病室は明るく小奇麗だ。
娘はベッドに寝ていた。
介護福祉の仕事を
たくましくこなす娘の姿は、
そこにはなかった。
「……ご苦労さん」
精いっぱいの言葉を掛けた。
あとは妻に任せる。
病室をウロウロしたり、
ソファに立ったり座ったり。
どうも見舞いは苦手だ。
どう振る舞えば
いいのかわからず、
落ち着けない。
ちらちらと
娘の様子を窺う。
大事を済ませて、
母親の顔になっている。
また父と娘の距離が開く。
複雑な思いが募り、
ホロッとした。
一か月後。
産後初めて里帰りの娘に
抱かれた赤ん坊は、
予想以上に元気だった。
「はい。
あなたも抱いてやったら」
「あ?
ああ、
そうやな」
不意を突かれて
うろたえた。
「大丈夫?」
「あほぬかせ。
わしかて、
四人の親
やって来とるんやで」
「はいはい。
そやったなあ」
妻は軽くいなす。
負けん気をだし、
赤ん坊を受け取る。
(!)
こんなはずじゃない。
手先に緊張が走る。
不器用だから、
何かをしでかす際は
プレッシャーで固まってしまう。
まさか赤ん坊を抱くのに、
同じ兆候に
邪魔されるとは。
赤ん坊の扱いは
手慣れている……はずだ。
夫婦共稼ぎで、
子育ては二人三脚だった。
おしめを替え、
授乳も、
あやして寝かせるのも……
いっぱしのイクメンだった。
末娘を育てたのは
二十年前。
時が流れ、
まさか子育てパワーを
喪ってしまったのか?
懸命に、
そうしていることを
家族に悟られないように、
赤ちゃんを抱きかかえた。
自分でもぎごちないと分かる。
いやはや!
「不器用なんだから」
妻が言わずもがなの
口を利く。
夫唱婦随の逆をいく
夫婦なのだ。
娘はベッドに寝ていた。
介護福祉の仕事を
たくましくこなす娘の姿は、
そこにはなかった。
「……ご苦労さん」
精いっぱいの言葉を掛けた。
あとは妻に任せる。
病室をウロウロしたり、
ソファに立ったり座ったり。
どうも見舞いは苦手だ。
どう振る舞えば
いいのかわからず、
落ち着けない。
ちらちらと
娘の様子を窺う。
大事を済ませて、
母親の顔になっている。
また父と娘の距離が開く。
複雑な思いが募り、
ホロッとした。
一か月後。
産後初めて里帰りの娘に
抱かれた赤ん坊は、
予想以上に元気だった。
「はい。
あなたも抱いてやったら」
「あ?
ああ、
そうやな」
不意を突かれて
うろたえた。
「大丈夫?」
「あほぬかせ。
わしかて、
四人の親
やって来とるんやで」
「はいはい。
そやったなあ」
妻は軽くいなす。
負けん気をだし、
赤ん坊を受け取る。
(!)
こんなはずじゃない。
手先に緊張が走る。
不器用だから、
何かをしでかす際は
プレッシャーで固まってしまう。
まさか赤ん坊を抱くのに、
同じ兆候に
邪魔されるとは。
赤ん坊の扱いは
手慣れている……はずだ。
夫婦共稼ぎで、
子育ては二人三脚だった。
おしめを替え、
授乳も、
あやして寝かせるのも……
いっぱしのイクメンだった。
末娘を育てたのは
二十年前。
時が流れ、
まさか子育てパワーを
喪ってしまったのか?
懸命に、
そうしていることを
家族に悟られないように、
赤ちゃんを抱きかかえた。
自分でもぎごちないと分かる。
いやはや!
「不器用なんだから」
妻が言わずもがなの
口を利く。
夫唱婦随の逆をいく
夫婦なのだ。