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レーダー照射

2019-01-01 00:36:03 | Weblog

日本の海上自衛隊のP-1哨戒機が2018年12月20日の午後、能登半島沖の海上で韓国海軍の駆逐艦から火器管制(FC)レーダーを照射された。日本の防衛相がこのことを公表したことで、日韓関係はさらに気まずくなっている。

FCレーダーの照射事件はときどき起きている。2013年には東シナ海で中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦にレーダーを照射したと、日本が中国に抗議したことがある。

2016年には、日本の自衛隊機が中国軍機にFCレーダーを照射したと、中国が日本を非難した。

レーダー照射ではないが、2014年5月に東シナ海で中国の戦闘機が日本の自衛隊戦闘機に30-50メートルの距離まで異常接近したという事件があった。古くは1988年のことだが、米軍の駆逐艦タワーズが海上保安庁の巡視船を標的に見立てて砲撃演習をした事件もあった。2018年9月には、南シナ海のスプラトリー諸島付近で中国軍の艦船が米軍艦に40メートルほどの近くまで異常接近していた、と米軍当局者が明らかにした。

軍と軍の荒っぽい火遊びは日常茶飯の事であるが、多くは隠密裏に処理され、メディアにのって表沙汰になることはめったにない、と考えられる。表沙汰になるのは、事件の公表が何らかの政治的効果をもたらすというヨミがある場合だ。

韓国の『東亜日報』は社説で、「強制徴用賠償判決などをめぐって韓日関係が深刻に冷え込んでいる状況で、日本側が韓国側の行動に『他意』があったように追及することは、安倍政府が韓日関係の悪化を国内の支持勢力の結集など政治的に利用しようとする他意があるという批判を招くことになる」と主張した。

同じく韓国の『朝鮮日報』も「水面下ですぐに事実を明らかにし、再発を防ぐことができる問題が、このように大ごとになっていること自体が、今回の問題の本質なのかもしれない。今、日本では韓国を友好国と見なさないという世論が高まっているそうだ。韓国政府の反日性向は周知の事実だ」と指摘した。

安倍政権は12月18日の閣議で、新しい「防衛計画の大綱」と中期防衛力整備計画を決定した。総額27兆円をかけて、防衛の範囲を宇宙やサイバー空間にまで広げる。さらに、中国の軍拡に対応して護衛艦「いずも」を事実上の空母に改装、艦載機にもなる最新鋭ステルス戦闘機F-35Bの導入も決めた。

F-35戦闘機については1兆円をかけて100機を米国から購入する予定である。これはトランプ米大統領におもねり、今後の日米通商交渉のさいはお手柔らかにという趣旨の買物、というのが大方の見方だ。

大風が吹けば桶屋がもうかる。アメリカを喜ばすF-35の大量購入には、さしあたって日本の国民や国会に対してその必要性と緊急性についてそれなりの説明が必要になる。中国・北朝鮮の脅威に加えて、竹島から遠く離れた地点で韓国艦が自衛隊機にレーダーを照射した事件は、日本海における脅威の高まりに韓国までもが加わったと国民に訴える格好の材料である。中国・北朝鮮・韓国の3ヵ国からの軍事脅威を利用すればF-35の導入がスムーズに進められる――アメリカ一辺倒の軍事マニアック・安倍政権がそう判断して、レーダー照射事件を国防上の重大問題として演出した可能性は否定できない。その代償は『朝鮮日報』のコラムがいう「日本では韓国を友好国と見なさないという世論が高まっているそうだ。韓国政府の反日性向は周知の事実だ」という現状のさらなる深刻化である。

(2019.1.1  花崎泰雄)

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