが、最終的な選択は大統領にゆだねられる。それが世界の初笑いを凍りつせているのだ。

(2025.1.14 花崎泰雄)

 

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師走の火遊び

2024-12-04 17:50:25 | 国際

韓国の現行憲法は、国家が非常事態に直面したとき、大統領が戒厳を宣布することができるとしている。2024年12月3日夜、ユン・ソンニョル大統領が発した非常戒厳は憲法の規定に基づいていた。

同時に憲法は国会が在籍議員の過半数の賛成で戒厳の解除を要求したときには大統領は戒厳を解除しなければならないと定めている。国会は戒厳の解除を決議、大統領は数時間後に非常戒厳を解除した。

戒厳は軍事上の必要があるとき、公共の安寧秩序を維持する必要があるときに、宣布されると憲法は定めている。それにより、令状制度,言論·出版·集会·結社の自由、政府や裁判所の権限に関し特別な措置をすることができる.

韓国の通信社・聯合ニュースが新聞の見出しを紹介していた。

<朝鮮日報>尹大統領、「非常戒厳」宣布 国会、150分後に解除
<東亜日報>尹大統領が真夜中に「非常戒厳」…国会、2時間で解除
<中央日報>尹大統領、「非常戒厳」宣布…国会で解除要求決議可決
<ハンギョレ>社説:尹大統領の戒厳令、国民に対する反逆だ
<京郷新聞>尹大統領、真夜中に「非常戒厳」宣布
<毎日経済>尹大統領、「非常戒厳」宣布…国会、即刻解除
<韓国経済>尹大統領、深夜に「非常戒厳」宣布…国会が155分後に「解除」決議

ユン大統領は何を何から守ろうとして非常戒厳を宣布したのだろうか。いまのところ納得できるような説明をした人はいない。

合衆国の次期大統領・トランプ氏がカナダのトルドー首相に、高関税を避けたければ合衆国の51番目の州になればよい、と言ったとか。カナダ側は冗談と逃げを打っているが、薄気味悪い話だ。

野党の攻勢で打つ手がなくなった韓国のユン大統領が、局面打開のために、えいやっと、トランプをまねたのだのだろうか――これはもちろん冗談である。

マッチ1本火事のもと。師走の火遊び、ご用心。

(2024.12.4 花崎泰雄)

 

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これやこの

2024-11-21 13:08:38 | Weblog

パンドラの箱を2度もあけてしまったアメリカの大衆。馬鹿とハサミは使いようと負け惜しみを言ったところで不快はおさまらない。

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タイトロープ

2024-10-07 00:36:45 | 政治

今月に予定されている解散総選挙で、自民党は何をすればよいのか? 議席増や現状維持は常識的に判断して望むべくもないが、議席減をできる限り抑える方法はないのか? 自民党の議席が単独過半数を割れば、党総裁は責任をとって辞めることになる。

フレイザー『金枝篇』第1巻はネミの湖のほとりの一本の樹の説明ではじまる。その樹の下を抜身の剣を手にあたりを警戒する祭司の姿が描写される。祭司は彼を殺して、彼に代わってあたらしい祭司になろうとする人物の出現を警戒している。その人物は祭司を殺すことによって司祭の地位を手に入れ、次により老獪な者によって殺されるまでその地位を保つことができる。

ここでちょっと話が脱線するが、フレイザーのネミの湖の祭司のエピソードは伝承の時代の物語で、権力奪取は論敵の頭を叩き潰すことから、敵と味方の頭数を数えることで決着をつける時代へと変わっていった。もっとも、東洋ではかつてスカルノが大統領時代に「賛成51、反対49であっても、51を占めた側の意見がそのまま通るのは乱暴だ。インドネシアでは協議を尽くし(musyawarah)そのうえで全会一致(mufakat)で物事を決める」とインドネシア式多数決を自賛した。スカルノ政治を研究した政治学者たちはムシャワラとムファカットの決め方は、たいていの場合、会議を支配するボスの意向通りの決定になる、と冷やかした。いまの日本でもよく見られる会議の風景である。議論は出尽くした、決定はボスに一任しよう、一同賛成。あの風景だ。

権力と支配をめぐるドラマは今も昔もあまり変わらない。自民党総裁選挙での石破氏の論調が、首相に選出されたとたん渋くなったのは、党幹部とのムシャワラで説得されたことや、あたりに彼の首をねらう人物の影を感じたからだろう。総選挙での自民党の後退要因は裏金議員の処遇である。裏金議員を党公認から外せば、それは議席減につながり、都内の一部から不満が噴出し、総選挙後の党総裁の首が危うくなる。多数の裏雁議員を党が公認すれば野党からの批判が激しくなり、自民党の議席減になる。党のボスたちが軟着陸軟着陸可能な裏金議員の党公認数を鳩首協議している。

10月初めの朝日新聞の世論調査では、「今後も自民党を中心とした政権が続くのがよいと思いますか。それとも、立憲民主党を中心とした政権に代わるのがよいと思いますか」の問いに、48パーセントの回答者が「自民党中心」がよいとし、「立憲民主党中心」は23パーセントどまりだった。

