1月16日の台湾総統選挙で、民進党の蔡英文が国民党の朱立倫を圧倒的な大差で破った。また、立法院選挙でも民進党が過半数を占めた。台湾は今年5月、親中国路線を進めてきた馬英九・国民党政権から8年ぶりに、独立志向の強い蔡英文・民進党政権に移る。
蔡英文と民進党の勝利を受けて、中国の国営テレビが1月20日、台湾攻撃準備をにおわすような人民解放軍の演習のニュースを流し、台湾は一時、緊張に包まれた。だが間もなく、台湾国防部が放映された映像を分析、ニュースは過去の軍事演習の映像を編集し直して放映したものであると説明した。
中国は台湾総統選と立法院選挙の結果を歓迎しないが、新たに軍事演習をすることもせず、古い映像資料をつなぎ合わせて、台湾の新政権の独立への動きに予防線を張って見せた。
中国は台湾の総統選挙を民進党が有利に進めていることで、選挙前からいらだっていた。
韓国で活躍する台湾出身の16歳の少女タレント周子瑜が台湾の青天白日旗を持っている姿が昨年テレビで流れた。そのことで、中国で批判の声が高まり、周子瑜が総統選挙の直前の1月13日、「中国は一つしかなく、海峡両岸は一つであり、私は中国人であることをいつも誇りに思っています」と謝罪した。このシーンはyoutubeで見ることができる。
これを受けて、今度は台湾で、周子瑜は中国の圧力で必要のない謝罪をさせられたと怒りの声が上がり、民進党の蔡英文主席はもちろん、国民党の馬英九主席や国民党の総統選候補者・朱立倫も、謝罪などする必要はなかったと語った。
台湾のメディアはこの事件で、親中国路線を進めてきた国民党への批判が強まり、相当数の票が民進党に流れたと分析している。
<台湾総統選確定得票>
当選 蔡英文(民進党) 6,894,744(56.12%)
朱立倫(国民党) 3,813,365(31.04%)
宋楚瑜(親民党) 1,576,861(12.84%)
米国の政権は中国を刺激しないように対中協調的な姿勢をとり、台湾に対しては独立の動きをけん制してきた。米国のこのような姿勢の下で、馬英九・国民党政権の中国接近政策が進んだ。だが、2014年の、馬政権の対中国のめり込みを批判する学生たちの立法院占拠を機に、台湾人の国民党政権に対する不満がたかまった。同時に、南シナ海をはじめとする中国の海洋進出で、アメリカの台中警戒心もまた高まり、米国は台湾に対してミサイル搭載フリゲート艦4隻の売却を決めた。
米国は「台湾関係法」(Taiwan Relations Act)によって、 米国が中国を承認したのちも、米国と台湾の関係は外交関係消滅前と同じように続く、としている。したがって、中国の台湾に対する態度しだいによって、米国の台湾派が動きを強める。それと呼応して台湾の独立派が米国との関係をそこなわないで、独立志向の動きを強める余地が生じてくる。
蔡英文民進党主席は台湾独立については慎重な言葉遣いをしているが、国共内戦に敗れた蒋介石・国民党が台湾に逃れてきて来たのが1949年末のことで、あれから60年余がたつ。
今の台湾人のアイデンティティーは、中国との一体化よりも、台湾の独自性に重きを置いている。若者ほどその傾向が強い。やがて大陸に郷愁を感じる世代は消え去り、台湾人の中国観は、人種的には中国系が圧倒的多数を占めるシンガポールと同じような中国観へと移行するだろう。
(2016.1.24 花崎泰雄)