こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

父と息子・その2

2016年03月19日 00時40分44秒 | 文芸
「よう覚えとけ。

昔から、

代々、

こうやって家を建てるため、

知恵やしきたりを

受け継いで来とるんや。

山の木もご先祖さんが、

今日のために

植えてくれはったんや。

次はお前らの番や。

頼んだぞ」

 孫や子のために、

伐り出した山に

木を植え育てるのは、

お前の役目や!

父は暗黙の裡に、

そう伝えていた。

 板や角材に製材するため

製材所にも通った。

仕上がったものは

天日で乾燥させる。

均等に乾かすため、

裏表を返すのが日課になった。 

・大工が入った後も、

私の作業は増えこそすれ

減りはしなかった。

あらゆる未知の仕事が

待っていた。

丸太の皮をはぎ、

チョウノではつる。

梁や床柱の用意だ。

「お前の家や。

手―抜きゃ、

ほんまに不細工な家になる。

頑張れば、

ええもんになりよる」

 作業の合間の一服する場に、

父は必ず顔を覗かせた。

茶をうまそうにすすり、

また口を開く。

もちろん

私の顔を見ることはない。

 建前を終え、

家づくりは本格的な工程に入った。

門外漢の私も、

否応なく現場に張り付いた。

早朝にたき火を準備し、

大工を迎える。

休憩で茶菓の用意もする。

その上に

大工の見習い仕事まで

こなさなければならない。

「最後まで

気を抜いたらあかんぞ。

お前の家をとことん見守るんは、

お前しかおらんさけ」

 現場に顔を見せるたび、

父はいつも一方通行的に

言葉を口にした。

それが耳に入れば、

私の緩みがちな気は

グッと引き締まった。

 二年半もかかって、

家は完成した。

その祝いの席に、

顔を真っ赤に染めた父の

姿があった。

酒をたらふく

きこしめして酔ったのだ。

普段はめったに酒を

口にしない父の醜態は、

底抜けの喜びが隠れている。

「おう。

ご苦労はんやった。

どや、

ええ家やろ。

自慢してええぞ。

そいで大事にしたれや」

 酒を注いだ息子の顔を、

珍しくまじまじと見た父は、

顔をくしゃくしゃっと崩した。

 あれから三十年近く経った。

家は、

父が口にした通り、

堂々たる風格を誇っている
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