Podium

news commentary

日替わり表明

2024-09-01 00:01:05 | 政治

台風10号はながっちりというか動きの鈍い嵐だった。九州から四国へ移動するのに数日かかった。その間、暴風と豪雨で被害を出した。それどころか、台風の中心から遠く離れた関東圏で線状降水帯を作り出し、大雨を降らせた。この嵐で新幹線は止まり、飛行機も飛べなくなり、連絡船も出航を中止した。自民党総裁選挙に出馬するとみられている議員が次々と正式な出馬表明の予定を先延ばしした。有権者が台風で難儀している最中に総裁選ではしゃいでいると思われるのを避けたのだろう。もっとも立憲民主党の野田佳彦氏は台風が鹿児島に上陸した8月29日に立憲民主党代表選挙に出馬すると表明している。政局の台風の目のゲンかつぎか、野党の身軽さのゆえだろうか。

自民党の茂木敏充氏は新聞報道によるとは9月4日に総裁選立候補を正式表明する予定。小泉進次郎氏も当初の予定を先に延ばし9月に入ってからの出馬表明。9月上旬は下馬評にあがった議員たちが日替わりで出馬表明をすることになる。

8月31日付朝日新聞の「首相動静」によると、岸田首相は30日東京のホテル・オークラの日本料理店で、自民党副総裁の麻生太郎氏、幹事長の茂木敏充氏、林芳正官房長官と昼食を共にした。林芳正氏も9月に入ると出馬表明をする。官邸に帰ると石破茂氏、河野太郎氏と面談した。

ところで、31日の朝日新聞の別の記事によると、河野太郎氏は30日に麻生派の事務所で同派の議員に支持を訴えたが、集まったのは河野氏を入れて13人だった(麻生派には54議員が所属)。

下馬評に名前が出ている11人の議院のうち、何が脱落し、何印が正式立候補にたどり着けるか、興味深いレースになる。

また、立憲民主党では現在の代表である泉健太氏が所定の推薦人を集めきれていないのではないか、とにおわせる報道も出ている。

9月が始まる。風に任せて、流れに任せて、日本の政治が漂流するかもしれないシーズンが始まる。

(2024.8.31 花崎泰雄)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

下馬評

2024-08-25 00:43:25 | 政治

日本列島は性悪な熱気にとりつかれている。気象庁の長期予報ではこの暑さは9月に入っても尾を引くそうである。9月には自民党の総裁選挙と立憲民主党の代表選挙がある。それが終わるころには、涼風(寒気がするほどの冷風でもよい)が戻ってくれるとありがたいのだが。

8月24日には自民党の石破茂氏が地元・鳥取県の小さな神社で正式な総裁選挙出馬を表明した。同じ自民党の小泉進次郎氏が浴衣姿で夏祭り(多分地元の)にあらわれて小さな(選挙権のない)こどもに媚びを打っている姿がテレビのニュースで流された。小泉氏はまだ正式な総裁選出馬表明を済ませていない。

自民党の総裁選挙には今のところ11人が下馬評にあがっている。8月22日の日経新聞(電子版)によると、同社の世論調査で、23%の回答者が小泉進次郎氏を次の自民党総裁にふさわしいと回答した。18%の回答者が石破茂氏の名をあげた。

この段階で小泉・石破両氏とも出馬を表明していなかった。政治理念や具体的な政策、自民党のモラル向上策について語っていなかった。したがって、日経新聞のこの世論調査は下馬評的人気調査であり、小泉純一郎氏の息子である世襲議員小泉進次郎、「おもてなし」で人気者になったタレントの夫である進次郎氏、環境相在任時に環境対策のプロジェクトはセクシーであると、聞きなれない英語をつかった進次郎氏が、陰陰滅滅な語り口の石破氏より世間に受けているというだけのことである。

一方、立憲民主党の代表選びも泉健太氏、野田佳彦氏、枝野幸男氏が争うことになりそうだ。野田氏、枝野氏のどちらかが代表になれば、次の総選挙で、日本版"カマラ・ハリス効果“を作り出せるのは小泉氏かもしれない。

