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独裁者

2023-11-18 23:10:50 | 国際

サンフランシスコで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議を機に、バイデン米大統領と習近平中国国家主席が会談、続いて岸田文雄日本国首相と習近平主席が会談した。米中2国間の神経戦が一息つき、日中間の反目もこれ以上の拡大を抑えるという雰囲気がうかがえた。

ところが、バイデン大統領は習主席との会談後に記者会見し、記者から習主席を独裁者とよぶかと尋ねられて、「我々と全く異なる政府形態に基づく共産主義国を統治するという意味では、独裁者だ」と答えた(11月18日付朝日新聞朝刊)。ロイター通信によると、バイデン大統領は英語でこう言った。"He's a dictator in the sense that he's a guy who runs a country that is a communist country that's based on a form of government totally different than ours."

中国共産党の中央政治局常務委員会は7人で構成され、事実上、中国の政治を取り仕切っている。その常務委員会を動かしているのが習近平総書記だ。

バイデン米大統領は過去にも習近平氏を独裁者と評したことがある。TVで放映されるバイデン大統領の姿を見ると、さすがに老いは隠せず、歩行にもどこか不安定な印象を受ける。とはいえ、習近平氏を米国とは政府の形態が異なる共産主義国家を統治しているから独裁者である、という物言いにはデリカシーに欠けるところがある。米国と中国では政府の形が異なっているという程度にして(たとえば、He's  a guy who runs a country that's based on a form of government totally different than ours.)、記者の質問をかわすしなやかな身のこなしがあってよかった。とはいうもの、アメリカを始め、昨今の日本でも、習近平主席を中国の独裁者とみなす人が増えてきている。

バイデン氏は11月20日で81歳になる。アメリカの中国史の大家だった故J.K.フェアバンク教授が80歳を超えてから書き上げた『中国の歴史』(大谷敏夫他訳、ミネルヴァ書房)で、教授は次のように書き残している。

中国共産党の背後には世界の最も長く成功した独裁政治の伝統が存在している。中国は代議民主主義政治抜きで経済の近代化を成し遂げようと努力している。フェアバンク教授は1992年に出版された『中国の歴史』の序論でそのように書いた。それから30年後の2023年の現在、中国は同じ政治体制を維持し、その下で富と軍事力を蓄積した。世界政治の主導権をめぐって米国を激しく追い上げている。

そして同書巻末の「結び」でフェアバンク教授はため息まじりに次のように言う。米国は人権が何よりも必要だと中国にアドバイスすることはできるが、「しかし、我々が自分たちのメディアの暴力や麻薬や銃の産業を適切に抑制することを通じて手本を示すことができるまでは、中国に我々と同じようになりなさいと勧めることなどできるものではない」。米国の対中国説得力は1990年代から変わっていない。

多くの米国市民がこのフェアバンク教授の指摘に気づいている。だからといってバイデン大統領がフェアバンク教授風のコメントを口にすれば、支持者が離れてゆく恐れがある。「習近平は独裁者だ」という代わりに「我々と全く異なる政府形態に基づく共産主義国を統治するという意味では、独裁者だ」と持って回った言い方をしたのだ。

(2023.11.18 花崎泰雄)

 

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