住んでいる団地から公園に向かう遊歩道がイチョウ並木になっている。緑濃かった葉っぱが黄色みを増している。その下を歩くとにおいを感じる。生のイチョウの実は独特の強い臭みを発生させる。
はき続けた靴の匂いといわれてきた。気象状況によって異臭の強さが変わる。路上に落ちたイチョウの実が通行人によって踏みつぶされ、そこへひと雨降り、やがて日が差し始め、地表が温まると同時に、異臭がゆらゆらと立ち上る。
東南アジアにはドリアンという木の実がある。珍味ではあるが極度のにおいを発生させるので、高級ホテルでは持ち込みが禁止されている。ドリアンの異臭については、3日間はき続けた靴下をくみ取り便所の中で嗅いでいるような感じだと言われてきた。シンガポールの地下鉄MRTはドリアンの車内持ち込みを禁止している。
その実が強い腐敗臭を放つイチョウを遊歩道の両側に植えたのはなぜなのだろうか。
遊歩道を抜けきって公園に入ると、木立の一角にキンモクセイの群落があった。嗅覚をしびれさせて悪臭を感じさせなくなるような強烈なにおいを発する黄色の花である。この強いにおいはかつて便所の臭い消しにつかわれた。キンモクセイの香りをかぐと、便所花という言葉を思い出す。
(2022.9.29 花崎泰雄)