とはいえ、次の総選挙で自民党は相当な議席減を経験するだろう。自民党総裁の椅子に固執する岸田首相を椅子からはぎとったのは、このままでは次の選挙で議席を失う恐れのある自民党議員たちである。次の総選挙で自民党が2009年の総選挙の時のような大敗に見舞われれば、新総裁は即交代である。公明党や日本維新の会と連立を組むような状況になっても、総裁は責任を問われるだろう。

いま火中の栗をあえて拾うのは誰か、洞ケ峠を決め込むのは誰か。政治記事とは政局解説であると思いこんでいる日本の政治記者たちにとっては、興味深い9月になる。いっぽう「売り家と唐様で書く三代目」の時代を日本は迎えている。なぜこんな政治になったのか? 奥行きのある政治分析をたまには読ませてもらいたいものだ。

(2024.8.25 花崎泰雄)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

8月のたそがれ

2024-08-17 22:38:46 | 政治

岸田文雄首相が9月の自民党総裁選挙に出るのをやめたと記者会見で語った。次の首相を目指す気のないことを明らかにした。8月16日の朝日新聞コラム「天声人語」は「結局、岸田氏は何が最もしたくて首相になったのだろう」と書いた。なるほど。そういう感じを持つ人は少なくない。

岸田氏は何かがやりたくて首相になったわけではない。彼の天地左右なりゆき的なプリンシプルのない状況すり寄り型の政治的言動から、そのことは推測できる。彼は首相になりたかった、だけのことである。岸田氏の父も祖父も国会議員だった。三代目にして大輪の花を咲かせたかった――世襲の業である。世間には政治家の家庭で育った子であるから政治的才覚は自ずと身につけている、と楽観的に考える人がいる。おまかせ政治の風景だ。だが、岸田首相の長男は首相秘書官になって海外出張に出たさい、大使館の車に乗ってお土産品を買い集めていた。

福田康夫首相は福田赴夫首相の息子だ。麻生太郎首相は吉田茂首相の孫だ。安倍晋三首相は岸信介首相の孫だった。朝日新聞が伝える海外の研究によると、日本のGDPは1920年に世界の3.4%を占めていた。戦後の高度成長でそれが8.6%に上昇したが、2022年には3.7%に落ちた。

英国あたりなら政権が野党に移って当たり前の失政だが、自由民主党は少なからぬ有権者から「腐っても鯛」という評価を受けている。野党に政権が移っても世の中がよくなるとは思えない、慣れ親しんだ自民党政権の下でじり貧に耐える方がましだ、と考える人が多い。日本文化には、変化よりもなじみに重きを置く傾向がある。

それはさておき、もっか日本よりはるかに将来が不安なのがイスラエルである。イスラエル軍のガザ市民に対する攻撃は、ベトナム戦争における米軍のふるまいと同じように映像となって世界の家庭に流れている。ハマスの軍事組織を叩き潰すと叫んで、ガザを破壊し、そこに住む民間人、特に子どもを殺傷する行為は世界の多くの市民が批判している。近く停戦交渉の結論が出るようだが、イスラエルに痛めつけられたパレスチナ人の憤りは消えないだろう。汚職問題で裁判沙汰になっているネタニヤフ首相が、自らの保身をねらってガザ攻撃を続けているという見方が世界中で報道されている。停戦交渉を進めているさいに、ハマス幹部のハニヤ氏をイランの領内で暗殺するなど、停戦を嫌がっているようだ。

これだけのことをしてしまった以上、停戦交渉がまとまったとしても、イスラエルはすでに国際的な信用を失い、不快な国家としてのレベルを修復しがたいまでに上昇さた。このダメージを修復するには並々ならぬ努力が必要になるだろう。

自民党が変わる最初の一歩、と高尚な言い回しで憤懣を隠し、総理・総裁レースから身を引くことが許された岸田氏は、追い詰められていた割には運がよかった。

(2024.8.17 花崎泰雄)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お盆が近づくころ

2024-08-10 21:38:16 | 国際

パリの五輪競技大会と甲子園の高校野球の中継が夏のNHKテレビの番組を埋め尽くしている。そのさなか、スポーツ中継を押しのけて「南海トラフ巨大地震注意」を気象庁が出した。長崎市の平和祈念式典にイスラエルが招待されていないのは政治的な意図によるものだとして、駐日米国大使ら欧米の大使が結束して式典への不参加を表明した。原爆忌にうちあげた三尺玉のようなたいした、びっくり花火だった。

