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news commentary

サウス・パシフィックの潮騒

2022-06-01 17:21:05 | 国際

クアッド(QUAD)の会合で日本に来ていたバイデン米大統領が、5月23日の日米首脳会談後の記者会見で以下のような発言をした。

At a news conference during a visit to Japan, Mr. Biden suggested that he would be willing to go further on behalf of Taiwan than he has in helping Ukraine, where he has provided tens of billions of dollars in weapons as well as intelligence assistance to help defeat Russian invaders but has refused to send American troops.

“You didn’t want to get involved in the Ukraine conflict militarily for obvious reasons,” a reporter said to Mr. Biden. “Are you willing to get involved militarily to defend Taiwan if it comes to that?”

“Yes,” Mr. Biden answered flatly.

“You are?” the reporter followed up.

“That’s the commitment we made,” he said.

(New York Times, May 23, 2022)

 

台湾有事のさいは武力介入する、とのバイデン発言はちょっとしたニュースになった。

米大統領は24日に離日した。25日には中国の王毅外相が予定していた南太平洋諸国歴訪に旅立った。

中国は太平洋に勢力圏を拡大しようとしている。中国は太平洋上に南北3本の防衛線を設定している。第1列島線は日本の九州―沖縄―台湾―フィリピン―インドネシアを結ぶライン。この海域には南シナ海や東シナ海が含まれる。第2列島線は伊豆―小笠原―グアム・サイパン―マリアナを結ぶラインである。第3列島線はハワイ―ニュージーランドを結ぶラインである。

日米太平洋戦争の後、米国は日本の沖縄に基地を構築し、朝鮮戦争で韓国に駐留、台湾と米台相互防衛条約を結び(1980年まで)、フィリピンに米軍基地を持っていた(1991年まで)。西太平洋は、事実上米国の海となった。

一方、21世紀に入って経済力をつけた中国が軍事に資金をつぎ込み、アメリカの太平洋支配圏を東に向けて押し戻そうとしている。この試みがこれら3本の列島線である。中国沿岸部と第1列島線の間にある南沙諸島周辺で中国は海洋埋め立て工事を続け、造成した人工島で軍事基地化を進めている。今回中国外相が訪問した南太平洋の国々は第1列島線と第2列島線の間にある。中国はこれらの南太平洋の国々と安全保障面での取り決めを結びたかったが、どうやらうまく進まなかったようである。

「中国は安全保障関係の強化を含む新たな地域間合意をめざしていたが、複数の国が懸念を示し、安保分野については合意には至らなかったとみられ……オーストラリアの公共放送ABCは30日、外相会議後に取材に応じた在フィジー中国大使の発言として『太平洋側の数カ国に懸念の声があった』」と朝日新聞が5月31日付朝刊で報じた。

安全保障分野での協力をテコに中国がこの海域に海軍の基地を作ることをもくろんでいるのではないかと、オーストラリアは危惧していた。中国はこの秋に共産党大会を開く。そこで習近平総書記の3度目の選出が議論される。中国の南太平洋諸国への接近が功を奏していれば、習近平政権3期目の後押しとして役立ったはずだ。南太平洋諸国の中ではソロモン諸島だけが今年4月に中国と安全保障協定を結んでいる。アーダーン・ニュージーランド首相とバイデン米大統領が5月31日に対策を協議した。

オーストラリアもニュージーランドも太平洋に膨張する中国に不安を感じている。キャンベラの民間シンクタンク Australia Institute が2021年7月に出した資料 “Should Australia go to war with China in defence of Taiwan?” が南太平洋の中国観を示していて興味深いので紹介しておこう。

発表資料によると、2021年6月に603人のオーストラリア人と606人の台湾人を対象にしてオンラインで意見調査をしたところ、以下のような傾向がわかったという。

  • オーストラリア人の62%、台湾人の65%が中国を攻撃的な国であるとみている。
  • 中国からのそれそれの国への武力攻撃について、オーストラリア人の6%がまもなくある、36%がいつかあるという見方をし、台湾人の場合はまもなくあるが4%、いつかあるが47%だった。
  • 中国が攻撃してきた場合、国際的な支援なしに自力で防衛できると答えた人はオーストラリアで19%、台湾で14%だった。
  • 中国から武力攻撃があった場合、米国が武力介入するとみる人は、オーストラリアの場合60%、台湾人の場合26%だった。

歴史の濃淡や物理的距離が異なるオーストラリアと台湾で、現代中国に感じる不安感が同じレベルであることが興味深い。今年2月ごろ、朝日新聞が台湾人の6割が中国の武力併合はあり得ない、という見方だという世論調査結果を報じていた。中国本土と台湾は海峡を隔てて百キロ以上離れているという安心感のせいだろうか。この距離は第2次大戦のノルマンディー上陸の英仏海峡の距離より長い。半面、台湾有事の際に沖縄の米軍が出動した場合、台湾有事は日本有事になるので、米国製の武器弾薬で日本も武力を増強するときだと、声高に叫ぶ安全保障論者がこのところ日本で増えている。かつてのソ連崩壊で我々が北からの核の脅威を感じなくなったように、安全保障にはメンタルな要素がからむ。場馴れしたやり手の政治家たちは、言葉巧みに市井の民の認識を方向づけようとするのである。

(2022.6.1  花崎泰雄)

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