日本の首相の配偶者が米国の大統領の配偶者に招かれて訪米した。日本の内閣官房長官によると旅費は官費だった。
岸田首相の外国訪問に随行した秘書官である長男が、首相帰国時のお土産を買い集めていたという報道でにぎわって間もない時期だった。ホワイトハウスで茶をたてさせるための配偶者官費旅行か、というやるせない雰囲気が日本をつつんだ。
日本の首相の配偶者が単独で外国の首脳の配偶者を招待し、招かれた外国要人の配偶者が、その国の官費で単独訪日した例はあるのだろうか。
メルケル・前ドイツ首相の配偶者はフンボルト大学の教授である。妻の政治向きの旅行には同行しないことが多かった。英国のトラス、メイ、サッチャーといった前の首相の配偶者も政治の舞台に姿を見せることが少なかった。
近い将来、世界の大統領・首相のポストを男女が半々に受け持つようになったとき、某国の大統領の配偶者(男性または女性)が別の国の首相(女性または男性)を単独で招待する配偶者外交が流行するのだろうか。
そういう時代に備えて、首相配偶者の海外出張の手当や費用の税制上の処理方法などの決まりをいまのうちにきちんと整える必要がある。首相配偶者が投資マネジャー、大学教授、評論家、作家、弁護士、医者などの有職者だった場合、それらの配偶者の官費出張中の経済的損失の補填など、決めておくことは色々とあるだろう。
とはいうものの、配偶者の収入は個人差がある。配偶者の収入が首相や大統領を上回ることもあるだろう。また、収入額を推定されるような事態を嫌う配偶者は当然いるだろう。そういうわけで、一番穏当なのは、配偶者のお使いには官費でその費用を負担しないことだ。首相の外交の手足になるのが外務省をはじめとする官僚である。大勢いる。それが嫌なら、首相や大統領が自分の財布から旅費を出して好みの人材を派遣すればよい。
配偶者をともなった首脳外交は、そもそも19世紀の古典外交の名残である。
(2023.4.23 花崎泰雄)