8月6日の広島の式典ではロシアとベラルーシは招待されなかった。イスラエルは招待されたが、パレスチナ自治政府は招かれなかった。式典の主催者である広島市の判断は政治的であるが、駐日アメリカ大使やイスラエル大使は式典に出席した。ロシアは米国と並ぶ核兵器を持つ国家であり、そういう国にこそ祈念式典に参列してもらい、核のない世界への想像力を身に着けるきっかけにしてもらうべきだった、という考え方もありうる。しかし、それは主催者広島市の政治的判断で不可能になった。ロシアが招かれなかったことにロシア大使は不当な政治的判断だと異議を唱えたが、米国大使やイスラエル大使らはなんらコメントしなかった。

9日の長崎の式典ではロシア、ベラルーシ、イスラエルが招待されず、パレスチナ自治区は招待された。平和祈念式典の招待国・地域の選定でこのような違いが出たのは、主催者である広島市と長崎市の政治的判断の違いによるものだ。ロシアやベラルーシと同じようにイスラエルが招かれなかったのは、ウクライナを侵略しているロシアと、ハマスからの攻撃に対して自衛しているイスラエルとを同列に置くことになり、承服できないと米欧の大使たちは出席を見送った。代わりに、駐日米大使、英大使、イスラエル大使の3人が9日東京の増上寺で催された長崎原爆殉難者追悼会に出席する茶番を演じてみせた。

ラーム・エマニュエル駐日米国大使は、イスラエルから米国に移住した医師の息子だ。CNNによると18歳まで米国とイスラエルの2つの国籍を持っていた。とはいえ、エマニュエル駐日米大使がイスラエルの立場を擁護して長崎の平和祈念式典に出席しなかったのは、彼のユダヤ系アメリカ人としての信条・道徳・情緒が影響していると考えるのは短絡である。道徳観が行動の規範になることは、個人の場合は考えられるが、国家はモラルとは関係ないナショナル・インタレストにもとづいて行動する。イスラム世界のまん中にあるイスラエルは、アメリカとそれに与する欧州国家にとって、安全保障の橋頭保であり、核武装を進めるイランをけん制するための武力配備のコーナーストーンである。炭坑の安全を確かめるカナリアのような存在なのだ。イスラエルはアメリカが断固として擁護すべき国であると歴代の米国政府は考えてきた。それをよく知っているから、イスラエルのネタニヤフ政権は米国から軍事援助をうけつつ、米国をいらだたせる身勝手な戦闘行動を行っている。

アメリカ合衆国は国内法(レイヒー法)で、人権侵害に関与している外国の軍隊に対して、合衆国政府が資金援助などを提供することを禁止している。BBCによると、イスラエル軍の部隊で違反行為が見つかったことがあるが、米国政府はその後適切な措置が講じられたとしてイスラエルへの軍事援助を続行している。

ところで、長崎の平和祈念式典をめぐる出来事について岸田首相は、イスラエルを招かなかったのは主催者である長崎市の判断であり日本政府はコメントする立場にない、と表明している。この無気力発言の背後には、平和祈念式典は地方自治体のローカルな催しであるとする矮小化の論理がある。半面、核廃絶は生涯をかけた目標であると岸田首相は公言している。

その一方で、岸田首相は米国の核の傘を何とかもっと確実なものにしようとする拡大抑止の考え方に好意を寄せている。したがって、核兵器禁止条約についは、核兵器のない世界という大きな目標に向け重要な条約だが、アメリカやロシア、中国など、核兵器を保有する国々が参加していないので、日本だけ加わって議論をしても、実際に核廃絶にはつながらないと岸田首相は言う。核廃絶は遠い将来のユートピアンの目標であり、脅しや欺瞞にみち、権力と権力がわたりあう国際政治のジャングルで国家の生き残りを測るには、今後しばらくはリアリストの外交が不可欠であると岸田首相は言う。こうした日本政府のやる気のなさにしびれを切らせて日本のNGOは政府に核禁止条約加盟を迫っている。

