こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

こんにちわ赤ちゃん・その2

2016年03月21日 05時46分43秒 | 文芸
病室は明るく小奇麗だ。

娘はベッドに寝ていた。

介護福祉の仕事を

たくましくこなす娘の姿は、

そこにはなかった。

「……ご苦労さん」

 精いっぱいの言葉を掛けた。

あとは妻に任せる。

病室をウロウロしたり、

ソファに立ったり座ったり。

どうも見舞いは苦手だ。

どう振る舞えば

いいのかわからず、

落ち着けない。

 ちらちらと

娘の様子を窺う。

大事を済ませて、

母親の顔になっている。

また父と娘の距離が開く。

複雑な思いが募り、

ホロッとした。

 一か月後。

産後初めて里帰りの娘に

抱かれた赤ん坊は、

予想以上に元気だった。

「はい。

あなたも抱いてやったら」

「あ?

ああ、

そうやな」

 不意を突かれて

うろたえた。

「大丈夫?」

「あほぬかせ。

わしかて、

四人の親

やって来とるんやで」

「はいはい。

そやったなあ」

 妻は軽くいなす。

 負けん気をだし、

赤ん坊を受け取る。

(!)

 こんなはずじゃない。

手先に緊張が走る。

不器用だから、

何かをしでかす際は

プレッシャーで固まってしまう。

まさか赤ん坊を抱くのに、

同じ兆候に

邪魔されるとは。

 赤ん坊の扱いは

手慣れている……はずだ。

夫婦共稼ぎで、

子育ては二人三脚だった。

おしめを替え、

授乳も、

あやして寝かせるのも……

いっぱしのイクメンだった。

 末娘を育てたのは

二十年前。

時が流れ、

まさか子育てパワーを

喪ってしまったのか?

 懸命に、

そうしていることを

家族に悟られないように、

赤ちゃんを抱きかかえた。

自分でもぎごちないと分かる。

いやはや!

「不器用なんだから」

 妻が言わずもがなの

口を利く。

夫唱婦随の逆をいく

夫婦なのだ。
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こんにちわ赤ちゃん・その1

2016年03月20日 00時48分40秒 | 文芸
「はい、

〇〇ちゃん。

おじいちゃんだよ」

 玄関に入って来た娘の

第一声。

顔がにやける。

娘の胸に

しっかり抱かれた赤ん坊は、

初孫だ。

それも女の子である。

目に入れても痛くないを

実感させてくれる存在だ。

「はよ上がれ。

外はまだ寒いやろが」

「うん。

ありがとう。

〇〇ちゃん、

お願い」

「ん?