平凡社『世界大百科事典』は保守主義について次のように説明している。保守主義は元来政治イデオロギーだったが、「今日ではそうした発生に由来するイメージのほかに、変革を嫌う現状維持的態度一般を指す漠然たる概念にまで拡大されてきている。この意味での保守主義は生活のさまざまな領域で発現するが,共通しているのは,未知への恐怖心,過去から受け継いだ習慣への固執といった,いずれも安全への本能的欲求に根ざした,個人または集団の心理的特性や態度の表れだということである」。

そういうわけで石破首相は4日の所信表明演説で①ルールを守る②日本を守る③国民を守る④地方を守る⑤若者・女性の機会を守る、を演説の柱とした。派閥裏金事件でいらだつ有権者を、自民党政権は「あなたを未知への恐怖」から守りますとなだめているのだ。

(2024.10.7 花崎泰雄)

 

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ボンボヤージュ

2024-09-28 23:15:56 | 政治

自由民主党が新しい総裁に石破茂氏を選んだ。公明党は石井啓一氏を新代表に選出した。立憲民主党は野田佳彦氏が新代表に選ばれている。10月に入ると臨時国会が始まる。石破氏が新しい首相に指名されて組閣する。組閣のあと国会で所信表明演説だの代表質問だのがあって、予算委員会で質疑が行われるだろう。そして質疑もそこそこに衆議院が解散され、総選挙が始まるだろう。

総選挙の後、国会の勢力図がどうなっているか。確実なことは誰にもわからない。韓国や台湾なら支配政党の構造的な疲労は素直なかたちで選挙結果に反映されるのだが、日本の有権者はたえしのぶことが好きで、かつては「踏まれてもついてゆきます下駄の雪」と自民党と連立をくんだ公明党が揶揄されたが、日本の有権者全体にもこの傾向がみられる。球場の夜空に消えてゆくホームランの打球をぽかんと見上げるように次の選挙を観戦するのだろうか。

おそらく総選挙で自民党は議席を減らすだろう。議席を増やしたり、現有議席を保持できるような環境にはないのだから、議席は減るしかないのだ。

(2024.9.29 花崎泰雄)

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ドジョウすくいを今一度

2024-09-23 23:26:15 | 政治

立憲民主党の代表選挙が9月23日に行われ、決選投票で野田佳彦氏(元首相)が新しい代表に選ばれた。まもなく自由民主党の総裁選挙がおこなわれ、そのあとに衆院解散・総選挙の可能性があり、野田氏が立憲民主党の総選挙の顔として選出された。

野田氏は2011年に民主党を率いて首相に就任した時、自身のことを「泥鰌」と表現した。権力を振りかざすことのない、普通の市民感覚を持った政治家であるとの自己評価だった。政治家はときどきこの手の謙譲表現を使う。

1974年に米国でニクソン大統領がウォータゲート事件で辞任したあと、大統領職を引きつだジェラルド・フォード氏は前年の1973年に副大統領に就任したあとのスピーチで、自らのことを “I am a Ford, not a Lincoln” と自己紹介した。大衆車のフォードです、高級車のリンカーンではありませんという意味のジョークだった。

野田氏の泥鰌的自己紹介は、フォード氏の諧謔をまねた節がうかがわれるが、2024年になって、「昔の名前」で代表選に出たとき、彼はまた「泥鰌」という言葉を使った。人差し指で押すだけで自民党が次の総選挙でドミノ倒し的大敗を喫するところまできているいま、政治コミュニケーションの技法としては泥臭いところがある。そうか、野田氏や立憲民主党はそういう言い回しを喜ぶ層をターゲットにしている政治家・政党なのかと思われると若者や女性の票を減らす恐れもある。

それと野田佳彦という名を聞くとあのみじめな民主党衰退の記憶がよみがえる。2012年11月14日、野田首相は安倍晋三・自民党総裁と党首討論で対峙した。当時の新聞報道によると次のように問答をかわしていた。

野田首相「一票の格差と定数是正の問題。一票の格差の問題は違憲状態だ。定数削減は、2014年に消費税を引き上げる前に、まず我々が身を切る覚悟で具体的に削減を実現しなければいけない」

安倍氏「まずは0増5減。皆さんが賛成すれば明日にも成立する」

首相「定数削減はやらなければならない。定数削減は、来年の通常国会で必ずやり遂げる。この決断を頂けば、私は今週末の16日に解散をしても良いと思っている」

安倍氏「まずは0増5減、これは当然やるべきだ。すでに私たちの選挙公約において、定数の削減と選挙制度の改正を約束している」

民主党政権はそのころ野党・自民党の激しい抵抗で政治的に行き詰まっていた。解散・総選挙は時間の問題と言われていた。解散と引き換えに議員定数の削減を求めたのである。

しかし、民主党に代わって成立した自民党の安倍政権は.定数削減に手をつけなかった。

1年余りがたった2016年2月19日の衆院予算委員会で野田氏は「衆院の定数削減、いまだに実現していない。党首討論で、当時総理である私と自民党の安倍総裁が国民に約束したことだ。私は衆院解散という約束を果たしたが、次の国会での衆院定数削減の約束が実現されないまま今日に至った。できなかったということは、国民に嘘をついたことになる。満身の怒りを込めて抗議する」と安倍総理に迫った。日本政治の愁嘆場である。

一強多弱の国会で地球儀を回しながら大宰相の白昼夢を見ていたような感じだった安倍晋三氏の権力奪取を、野田氏が結果としてサポートしたような形になった。野田―安倍の党首討論が行われた2012年日本の1人当たりGDPは世界ランキングで11位だった。それが2023年には34位にまで落ちた。

9月23日の朝日新聞朝刊「記者解説」のページで編集委員の原真人氏が「斜陽の経済大国」を書いていた。「身の丈に合った社会設計 考える時」と見出しにあった。日本社会に流れる哀歌の通奏低音である。過ぎし日を思い、明日を考える人におすすめの、しみじみとした秋の歌である。

(2024.9.23 花崎泰雄)

 

 

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どこ吹く風の暑苦しさ

2024-09-15 19:32:13 | 政治

日本記者クラブが9月14日に自民党総裁選挙9候補の討論会を催した。15日はNHKが恒例の日曜討論番組で、自民党総裁選挙9候補の討論と、そのあと立憲民主党代表選4候補の討論を放送した。いずれも面白くもおかしくもなかった。

自民党の総裁選挙候補は夢物語のような実現可能性の少ない将来展望を語った。例えば「所得倍増」。年間所得が倍になるということは、どういうことか。オーストラリアの最低賃金は2000円超で日本の最低賃金の2倍以上である。オーストラリア人の年間所得は800万円超で、これも日本人の平均所得の2倍近い。「日本人の所得をオーストラリ並みに引き上げたい」と言っているのである。円安の背景もあるが、日本経済はここまで落ちた、と自認しているわけだ。日本の歴代政権の無能ぶりを、どうやって挽回するのか、聞いていた人たちは9月の暑さがこたえたことだろう。

立憲民主党代表選の候補者たちは、自民党総裁選候補捕者たちが派閥の裏金づくりスキャンダルについては発言を極力さけ、かわりに淡い将来展望を振りまいていると批判している。自民党を政権から追い払う、と4候補は声高だが、4人のうち2人がかつての民主党政権の中核だったオールドタイマーだ。

立憲民主党の代表選挙候補者も自民党総裁選挙の候補者の多くも、首班指名のあと間髪を容れず解散・総選挙を実行すると標榜する若手の自民党候補者の論に反対している。岸田文雄氏が総裁のままでは次の総選挙で大敗するという危惧から、岸田氏の総裁続投に反対し、総選挙の看板かけ替えのための総裁選挙をやっているのだから、人品骨柄はさておき、人気者を総裁にたて、新総裁のメッキの剥げないうちに早急に総選挙を済ませて議席減を防ぎたい、という気分のだろう。選挙で負ければ、総裁に責任を取らせ、次の総裁選で機会を狙うだけのことだ。

日本記者クラブの討論会で並んだ自民党総裁選候補者9人をテレビで眺めながら、なんだか就職試験の集団面接を見ているような気がしてきた。異常な暑さのせいだ。

(2024.9.15 花崎泰雄)

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どこまで行けるか?

2024-09-08 17:33:31 | 政治

オリンピックが終わった。パラリンピックも終了した。よーいドンで始まったのが日本の自民党総裁選挙と立憲民主党の代表選挙である。新聞・テレビだけではなく、週刊誌や眉唾ゴシップを流すインターネットサイトはしばらくの間このネタでしのいでゆける。

9月7日には立憲民主党の代表選挙が告示された。野田佳彦、枝野幸男、泉健太、吉田晴美の4氏が立候補した。同じ日の討論会(日本記者クラブ主催)で、元首相の野田氏は、政権交代こそが最大の政治改革だ、と語った(9月8日付朝日新聞)。

思い出したのが古い恋の歌――。

あひみての のちの心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり

立憲民主との4氏が何を考えているのか、まだよくわからない。わかったところで私は党員ではないので選挙権がなく、解散総選挙になっても彼らの選挙区の住民ではないので、一票を入れることもできない。こういう顔揃えになったのは現在の立憲民主党の実力のあらわれであると写真を眺めるだけである。4人の中に素敵な政治的パースペクティブの持ち主がいればいいのだが、願うだけである。

一方、自民党総裁選挙の告示日は12日である。茂木敏充氏は、防衛力増強のための増税は避けたいと言った。小泉進次郎氏は選択的夫婦別姓の導入について賛成する考えを示し、法案を国会へ提出すると発言した。林芳正氏はマイナンバーカードへの健康保険証一体化に関連して、現行の健康保険証廃止期限の見直しを検討する考えを示した。

思い出したのが昔のざれ歌――。

年を経し糸の乱れの苦しさに衣のたてはほころびにけり

(2024.9.8 花崎泰雄)

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