日本の自治体が独自に平和祈念式典の招待国を政治的に決めたのは、いわゆる「外交」が政府だけの、外務省だけの専権事項でなくなり始めていることを感じさせる。やがて被爆者追悼・平和祈念式典に日本国首相を招くか招かないかは主催者が政治判断すること――そういう未来を想像すれば、しばしの猛暑しのぎになる。

愚行は時代や場所と関係なく、政治形態とも関係がない。君主政治、寡頭政治、民主政治のいずれも愚行をうんでいる。民族や階級とも関係がない。政治は3000―4000年前からほとんど向上していない。この先も人間は光輝と衰亡、偉大な努力と翳りのまだら模様を縫ってなんとかお茶を濁してやっていけるだけなのかもしれない。そうした人間の悲しさをテーマにしたバーバラ・タックマン『トロイアからヴェトナムまで 愚行の世界史』(大社淑子訳、朝日新聞社、1987年)を拾い読みするお盆(8月盆)が近づいてきた。

(2024.8.10 花崎泰雄)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

酷暑勉励

2024-07-28 22:47:51 | 社会

ひどい暑さである。外出をひかえ、ためらわずエアコンを使って危険を避けよ、とテレビが言う。エアコンの効いた部屋にいるとやがて鼻水が垂れてくる。テレビはパリのオリンピックと、日本の高校野球地方大会、日本のプロ野球、大相撲、アメリカ大リーグの大谷のホームランシーンなどスポーツであふれている。パリは東京や大阪より少し涼しく、雨も降っていたのでスポーツ選手はそれほど暑苦しくないのだろうが、それでも柔道の選手が失神している。高速鉄道網のサボタージュや詰めかけた観戦客でパリの住人は暑苦しい思いをしていることだろう。一方で運動を避けて冷房の効いた部屋にいるようにと勧めている日本のテレビが、他方で炎天下に土煙を上げる高校野球の死闘を伝える。その結果を載せて配達されてくる新聞は湿気を吸ってふにゃふにゃだ。しばらくはPodiumを閉鎖、安静につとめる。

(2024.7.28 花崎泰雄)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

酒と煙草

2024-07-20 22:51:24 | 社会

ロンドンとパリの間を英仏海峡の海底に掘ったトンネルを通って高速列車が走る以前のことだからずいぶん昔の話だ。パリからロンドンまでエールフランスの便に乗った。ちょうど昼時だったので、客室乗務員が軽食とワインのミニボトルを配った。客室乗務員は私の席のすぐ近くの中学生ほどの子どもにもワインのミニボトルを渡した。ワインの国だなあと、恐れ入った。そのころのフランスではワインやビールは16歳以上、家族同伴なら14歳以上で飲んでよろしいという規則になっていた。

まもなくパリでオリンピックが始まるが、19歳の日本の体操女子代表選手が飲酒と喫煙を咎められてオリンピック出場を辞退させられた。「日本代表チームとしての活動の場所においては、20 歳以上であっても原則的に喫煙は禁止する」「日本代表チームとしての活動の場所においては、20 歳以上であっても飲酒は禁止とする」と定めた日本体操協会の「行動規範」に違反したのが理由だ。

とはいうものの「行動規範」は「合宿の打ち上げ、大会のフェアウェルパーティー等の場合は監督の許可を得て可能とする 」としている。監督の許可さえあればTPOに応じで飲酒可能としている。

団体行動を前提とした行事で皆でいっしょに飲む酒は問題ないが、監督の許可なしに個人として飲酒した選手は処分をうけるようである。

(2024.7.20 花崎泰雄)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

合衆国憲法修正第2条

2024-07-15 23:53:42 | 国際

「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保蔵しまた携帯する権利は、これを侵してはならない」。この条文が米国の憲法修正第2条に入れられたのは1791年のことである(『世界憲法集第3版』岩波文庫)。

1791年は日本の年号でいうと寛政3年、11代将軍徳川家斉の時代である。米国でも日本でも先込め式の単発小銃が使われていたころだ。米国で連発式の小銃が使われるようになったのは19世紀に入ってからである。