お、おう。

ほな、

預かろか」

 赤ん坊を

慎重に受け取る。

まだ慣れない。

落としたら大変だ。

臆病者だから、

ふと不安に襲われる。

右の腕で頭と首を支える。

首が

まだ座っていない。

油断は禁物だ。

「ほら、

笑ってるよ」

「え?」

 娘に教えられるまで

気づかなかった。

やはり緊張している。

情けない話だ。

赤ん坊を見やると、

確かに笑っている。

ただ、

目はあらぬ方向を

向いている。

無理もない。

生後二か月に

なるかならないのだ。

それでも、

いつかは赤ん坊が

ジーッと見つめてくれる

ときが訪れると、

心待ちにしている。

 娘が出産したのは、

一月十四日。

立ち会えなかったが、

夜遅く産院に駆けつけた。

保育器に入った赤ん坊と

対面する。

「へその緒が

短かかったらしくて」

 娘の伴侶が、

なぜか

申し訳なさそうに説明する。

気にするな。

あんたの責任じゃない。

「ちょっと小さいんです。

二千四百あるかどうかで」

「ちいそう産んで

大きく育てるいうやろ。

心配せんでええわ」

 妻は新米父親の不安を

笑い飛ばした。

男には及びがつかぬ

自信に満ちた物言いだった。

「それで母親の方は

べっちょなかったんかな?」

 わたしが一番気になるのは

娘の塩梅。

出産は病気じゃないが、

万が一ということもある。

ここでも

臆病者の本領を発揮する。

「はい。

大丈夫です。

元気してます」

 小太りの娘と

痩せてスリムな婿。

実にうまく

バランスが取れている。
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父と息子・その2

2016年03月19日 00時40分44秒 | 文芸
「よう覚えとけ。

昔から、

代々、

こうやって家を建てるため、

知恵やしきたりを

受け継いで来とるんや。

山の木もご先祖さんが、

今日のために

植えてくれはったんや。

次はお前らの番や。

頼んだぞ」

 孫や子のために、

伐り出した山に

木を植え育てるのは、

お前の役目や!

父は暗黙の裡に、

そう伝えていた。

 板や角材に製材するため

製材所にも通った。

仕上がったものは

天日で乾燥させる。

均等に乾かすため、

裏表を返すのが日課になった。 

・大工が入った後も、

私の作業は増えこそすれ

減りはしなかった。

あらゆる未知の仕事が

待っていた。

丸太の皮をはぎ、

チョウノではつる。

梁や床柱の用意だ。

「お前の家や。

手―抜きゃ、

ほんまに不細工な家になる。

頑張れば、

ええもんになりよる」

 作業の合間の一服する場に、

父は必ず顔を覗かせた。

茶をうまそうにすすり、

また口を開く。

もちろん

私の顔を見ることはない。

 建前を終え、

家づくりは本格的な工程に入った。

門外漢の私も、

否応なく現場に張り付いた。

早朝にたき火を準備し、

大工を迎える。

休憩で茶菓の用意もする。

その上に

大工の見習い仕事まで

こなさなければならない。

「最後まで

気を抜いたらあかんぞ。

お前の家をとことん見守るんは、

お前しかおらんさけ」

 現場に顔を見せるたび、

父はいつも一方通行的に

言葉を口にした。

それが耳に入れば、

私の緩みがちな気は

グッと引き締まった。

 二年半もかかって、

家は完成した。

その祝いの席に、

顔を真っ赤に染めた父の

姿があった。

酒をたらふく

きこしめして酔ったのだ。

普段はめったに酒を

口にしない父の醜態は、

底抜けの喜びが隠れている。

「おう。

ご苦労はんやった。

どや、

ええ家やろ。

自慢してええぞ。

そいで大事にしたれや」

 酒を注いだ息子の顔を、

珍しくまじまじと見た父は、

顔をくしゃくしゃっと崩した。

 あれから三十年近く経った。

家は、

父が口にした通り、

堂々たる風格を誇っている
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父と息子

2016年03月18日 00時43分32秒 | 文芸
「お前の家を建てるさかい、

お前もその気にならなあかんぞ。

わかっとるな」

 ひまわり畑を前に、

父は前方を見つめたまま

吐き出した。

照れ屋の父は、

いつもそんな風に

自分の思いを口にする。

だから、

もう慣れっこの私は、

父が何を望んでいるのかを

すぐ理解する。

と言って、

私もひどく内気で、

話すのが苦手。

黙ったまま、

コクリと頷くだけだった。

それで通じる

父と息子だった。

 家の敷地は

ひまわり畑を

片付けることから始まる。

太く堅いひまわりの

刈り取りにかかる。

父と暗黙の裡に

交わした約束の実行だ。

 真夏。

汗ダクダクの中で

草刈り機を操作した。

堅い幹は

なたを使って切り倒した。

(なんで俺が、

こないしんどい目せなあかんねん?)

