安倍晋三首相の母方の祖父は、「昭和の妖怪」岸信介である。東京裁判のA級戦犯被疑者で、アメリカの都合で不起訴・釈放され、やがて日本国の首相になった。
ティム・ワイナーの『CIA秘録』によると、岸が首相になるまでの過程で、背後にはずっとアメリカのCIAの影があった。岸の接触相手はClyde McAvoyという若手のCIA局員だった。CIAは岸を通じて、保守合同で誕生した自由民主党の操作に成功を収めた。アメリカからの資金は、信頼できる米国のビジネスマンが注入のパイプ役になった。
安倍晋三総理大臣もその一員である岸信介の親族が、著者に訂正を求めたり、名誉棄損で訴えたりしたという話は聞いていない。
CIAに操作された自民党内では、軽武装・経済発展重視の吉田茂派と、憲法改正・再軍備の鳩山一郎・岸信介派に分かれていた。鳩山は首相になったが、憲法改正には手が届かなかった。岸も首相になり、1960年の日米安保条約改定をテコに憲法改正を目論んだが、結局、安保闘争の後、内閣総辞職に追い込まれた。
岸は国の指導者にとって最重要課題は安全保障であり、自衛のためなら現行憲法下でも核兵器の保有は可能である、と言った。吉田がつくった旧安保条約では、日本はアメリカに占領されているようなものだ、とも言ったことがある。
安倍晋三首相が唱えている憲法改正、再軍備(核武装保有も否定しない)という目標は、祖父岸信介の見果てぬ夢だった。祖父が夢見た「美しい国」日本を孫の手で成し遂げてやりたいというのは、なんともはた迷惑な似非大河ドラマの筋書きである。アメリカの風下にいつも立たされている戦後レジームからの脱却というのは、これまでの自民党政治を引き継いできた、いわゆる吉田学校の流れをくむ首相たちの政治を否定的に見ているからだ。
さて、自民党は憲法第9条について、これまでに解釈改憲を行い、警察予備隊に始まり保安隊を経て自衛隊に至る、事実上の軍隊を持つことが合憲とするところまできた。防衛庁が防衛省に昇格された。安倍内閣は、歴代の内閣が憲法の変更が必要としてきた集団的自衛権を、、それも内閣の判断で可能にしようとしている。そのために、法制局長官を入れ替えた。この手法を続けてゆけば、自衛のための先制攻撃も「交戦権を認めない」とする憲法と抵触しないことになる。行く行くは、自衛のための核先制攻撃も理論上は憲法9条に違反しないという言説も持ち出されるだろう。
去年の7月に吉田茂の孫にあたる麻生太郎財務相(元総理大臣)が「憲法はある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね。わーわー騒がないで。本当にみんないい憲法と、みんな納得してあの憲法変わっているからね」と言った。
ナチスは全権委任法という手品を使ったのだが、麻生財務相の応援で意を強くしたのか、安倍首相は「白馬は馬に非ず」式の解釈改憲で、集団的自衛権の行使を実現してアメリカの要求に応えようとしている。
(2014.2.21 花崎泰雄)