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news commentary

ドバイの暗殺

2010-02-20 23:47:48 | Weblog
ひさしぶりにモサドの名を新聞の紙面でみた。国際謀略物のフィクションではCIA、KGB、SISことMI6と並ぶレギュラーである、あのモサドだ。

現代のバベルの塔ともいうべき世界最高の超・超高層ビルを建てているうちに不動産バブルに襲われたものの、なんとか完工にこぎつけたドバイで、モサドが暗殺を企てたという報道である。

パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスの武器調達担当幹部がこの1月、ドバイのホテルで殺された。その殺人事件がじつはモサドが仕組んだ暗殺だったと、さきごろドバイの警察が発表し、インターポールに犯人の手配の手続きを取った。犯人グループ17人のうち11人が手配された。殺人容疑者たちはスパイ小説の定石どおり、イギリス、アイルランド、フランス、ドイツなどの偽旅券をつかっていた。

イギリスをはじめとするヨーロッパ諸国はわが方の市民は加担していないと、火の粉を払うのに大忙しだ。イスラエルは、モサドが関与した証拠はない、というだけで、詳しいことかたらない。情報機関の活動は対外的にあいまいにする方針だ、という理由からだ。

イスラエルではハマス幹部暗殺を「よくやった」と褒めるメディアがあり、「ドジ踏んだ」と批判するメディアがあるが、ともあれモサドの行為だと受け止めている。

ハマスは例によって報復を誓っている。アルジャジーラによると、ハマス内部ではPLOがモサドの暗殺を手伝ったと、PLO批判をしている。敵の敵は味方、遠交近攻の例である。

しかし、ジョン・ル・カレの『リトル・ドラマー・ガール』をはじめとする洋物フィクションや、小谷賢『モサド―暗躍と抗争の六十年史』(新潮選書、2009年)をはじめとする内外ノンフィクション――とはいうものの、この手の話はどこまでがノンフィクションでどこからがフィクションなのか判然としないのだが――で紹介されているモサドのお手並みから判断して、今回の作戦はどうも素人っぽい。そこが、また、疑惑をよぶ。

モサドは総勢2,000人足らずのこじんまりとした諜報・特殊工作のための機関で、暗殺や破壊工作などはメトサダとよばれる特別作戦部が担当している。CIAが舌を巻く工作機関である。今回のようなドジはめったに踏まない。

そういうわけで、今回の暗殺はモサドの犯行に見せかけて、どこか他の組織がやったのではないかと噂されている――つまり、辣腕のモサドがはめられたのだ。ニューヨーク・タイムズ紙がそんな噂に言及している。ほんに、事実は小説より奇なり。次の展開が待たれる。

  石積みは二つや三つや四つ五つ六道輪廻ヨルダン川原  (閑散人)

(2010.2.20)

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