何度も愚痴めいた思いに

とらわれながらも、

父とのやり取りから逃れられずにいる。

あれは父と息子の堅い約束なのだ。

 数週間かかって

刈り終えたひまわりを、

畑のど真ん中に積み上げて焼いた。

煙にむせながら、

ホッとひと息つき眺めた。

「ケツ割らんとようやったのう。

けど、

これは序の口やぞ。

自分の家を建てるんや、

できることは

お前がやらなあかん。

そないしたら

家に愛着が生まれて、

そら大事に住みよる」

 やはり、

父は

高く燃え上がる炎を見つめたまま、

自分の思いを

息子に伝えようとする。

「わかっとる」

 私も父と目を合わさぬまま、

ぼそっと言葉を返した。

 畑をつぶし整地するのは

業者に任せたが、

その間に山へ足を運んだ。

父の後ろにくっついて、

立木の伐り出し作業を手伝った。

松・ヒノキ・杉……

その違いすら知らぬ私は、

父の指示を頼りに

山を駆けずり回った。

 お次は

壁の下地に使う

竹の伐り出しだった。

時期を外すと

虫がついて駄目になることも教えられた。

あまりくどいのに顔をしかめると、

目も合わないのに、

父はちゃんと察していた。
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強迫観念

2016年03月17日 01時12分40秒 | 文芸
約束の時間に

三十分は早く着くように

出かける。

ひどいときは

一時間も早く到着する。

本来いい加減な性格なのに、

時間に遅れることは、

絶対あかん!

との強迫観念は

別物だ。

 そのきっかけは、

小学校時代にある。

真面目で物静かな

『いい子ちゃん』だった私。

それも、

褒められることも

叱られることも

ほとんど記憶にないくらい

影の薄い存在だった。

 三年生のとき

初めて学校を遅刻した。

「なんで遅れたんや?」

 先生に問い詰められても、

モジモジするだけで

答えられない。

遅れた正当な理由はあるのに。

人と普通に話せないほど

内向的過ぎた。

「朝寝坊したんやな。

頭だせ」

 いきなり

額をピンと指ではじかれた。

痛かったが、

それより友達の目が気になり、

カァーッと顔が赤らんだ。

恥ずかしかった。

 二度と

あんな目にあうのは

嫌だった。

遅刻しないためには、

早く来ればいい!

そんな単純な発想が、

その後の私を支配している。
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春が匂う頃

2016年03月16日 00時44分24秒 | 文芸
寒風をついて、

あちこちに

白煙が立ち上る。

村の年間行事の

トップを飾る

畔焼きが始まった。

春を呼ぶたいまつを手に、

村の男たちは

枯草に覆われる

田畑の畔に

火を放って回る。

役員は

水をたっぷり満たせた

ジョウロを手に

、火が勝手に暴れるのを

食い止めている。

方々から作業を進め、

最後の一点に到達する。

 一番奥まったところにある

大きなため池を維持する

土手を焼き払う。

畔焼きの一大イベントだ。

土手下に並んだ男たちが

一斉に火を枯草に放つ。

火は急速に

上へ上へと走り、

風を呼び、

ほむらとなる。

炎の照り返しを身に浴び、

感慨に我を忘れ、

ただ見つめるみんな。

 作業を終え、

黒く焦げて続く

畔をぞろぞろと帰っていく。

一団の中で、

村に生きる誇りを共有する。

喜びが体にあふれる。

そして

間近に迫る春の足音を

五感に感じるのだ。

 近く畔の焼き跡が

新芽の緑に覆われる。

その上に

ツクシやワラビが頭をもたげる。

そう、

ふるさとが

春の息吹に満たされる日は近い。
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安いぞ

2016年03月15日 00時09分05秒 | 文芸
毎週火曜日。

近くの

大型スーパーの開店を

ひたすら待つ。

早朝七時だから

早起きして

車を飛ばしてくる。

眠いのはへっちゃらだ。

 数量限定の

安売り目玉の卵パックを

購入するためだ。

一日三度の安売りが、

早朝だと

並ばなくて済む。

しかも

ひとり一パック限りが

お構いなし状態。

一週間分の

十パックを買う。

 ただ

何パックも籠に入れて

レジを通るのは目立つ。

図々しさに欠ける

常識人(?)の私は、

馬鹿正直に、

一パックづつ

手にレジを通る。

そしてすぐUターン、

卵売り場へ。

それを買う卵の回数

繰り返す。

傍から見れば、

変で愚かな老人だが、

本当だから

別に構わない。

 店内で

一番奥まったところが

卵売り場だ。

レジと卵売り場の往復は、

いい運動になる。

この間測ってみれば

二千五百歩だった。

 安い卵を買って、

健康維持につながる

ウォーキングがやれる。

まさに一石二鳥。

こんなお得なことは

他にない。

 さあ!

開店だ。

足を一歩踏み出す。
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ぶつぶつ

2016年03月14日 00時42分47秒 | 文芸
13日。

老人会の総会へ向かった。

1年間務めた地区役員卒業の日だ。

明日から、

3度目の青春回帰スタートだ!

まだ60代、

このまま人生諦めてられるか。

やれることをやらなきゃ。

もう

やりたいことは限界だけど、

やれることなら可能性は無限だ。



総会を終えて、

急いで帰宅。

早速

公募ガイドを開いて、

情報を選択した。

まず

川柳を

思いつくまま

ウェブで応募。

次はエッセーだ……

勢いはいいが、

目がついていかない。

目の衰えは顕著だ。

パソコンのモニターを眺めての作業は

30分が限度だ。



今更ながら悔いる

若いころの無駄にした時間を

もう取り戻せないのだ。

それで

しょぼんとしたら

もう終わりだぞ。



さあ、

明日は

娘が孫娘を(赤ちゃん)を

連れて帰ってくる。

さて

何をごちそうしてやろうか。

さっき

チーズケーキが

これまでになく上手に焼けた。

栗原はるみさんのレシピだ

一口食べたら

さすがにうまい!

スィーツはこれでいい。

メインは……

幸せな悩みである。

まあひと眠りすれば

いい考えがまとまるだろう。



今夜は早寝だ。

とはいえ、

もう深夜の1時近い。

いつもは4時に寝る。

明日のために

早寝だ早寝だ。



それじゃ

おやすみなさい!
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黒の青春

2016年03月13日 00時14分45秒 | 文芸
 強烈に思い出す。

そして後悔の念に襲われる。

あれでよかったのだろうか?と。

「あなたの可能性と未来を

邪魔しないから」

 去る前の言葉。

何も反論できなかった。

若いからではなく、

情けない男だったのだ。

「赤ちゃんが出来た」

 と告げられた時も、

狼狽するだけ。

無責任に

われ関せずの立場を

取ったのは

未熟過ぎたから。

怖かった。

父親になる覚悟も、

あなたを妻に迎える

心準備も備わっていなかった。

「あなたは優しいの。

それでいいの」

 六歳年上のあなたが

しみじみと指摘した通り、

優しさしか

持ち合わせていなかったんだ。

 この人は駄目だと

見限られたのも

仕方はないと、

痛切に思う。

手遅れだけど。

人づてに流産したと聞いて、

ものすごい後悔に

襲われ泣いた。

好きだったんだ、

心から愛してた。

 思い出すよ、

一緒にいて

幸せで楽しかったこと。

もう一度会って、

あの日を再現したい。

今な

らあなたを

抱きとめられるのに。
 
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始まった!

2016年03月12日 01時32分36秒 | 文芸
また地上波の深夜に

外国ドラマ

HAWAI FIVE-0

が始まるぞ。

これで月曜の深夜にキャッスル

水曜の深夜にブラック・リスト

木曜はHAWAI……だ。

そして土曜日は

先週始まったヒューマン・ターゲットがある。

日本ドラマを凌駕する

面白さがすごい。

ノンストップ的な展開は

日本ドラマの

やや理屈っぽいところを

吹き飛ばしてくれて

会館さえ覚える。

その昔、

ボナンザ・名犬ラッシー・スーパーマン・バットマン……

に夢中になっていた私には

最近の

この流れは最高だ。

出来れば

ニキーターみたいに魅力的な女主人公の

活躍するドラマも放映されないかななんて

切望してしまう。

韓流ドラマも

その単純明快さがよくて

夢中になっていたが、

やはり外国の多国籍エンタティナードラマには勝てない。



この春は

日本ドラマでは

山猫しか見る気にならなかった

4月に

どんな日本ドラマが出現するか

楽しみにしているが、

さて期待に

どうこたえてくれるだろうか?
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