2024年7月13日の米国ペンシルベニア州バトラーで、元合衆国大統領で11月の大統領選挙の共和党候補者であるドナルド・トランプ氏が狙撃された。銃弾はトランプ氏の顔をかすめ、同氏は耳にけがをした。選挙集会に参加していた1人が巻き添えで死亡、2人が重傷を負った。使われた銃は殺傷能力の高いセミオートマチックのAR-15型ライフル。短時間に複数の銃弾を放った。狙撃者とトランプ氏の距離は100メートル以上あった。

この「7月の銃声」がこれから先の世界にどんな悪夢を呼び込むことになるのか。誰にもわからない。

トランプ氏の政治の舞台への登場が米国の分断をもたらしたのか、米国の分断を利用してトランプ氏が上昇気流に乗ったのか。歴史家の綿密な資料収集と分析が待たれる。

さて、ケネディ大統領が暗殺され、その弟のロバート・ケネディ氏も銃撃されて死んだ。レーガン大統領も銃撃されたが、負傷で済んだ。キング牧師も銃で撃たれて死んだ。ジョン・レノン氏も銃撃されて死亡した。2022年5月に米テキサス州ロッブ小学校で生徒19人と教師2人が殺された銃撃事件をはじめ、公共の場所での銃乱射事件がアメリカでは多発している。

アメリカの銃撃事件の最大の原因は銃が身近なところにあることだ。そしてアメリカ人の相当部分が、銃撃による流血と死は合衆国憲法の1791年の修正条文を尊重し維持するための犠牲であるとの考え方を受け入れているからである。

(2024.7.15 花崎泰雄)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

敵失頼みの失敗

2024-07-08 00:19:47 | 政治

退屈な都知事選挙だった。これといった哲学を持っているわけではないが、状況に合わせて身振り手振りを変えて見せる政治技術の持ち主である現職都知事を自由民主党と公明党が水面下で支援した。これに対して、自民党の裏金スキャンダルに助けられて少しばかり人気があがった立憲民主党の元参議院議員が無所属で挑戦し敗北した。

東京都の予算規模は大きいが、都知事は日本の安全保障政策や沖縄問題に影響力があるわけでもなく、日本経済の指針やもっかの円安対策を指示できるわけでもない。東京一極集中は長い期間にわたって深刻な問題であり続けているが、東京都自体ががこれといった具体的な解決方法を模索している様子はない。東京一極集中解消に動き出せば東京は東京の特別なステータスを失い始め、都知事の椅子は道府県知事のそれに毛の生えた程度のものになって行く。

そういうわけで、今回の都知事選の最大の政治効果は崩壊寸前にまで追い詰められている自民党政権への、相撲で言えば野党のぶちかましだった、蓮舫氏は参議院議員だった2009年の民主党政権で予算の事業仕分けでこんな発言をしたことがある。世界一を狙うスーパーコンピューター「京」の予算に関して「世界一になる理由は?」「2位じゃダメなんでしょうか?」

今回の都知事選挙では、現職の小池百合子氏に得票で激しく肉薄できれば、2位で十分だった。敵失で得た立憲民主党の勢いを党代表選へむけて持続させる弾みになるはずだった。

(2024.7.7 花崎泰雄)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

政権を変えられる国、変えられない国

2024-07-01 14:50:25 | 政治

互いをののしり合う老いたライオンの一騎打ち――バイデン現大統領とトランプ前大統領の双方にうんざりしている米国の有権者を「ダブルヘイター」という。日本の新聞に載っていた。失語症気味の現職と虚言癖丸出しの前職だから、ダブルヘイターの嫌悪感に同情する。民主党がバイデン大統領を説得して選挙戦から退かせる工作をしているとの報道もある。アメリカ政治の老化の兆候だが、日本で高みの見物というわけにはいかない。アメリカの政権とちかしい政権を持つ国の民は、米国の大統領選挙に投票はできないが、アメリカ人の選択の結果の影響にさらされる。

英国でも7月の下院選挙で保守党が大負けしそうだと日本の新聞が伝えている。保守党政権が退陣し、労働党政権が誕生する公算が大きい。経済的な得失より、大陸ヨーロッパとのしがらみをすて、大陸に制約されないという自尊心の方を優先した英国のEU離脱の判断の結末ともいえる。

