こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ジロッと一瞥される

2015年08月08日 02時52分10秒 | 文芸
 先日、店に3ヶ月ぐらいの赤ん坊を小わきに抱えるようにして入って来た母親。注文をすると、手早く子供を長椅子に寝かせてトイレへ急いだ。
(あぶないなあ…)と思いながらも注文の飲み物を作っていると、突然悲鳴に似た泣き声が上がった。案の定、寝返りを打ったのか、床に転げ落ちたのだ。
 わたしも3児の親。反射的に飛んで行って赤ん坊を抱き上げる。
 しかし泣き止まない。ますます激しくなる泣き声はトイレにも届いているはずだが、母親は一向に出て来る気配がない。
 やっとこさ泣き止んだ赤ん坊を抱いたまま、ホッと」胸を撫で下ろしていると、やっと母親がトイレから姿を現わせた。どうやら化粧を直していたらしい。
「椅子から落ちたらしくて…」と説明しながら赤ん坊を手わすと、ジロッと一瞥された。
 無表情で赤ん坊を受け取ると、ひと言もなく席につく。
 また赤ん坊を横に寝かせ、運ばれた珈琲をゆっくりと味わう母親。おもむろに煙草を取り出すとプカプカやり始めた。
 信じられない思いで悟られぬように眺めた。
 最近はこのタイプの母親が目立って増えている。子どもへの愛情はどこかに置き忘れたように見える。
 確か動物園で育ち、親になりきれぬ動物の話をよく耳にするが、人間も例外でないということなのだろう。
 考えるだけゾーッとするのは、未だ良心が残っている証しである。その人間らしさは永遠であって欲しいと願う。
(姫路べんりちょう昭和63年10月掲載)

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