環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加について、民主党の経済連携プロジェクトチームが9日、「慎重な判断」を提言したことから、内閣総理大臣野田佳彦は参加表明の日取りを「熟慮」のため1日だけ延ばし、11月11日に記者会見で、「明日から参加するホノルルAPEC首脳会合において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることといたしました」とと語った。
「交渉に参加する」と直裁に言わず言葉を濁した首相は、記者会見で「関係各国との協議を開始し、各国がわが国に求めるものについて、さらなる情報収集に努め、十分な国民的な議論を経たうえで、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得ていくこととしたいと思います」とも言っている。
以上の文脈から判断すると、首相の言う「協議」は交渉のテーブルにつくための事前協議のことを意味するように聞こえる。そうすると、首相の言う「TPPについての結論」はTPP交渉の結論ではなく「交渉参加についての結論」なのだろうか。
これはいったいなんだろう?
関係各国への通告は、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ合衆国が国語が英語、ブルネイ、マレーシアがマレー語、チリ、ペルーはスペイン語、ベトナムはベトナム語、シンガポールは――国語はマレー語、公用語が英語、中国語、タミール語なので、何語で通告するのか筆者は知らない。
筆者としては「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」がどのように翻訳されるのか興味しんしんだ。その段階で野田発言の意味するところがはっきりとわかるだろう。ところで、「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」を額面通り米語に翻訳した場合、米国議会がそれをエントリーの申し入れと認めてくれるのかどうか。
ともあれ、国内の反対勢力に対する文言と、外国に対する文言が違い、また火種を残すことになった。そこまで脂汗を流すほどの利益がTPP交渉参加にあるのだろうか。
東アジアの経済統合に向けた計画は、①1991年のマレーシアが提案したEAEC構想、②1997年のASEAN+3、③2005年のASEAN+6があったが、④2010年に米国などが加わった第1回TPP交渉が始まった。
2002年の外務省経済局のペーパーに要旨こんなことが書かれていた。①日本にとっては、北米、欧州よりも、東アジアとの自由貿易協定がより大きな利益になる。その理由は、日本産品は最も貿易額の多い東アジア地域において最も高い関税を課されているからだ② まずは韓国及びASEANとのFTAを追求し、中長期的にはそうした土台の上に、中国を含む他の東アジア諸国・地域とのFTAにも取り組むべきである③日米自由貿易協定については、当面は、特定分野における枠組み作りや、規制改革対話等を通じた関係強化を図ることが有益と考えられる。
外務省経済局のペーパーが書かれたころから日本の首相が血相を変えてTPPに前のめりになっている現在までの間に、①中国がGDPで日本を追い抜いて世界でNO.2になった②同時に海軍力をビルドアップし海洋権益を声高に主張し、南シナ海、東シナ海、日本近海で力を誇示する行動に出るようになった③韓国が米国と自由貿易協定を結んだ④自民党政権のころと比べて、農業の衰退による農業団体の政治圧力が弱まった⑤沖縄の基地問題で米国から不興をかった――などの出来事があった。
アメリカ抜きのASEAN+3やAEAN+6の枠組みでは東アジア最強の国家になった中国の風下にたたされる。もちろんTPPではアメリカの風下に立つことになるのだが、同じ風下なら立ちなれたアメリカの方が安心だ。そういう判断であろう。
これからさきTPPがどんな経過をたどるか、成り行きはとても面白そうだ。韓国国会でいま韓米FTAの批准をめぐって野党・民主党が条約批准反対を唱えてもめている。民主党は4年前ノ・ムヒョン政権が米韓FTA条約を締結した時の与党・ウリ党の血をひいている。それが野党となった今では、条約の批准に反対している。
ポリティシャンは面白い行動にでるものだ。
(2011.11.11)