フランスでは国民議会選挙でマクロン大統領の与党が、右翼勢力の国民連合に押されている。欧州議会選挙でフランスでは大統領与党が大敗したため、どちらかと言えば発作的にマクロン大統領が議会を解散して選挙に打ってでた。自業自得である。イタリアではすでに右翼が政権を握っている。ドイツでも右翼が勢力を強めている。若いころであれば興味津々の政治状況だが、世俗のろくでもない出来事を経験してきた身には、「明日は嵐」の天気予報を聞きながら夕暮れの空を眺める気分だ。

安倍晋三氏が首相を務めていたころ、安倍氏はしばしば外国のメディアや政治コメンテーターから右翼と言われてきた。安倍晋三氏(当時首相)は2013年2月15日、朝日新聞の記事によると、自民党本部で開かれた憲法改正推進本部の会合で講演し、「こういう憲法でなければ、横田めぐみさんを守れたかもしれない」と改憲の必要性を訴えた。米国のトランプ氏は「もし私が大統領だったとした、ロシアはウクライナに攻め込まなかった」と先ごろの選挙運動で言った。夜郎自大の発言で笑止千万だが、安倍氏の場合は横田めぐみさんを引き合いに出して憲法改正を急がせようとした。現行憲法では市民を守れない、その理由が省略されてところは、トランプ氏の法螺話と同じ作りである。

アベノミックスという言葉が存在感を失い、日銀総裁が黒田氏から植田氏に代わり、1ドルが160円という円安時代が始まった。この円弱はアベノミックスの後遺症――決定的な日本経済の沈没を象徴しているのではあるまいか。さらに、森友学園、加計学園、新宿御苑の桜を見る会、お気に入り検察官の定年延長のごり押し、内閣法制局を抱き込んでの安全保障関連の憲法解釈の変更、派閥の政治パーティー券をめぐるピンハネやキックバックなど、安倍政治の時代に日本の政治倫理は瓦解した。

都知事選のポスターが風俗営業法違反の疑いがあると警察が党首に警告する珍奇な現象が起こるような社会になってしまった。蒸し暑い梅雨の不快指数が跳ね上がっているが、これから都知事選挙の期日前投票に行って、自民党衰退につながりそうな候補者の名前を書こうと思う。

(2024.7.1 花崎泰雄)

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脱力の二重価格論議

2024-06-23 14:06:52 | 社会

姫路市が管理する姫路城の入場料を外国からの訪日客を対象に値上げするアイディアを姫路市長が公にした。朝日新聞6月23日朝刊によると「7ドルで入れる世界遺産は姫路城だけ。外国の人は30ドル払っていただいて、市民は5ドルぐらいにしたい」と市長が言った。

観光料金の二重価格である。何十年も前、北京の天壇公園へ行ったとき、入園料は「市民」と「外国人」の二重価格になっていた。この二重価格制度は中国が経済力をつけるとともに廃止された。収入よりも国際的な評判を気にしたせいであろうと思われる。また、メルボルンに住んでいたその昔、市内のチャイナタウンのあるレストランに日本語版のメニューと英語版のメニューがあり、料理の代金が異なっていることを知った。

金が欲しいのなら、「白サギ城」の2重入場料アイディアのような、そんなけちくさいことを考えないで、日本の入国税に相当する「国際観光旅客税」を引き上げればすむ。国際観光旅客税は日本を出入りする旅行者が1回の出国につき1000円の税を払うことを定めている。この金額は航空・船舶料金に含まれていて、航空会社と船舶会社が代理徴収分を国税庁におさめている。

現行1000円の国際観光旅客税を10倍増の10000円に引き上げるとすれば、ちょっとした増収になる。ビジネクラスやファーストクラスの利用者を対象に税額を上乗せすればさらなる増収が期待できる。その税金を国際観光客の急増で困っている都市に対策費として交付すればいいだけの話だ。

どこの誰が、こんなみっともない二重価格のアイディアを姫路市長に語らせたのだろうか?

(2024.6.23 花崎泰雄)

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする