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news commentary

喧噪の春

2023-04-16 00:58:46 | 政治

ロシアのプーチン大統領が国際刑事裁判所手配のお尋ね者になった。ウクライナの子どもをロシアに移送した戦争犯罪の容疑である。アメリカ合衆国ではトランプ前大統領がニューヨーク州の大陪審で起訴の決定を受けた。大統領選挙に備えて元愛人に口止め料を払ったなどの疑いである。日本の岸田首相が遊説先で爆発物らしきものを投げつけられた。その理由はまだ明らかになっていない。

明治以降の日本では伊藤博文から安倍晋太郎まで、7人の首相・首相経験者が暗殺されている。政治家が活動するのは権力闘争の修羅場である。権力追求は政治に携わる者の本能である。権力を握って世の中のためになることを成し遂げようとする政治家もいれば、自己陶酔のために権力を追う政治家もいる。政治報道を担う日本のジャーナリズムは、政治家たちの権力奪取ゲームを話題にする政局報道を得意とする。時々は思い出したように日本のあるべき姿を論じてみたりもするが、読者である一般人は政局報道を読みふける。

岸田政権は防衛予算の増加や敵基地攻撃能力の獲得を高言するが、先日北朝鮮が打ち上げたICBMの軌道計算を誤って、北海道に着地すると予測してJアラートを発した。また、緊急時には沖縄を防衛する陸上自衛隊第8師団の師団長らを乗せたヘリが宮古島付近の海に墜落したが、海底の機体の回収に手間取り原因の究明が遅れている。

どうもしまらない話だが、もっとしまらないのは、国会での放送法の政治的公平をめぐる高市・経済安全保障担当大臣と小西・立憲民主党参院議員の論戦だった。小西議員は政治的公平を根拠に気に入らない報道に圧力をかけようとしたとして安倍政権時代の高市総務相の言動を追及した。

参院予算委員会の審議で高市氏は「私が信用できないのなら、質問しないでいただきたい」と発言、小西氏は参院憲法審査会の毎週開催について「サルのやること」と発言し、両氏そろって評判を落とし、放送法の討議の影が薄くなった。

このような発言の背景には、国会議員である両氏が、政治問題を権力奪取ゲームの材料とみなし、問題が市民社会に与える影響を深く考える習慣から遠ざかっていることが考えられる。

日本では放送法が定めた政治的公平の判断を、政府機関である総務省にゆだねている。ヨーロッパでは国によって、その判断を独立機関に任せている。判断を独立機関にませているイギリスで、次のような事件が起きた。BBCのサッカー番組の司会者が、BBCのよって契約を解除された。司会者がボートで英国に密入国した移民らを強制的に追放する英国の新法案をナチス・ドイツをほうふつとさせるとツイッターで非難した。これに対して保守派の議員らが反発、BBCが公平性に関する指針違反と判断したという。サッカー関係者がBBCの態度に怒り、サッカー放送に協力しないとしたことで、BBCはその司会者をもとの番組に戻した。

日本の放送法は第4条で放送に政治的平等を求めている。現行ではその政治的平等を判断するのは、放送法を所管する総務省である。総務省の判断は最終的に時々の与党の判断である。政治的平等の判断は政党によって違いがある。

そういうわけで、放送法第4条の政治的平等をめぐる議論は本来、その判断を政権党の判断にゆだねることの是非を問うものであったはずだが、議論は途中で腰砕けになってしまった。米国にはかつて政治的平等を保障するための「フェアネス・ドクトリン」があったが、今では廃止されている。

(2023.4.16 花崎泰雄)

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